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呼び出されたその場所は

 西暦20xx年3月26日15:46――


 俺、田嶋亮一の死亡推定時刻だ。


 死因は線路への飛び込みによる轢死。

 自殺願望があったのか? と問われれば、ないと断言できる。


 俺は一人の少女を助けるために線路に飛び込んだ。


 世間の目は冷たいだろう。


 新しい命が生まれる。そんな知らせを受け仕事を抜け出し、帰りを急ぐサラリーマン。

 面接会場へと向かう就職活動中の学生。

 中には用事もなく帰路に着く者も居ただろう。


「自殺をするなら他人に迷惑の掛からないところでしてくれ」


 多くの人がそう思ったはずだ。かつて俺もその一人だったから分かる。


 人生に後悔なんてものはないが強いて言うなら少女の安否だろうか。自殺を図る少女を俺のお節介で助けてしまった。少女からしたら迷惑千万な話かもしれないし、思いとどまるきっかけになったのかもしれない。


 どちらにせよ死んでしまった今では、確かめようはないのだが……。


 死ぬ前のほんの短い時間に一生分の記憶が蘇るなどと言われているが俺の人生が短いせいだろうか。今までの日々を走馬灯のように思い出すことはなく、薄れていく意識の中で最後に思い描いたのは、少女のことだった。


 大学生田嶋亮一の短い人生は、この時幕を閉じた


 ――はずだった。






「成功しました。意識も戻られた様子です」


「そうか。何が起こるかわからない、そのまま防御壁の展開を怠るな」 


「かしこまりました」


 なんだここは? 確か、電車に轢かれて……。それよりも、こいつらは何だ?


「異世界からの来訪者よ。呼び出しに応じてくれたことを感謝する」


 異世界からの来訪者? さっきから何を言っている? 


「突然の呼び出しに困惑しているだろう。お主は、異世界からこの世界『アステル』に召喚されたのだ」


 おいおい、昼間から夢でも見ているのか? 漫画やアニメじゃあるまいし、まして異世界だなんて。


「お主を異世界から召喚したのは、他でもない。お主同様、この世界『アステル』に召喚された他国の異世界人を倒し、そしてこの国を救うのだ!」


 何だこれ。どこかで見た覚えのあるお約束展開は……。俺、死んだはずだよな? 電車に轢かれた事自体が夢だったのか? どちらにせよ確かめなければならない。方法は簡単だ。


 この状況が夢である事を証明する為に俺は四つん這いとなり全力で額を床に叩きつけた。


「い、いてえ!!」


 ドンっという鈍い音が大広間に響き渡り、額からはポツポツと血が流れ落ちた。どうやら、これは夢ではないらしい。であればこの場所は何だ。天国か?


「おい! どうした!? 召喚は失敗か?!」


「手順に間違いはありません! 考えられるとしたら……」


「あーいや、夢かと思ってな。正気だよ心配いらない。話を続けてくれ」


 頭のおかしい奴だと思われるのもアレなので、一応訂正しておいた。


「そ、そうか……。問題は無さそうだな。後の事はすべて私に任せ、お前達は下がっていろ」


「は、仰せのままに」


 家来と思わしき白装束の連中が大広間を後にする。王様らしき人物が若干引いてるようだけど、気付かなかったことにしよう。


「自己紹介がまだであったな。私は、ヴァレニウス王国16代目国王アルシュ=ラルドヴィアだ。お主の名は何と申す」


 国王、やはりそうだったか。完全に見た目王様って感じだったからな。それに王冠被ってるし。


「俺は田嶋だ。田嶋亮一」


「ふむ……。『タジマリョウイチ』と言ったな。もしや、日本の者ではないか?」


 国王の言い回しからして、過去に日本からの来訪者が居たってところか。


「ああ、そうだ。日本で合ってる。この異世界とやらに俺の他にも日本人が居るのか?」


「残念だがその質問には答えられない。だが居てもおかしくはないな」


 王の話によると、異世界からの召喚にはいくつかの方法が存在するらしい。現時点で確認されているだけでも、三つあるという。国を治める王による召喚、魔法使いによる召喚、アイテムによる召喚の三つだ。


「その国を治める王自らが召喚を行った場合、来訪者にユニークスキルを付与できる。既に気づいているだろうが、今回の召喚は私自らが召喚の儀を行っている」


 気づくもなにも、この状況に混乱しているんだが。どうやら俺は電車に轢かれて死んだ後、この異世界とやらに召喚されたらしい。全く信じられないが、先ほどの痛みの事もある。まぁそういうことなんだろうな……。


「ってことは、普通に召喚されるよりも優遇された召喚になるのか」


 俺の問に、王は頷く。


「何となくだが分かった。さっきの話にあった他の異世界人を倒せっていうのはどういう意味なんだ?」


「この世界、『アステル』は大陸の中央にあるロアール大森林を囲むように三つの国から成り立つ」


 大森林の南西に位置する、我が国【ヴァレニウス王国】

 大森林の北西に位置する、【ランデル公国】

 大森林の北東に位置する、【ダール帝国】


「亮一のような者を私達は来訪者と呼んでいる。ランデル公国、ダール帝国の両国は、既に来訪者の召喚を終えているだろう」


 王による召喚にはユニークスキル付与の他、ある特殊な装飾物を身に着けて召喚されるらしい。それが、今回の要だという。


 装飾物は魔具と呼ばれ、一人の来訪者が三つの魔具を揃えロアール大森林の中心部にある神殿に納めることで、どんな願いでも叶えるという。他国の異世界人を倒せっていうのは、そういう意味らしい。


 首元に何か違和感があったが、どうやら俺に与えられた魔具は首飾りのようだ。試しに手に取るが、とても人の手で作られたような代物ではないのは素人の俺が見ても分かった。


 王は話を続ける。


「私が王の座に就く以前から、この国は大きな問題を抱えている」


 王の話を要約すると、こうだ。人口は膨れ上がり、自給自足のバランスは崩壊の一途を辿る。治安も乱れた王都は、これ以上の崩壊は見過ごせないと王都を囲うように高い壁を築き上げた。王都のあるこの区画は、理想郷(ユートピア)と呼ばれ、住まう者は議会により選定された。


 外壁に追いやられていった者はどうなったのか。彼らは人間でありながら、人としての(名誉・権利・自由)が認められていない。中には他人の所有物として取り扱われる者も居る。


 そう、奴隷だ。奴隷の子もまた奴隷。この地に生まれ落ちてしまった、そんな理由だけで奴隷として扱われ一生を終える。いつしか外壁に位置するこの区画は下層区画と呼ばれるようになった。


 ヴァレニウス王国は、立憲君主制の国なのだ。この国は長い間、立憲君主制を採用している。故に、王にできることは限られている。


「私はこの国を統治する身だ。願いは唯一つ、下層区画に住まう民を私は救いたい。だがそれは公にはできない。議会が黙っていないからな。今回の召喚の表向きは、来訪者によるこの国の救済だ。理想郷(ユートピア)に住まうからといって、何もかも手に入るわけではない。今は不自由なく暮らせていても、数年後どうなるかは分からない。理想郷(ユートピア)に住まう民も、薄々ではあるが勘付き始めている。自分が下層区画に堕ちる可能性をな」


 下層区画か。要はディストピアだな。理想郷(ユートピア)とは正反対の社会の事だったはずだ。国は同じでも、社会が二つ存在しているってことだ。この国の成り立ちは、今の話でそれとなくだが理解できた。


「最初に聞かせてくれ。元の世界に戻る方法はあるのか? どんな願いでも叶える魔法みたいな奴は除いてだ」


「召喚は一方通行だ。呼び出された者がこの世界で亡くなった場合普通の死とは少し異なる。消えるのだよ。跡形もなく。最初から存在していなかったようにな。それが元の世界への帰還になるのか、死であるのかは確かめようがない」


 元の世界に未練はない。親しい友人も居らず、今では心配する家族も居ない。大学に進学したはいいがやりたい事が見つからずその道を選んだに過ぎない。あのまま大学に通い卒業したとしても、そこそこの会社に勤めて一生を終えることの想像は容易にできた。


 何にせよ、戻れたとしても俺は死んでるはずだ。であれば、俺を求める人が居るこの世界で抗ってみても良いのかもしれない。亮一は、そんな気持ちを抱きはじめていた。


「わかった。俺に出来ることは限られているだろうが、やれるだけのことはやってみよう。それで、俺にはどんな能力が与えられているんだ? 王による召喚なんだろう?」


「そうか、感謝する。戸惑うこともあると思うが後ろ盾はさせてもらう、安心してくれ。能力についてだな。視界の端にステータス欄がないか? そこで、召喚の際にお主に与えられたユニークスキルの確認ができる」


 視界の端、端と……。ああこれか。ユニークスキル『ドレイン』


 はぁ? ドレインってなんだ。あのドレインか? なんちゃらファンタジーとかなんちゃらクエストにも出てくるあのドレインなのか? 取得直後はそれなりに使うが、物語の後半強い魔法を覚えてからは使わないどころか存在も忘れてしまうあのドレインなのか! 


 ――なんかショックだ!


「ドレインか……。説明よりも体感したほうが早かろう」


 いま笑わなかったか? 俺の気のせいか?


炎弾フレイムバレット! 」


 王の頭上に複数の火の塊が現れ、一斉に亮一の元へと放たれる。突然の王による攻撃に、亮一は両腕を顔の前で組み合せ防御姿勢をとる。


「痛っ!! てかあちい!! 急に何するんだてめえ! ふざけ……」


 亮一の言葉を聞き終わる前に、王は別のスキルを唱える。


「ヒール!」


 亮一の全身を温かい何かが包み込み、火傷を負っていた箇所は瞬時に治癒され、同時に痛みも消え去る。


「よし、もう一度だ。炎弾フレイムバレット!」


 再び、王の頭上に火の塊が現れ亮一へと放たれる。


「おいおいまたかよ! あちぃ!! って……? あれ、今度はあつくねーぞ、どうなってやがる」


「それがドレインだ」


 いやわからねーよ! 澄ました顔して何を言ってやがるこの王は! よく見れば若干ドヤ顔じゃねえか! 


「なんだ、体感したほうが早いと思ったのだがな。今度は私と同じ様に、先程のスキルを唱えてみろ」


 納得はできないが、言われるがままにスキルを唱える。たしか、こんな感じだったか。


炎弾フレイムバレット!」


 王に向かって火の弾が放たれる。先程王が出したモノと比べると弱々しいものではあったが。それは確かに俺の元から放たれた魔法だった。


 少し感動。俺にも魔法が使えたってことか。ドレインっていうと、対象の体力を吸収して自分の体力や魔力に還元するような効果だと思ったが、この世界ではスキル自体も吸収できるのか。色々試してみる必要がありそうだな。


「うん? ちょっと待て。俺がこれから欲しいと思ったスキルは身をもって体感しないといけないのか?」


「そうなるな。先程のヒールも取得してるはずだ。恐れることなくスキルの吸収に励んでくれ!」


 王の話し方がだんだんフランクになってきた気がするのは気のせいだろうか。


「ステータスや魔法に関しては、それぞれの項目に関するヘルプがある。基本的な事はそこから確認できるぞ」


 おいおい、最初からそれを言えよ。なんかムカついてきたぞ。


「最後に、リョウイチの首飾りについて説明させてもらう。その首飾りは先の話にもあった通り、王により召喚された来訪者にのみ付与される魔具だ。必ずしも首飾りであるわけではなく、指輪やイヤリングと多種多様だ。魔具の効果は形状によって異なる。亮一の持つ首飾りは、呪いの類を打ち消す効果があるようだな。簡単に壊れはしないが盗難には気をつけろ。その魔具を来訪者以外の人間が身に付けたら外せないからな」


 この言葉を最後に、王城の一室へと案内された。客室だろうか。王城の一室だけあってかなり広い。装飾も高価そうな物ばかりだ。


 一人になって先ほどの出来事を思い返す。色々思うところはあるが説明もなしにいきなり攻撃はないだろう。思い出しただけでイライラしてきた。


 案内された部屋の隅に手頃なサイズであきらかに高そうな壷があったので、アイテム情報を表示させインベントリへと保管する。壷はみるみる小さくなったと思えば次の瞬間にはぱっと消え、インベントリへと収納された。仕組みが謎だ。まるでゲームみたいだな。


 まぁいい、この壺は近いうちにどこかで売り払おう。そう決めたのだった。






 王の間


 異世界からの来訪者による戦争――召喚戦争。


 召喚戦争は、今回で二度目だ。前回の召喚戦争は今から30年ほど前に行なわれた。三名の来訪者のうち、二名は生存。一名は死亡。亡くなった来訪者の魔具の所在がわからず、戦争は続行不可能とされ幕を閉じた。


 今から数ヶ月程前、ロアール大森林の管理者と名乗る者から王の元へメッセージが届いた。手紙だとかそんなものではない、頭に直接響くような方法はわからないが魔法の一種であろう。この戦争の勝利者である来訪者とその国の王が望む願いを何でも叶えてやろう。そんなメッセージだった。戦争の目的などは語られていない。語られたのは、召喚の方法、魔具の存在、与えられるユニークスキル。たった、それだけだ。


 一方的に要件を突きつけられ、こちら側の質問には一切答えなかった。説明の中で、参加する際のデメリットと管理者は言っていたが、私からすればデメリットでもなんでもない。犠牲は魔力値の高い者数人で済む。あてはある、下層区画の住人を使えばいい。彼奴らに人権なんてない。何人死のうが知ったことではない。呼び出した召喚者に関してもそうだ。亡くなろうと何の問題にもならない。元々はこの世界に存在しない者だ。仮に運良く生き残り、願いが叶えられるのであればこの戦争に参加しない手はない。


 決断してからは早かった。下層区画の幹部と繋がりのある議会の一人に連絡を入れ、魔力値の高い者を数人調達してもらう。召喚は王の間で行う必要がある。騒がれても面倒なので、目隠しと猿轡をさせその場で殺害させた。あとは、死体の血液を用いて魔法陣を描きメッセージ通りの呪文を唱えるだけで召喚できる。


 そうして召喚されたのが、田嶋亮一だ。


 見た目は、20代前半。能力値も比較的高い。それに、日本人だ。他に気になる点もある。与えられたユニークスキル『ドレイン』に関してだ。


 ユニークスキル『ドレイン』


 スキル『ドレイン』はこの世界にも存在する。対象の体力を吸い取り一部を自分の体力と変換する魔法だ。だが、ユニークスキルの『ドレイン』となると全くの別物と言っていい。私の放つスキルを吸収したのを考えると、スキル取得と同時に耐性も身に付けているはずだ。使えば使う程使用できるスキルが増え、攻撃を受ければ受ける程耐性が身に付く。戦えば戦う程強くなれるユニークスキルと言えるだろう。元々は、排出を意味するドレインだが、亮一の取得したユニークスキル『ドレイン』は、本来の姿と言えるのかもしれない。


 おそらく、吸収したスキルの統合も出来るだろう。本人が気付けばの話だが。そうなれば、魔法の概念が覆される。存在しないものを存在させてしまうことにもなるからな。


 最初は頭を床に打ち付け驚きもしたが、亮一、奴なら。




 ──私の本当の願いを叶える器になるかもしれないな。





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