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俺が異世界に飛ばされるまでのお話し act.3

 まだ、バチバチと弾ける小さな火花が俺の未来を別つその直前。

 ふと思った素朴な疑問。こんなデカイ筒状の打ち上げ花火なんて龍二はどこから持って来やがったんだ?

 真冬に花火売ってる店なんてないだろ? 普通。それとも普通じゃない店が存在してしまったのか?


「そういや、あの花火どうしたん?」


 俺は素直に疑問をぶつけてみる。龍二の方を見ると、目が合った。


「実は俺……異世界行ってきたんだよねぇ……」

「は……?」


 龍二にとってはつまらない返事だったかもしれない。

 なぜなら、龍二は視線を下の方にやって、俯き加減になったからだ。顔も今の空のように曇ってしまった。


 もしかしたら、「うわぁ! 俺も行きたかった~!」というリアクションの方がよかったのかな?

 突然そんなこと言われても、「へ~そうなんだぁ」ってならないだろ! いい加減にしろ!

 別に異世界転生もののライトノベルが好きとかそういう話しもしたことないのに、そんな冗談が出てくるとは少したまげたなぁ。


「飛ぶぞぉぉ!」


 俺が次の言葉を探していると、龍二が声を荒げて花火を指さす。

 言われるがまま咄嗟に花火を見た途端、乾いた音と共に有害な白煙が俺と龍二を包んだ。

 そして、弾道ミサイルの様な物体が筒から飛び出し、空高く登っていくのを確認した。

 なかなか物騒な花火だこと。


「あ! 昼間に花火って見えるのか!?」

「さあなぁ!」


 天気は曇りにしても昼間の打ち上げ花火ってどうなんだよ!


 花火は遙か上空で炸裂した。

 俺たちの体を爆音が突き抜ける。心臓が衝撃で破裂しそうな程だ。なんと心地よいのだろうか。

 学校全体に轟く……いや、この町の全ての生き物に届いたその音は、俺がこの場所に存在していたことを隅々まで示してやったに他ならないのだ!


「大成功だろ! これは!」

「そうだといいなぁ」


 嬉々としてはしゃぐ俺は龍二に飛び付いて肩に手を回したりする。対照的に冷静な龍二。


 さて、終わった後は片づけない。それがこの島のルール。誰が決めたわけじゃないのですけでね。


「ケーキは食えなかったけど、まだ弁当は残ってるからな」


 これから俺たちの昼休みが始まる……。何事もなかったかの様に過ごし、いつバレルかを楽しむのだ!

 ステルスゲームなのだ!


「ん……!? なんだこれは!」


 俺が校舎への入り口に戻ろうとした時、何やら紙切れの様な物が空から落ちてきた。

 まるでお札の様に空中をヒラヒラと泳ぎ漂いながら、ゆっくりと落ちてくる。

 いや、しっかりと見ればコンサートのチケットくらいの大きさでもある。


「おいおい、何がどうなっているんだ?」


 そいつは1枚どころじゃなかった。2枚、3枚と落ちてくる。

 ……いや、もっっっとだ! 数え切れない! 滝のように降り注ぐ得体の知れない紙切れに周りを取り囲まれてしまっている!

 視界がないくらいに! 龍二も見当たらない! 何がどうなっているんだ!?


「1枚だけ取るのじゃぞ!」


 龍二の声……ではなく、全く違う。

 女の子か、そうとう若い女性の声に思えた。

 俺は言われるがまま、腕を前方に伸ばして手を握る。もうこの状況では狙いを決めてつかみ取るというより、たまたま手の中に入ってきた紙切れをたまたま握るだけだった。


「よろしい」


 女の子の声が脳裏に響く。脳みその中に直接話しかけられているみたいで気持ちが悪い。

 次の瞬間、滝のように降ってきていた紙切れはうっすらと消え。俺が握りしめる1枚だけ存在していた。


 更には全てが黒で覆い尽くされている世界に飛ばされた。おれは腕を伸ばしたまま動けない。

 心臓の鼓動がはやまり、鳥肌が立つ。ただ恐怖していた。


 そうかこれは「バチ」があたったのか。くだらない事はするなって神様が言っているのか。

 普段、目立たない奴が調子に乗る必要はないって言われているのか。


 後悔だけが残った。


 とかなんとか思っていると、周りが徐々に明るくなってくる。

 その早さは少しずつ加速していく。

 元の光りを取り戻すまで時間は掛からなかった。

 俺の目も多少眩んだではいたが、やがて色を取り戻していった。


 で、目の前には少女が一人、俺の瞳を覗き込んでいる。顔と顔が近い。


「ちょっと! 今回こそは当たりでしょうね?」


 少女が喋ると吐息が俺の顔面にそっと掛かる。こそばゆいが我慢して見守る。


「おお! おめでとう! 回復魔法持ちのウルトラレアじゃぞ!」

「ほんと! やった~!!」


 少女が俺の胸に飛び込んでくるっ! なんだ? なにが起こっている!?

 女性に抱きつかれるなんて、夢のようだ。しかし、少女の髪はいい匂いだった。

 もしかしたら、死後の世界? かもしれない。まさかね……。


「おい! ひっつくな!」


 極度の緊張からか脈は上がり続け、鯉が餌を食べる姿と同じ様にあっぷあっぷして溺れかける。

 いったん少女を引き離す。名残惜しいがやむを得ない。


「まあ、急なことじゃなからの、無理もない」


 声のする方……左を向く。荘厳な冠を被り、いかにも賢そうなローブを身にまとう幼き少女の姿がそこにあった。髪は白銀で手には龍の装飾が施された杖を持っている。一目でただ者ではないと悟る。


 それに、この声質……学校の屋上で聞いた、あの声と同じだと俺は確信したのだった。

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