ありすの特技
私の名前は長谷川ありす
有住坂高校に通う2年
変わった特技を除いて
私は平凡な毎日を送っていた
青葉が彩り青々とした草原が広がる真っ直ぐな大地
「もうすぐ夏ね」
こんな都会にでも、こんな静かな場所があるなんて誰しもが思わないだろう
いや、実際には無いのだがありす自身にははっきりと見えている
書斎室の小さな棚から1つの本が落ちている、この小さな棚は幼稚園児の頃父が作ってくれたものだった
その落ちている本をよくみると、草原の中に確かに小さな人がいる
大きな木の下で、これまた小さな本を読んでいた
静かで落ち着いた、誰にもじゃまされないありすだけの時間がここにある
そうありすの変わった特技とは絵本の中に入り込むことだ
これに気が付いたのはありすがまだ幼いとき
昔からありすは家柄などで色々な大人たちが寄ってきて同年代の子と接点などなかった
さらに恥ずかしがりで人見知りの激しいありすは、あまり友達もできず、いつも本を読んでいた
大きなきなお屋敷にはいつもありすは独りぼっち
メイドさんはいつも食べきれないほどのご飯を果てしなく長いテーブルに並べる
「いらない」
これはありすの口癖でもある
富と栄誉なんてありすには必要なんてなかった
甘いお菓子やオモチャなど子供が喜びそうな物を与えても
「いらない」
と言い張る、いつの間にかありすは何処か寂しい少女に成長してしまった
だか1つありすは好きな物があった
今も昔もそれはたった一人のお友達
寂しさを紛らわしてくれる魔法の物
本があれば、ありすは十分だった
お人形やおままごとセットなんて物もいらない
だいち一緒に遊ぶ人がいないありすにとっては全く無意味だった
ただ本があれば………――
まるで子供の発想とは思えない
しかも子供が読むような絵本でも無く女の子が好きな少女マンガでも無い
ありすが好きな本は、大人だって読みたくなくなるような分厚い本
そしてある日ありすは本の横に書いているイラストに出会う
いつもなら文だけでイラストなど全く見向きもしないのだが
そのイラストにありすはただ唖然としていた
それは、あまり有名では無い物語だったがありすは一番好きな本だ、もう3回以上は読みかえしている
しかしその好きな本でさえイラストなどはチラっとみるくらい
しかし、そのイラストをよく見るとありすは深く感動した
家には有名な画家たちが描いた作品など腐るほどある
しかしこのイラストはどの有名な画家の作品だろうとありすの心の中ではこのイラストが一番だった
小さなスペースに書かれていたのは
喉かな街並みだった
車や電車などは一切ない
多分不自由な暮らしだろう
しかし、人びとの顔には笑顔が溢れていた
「この本の中に入れるのならば私はどんなに幸せだろうか」
そうありすが呟いた瞬間
「キャァッ!!!」
本がブラックホールのようになり、だんだん吸い込まれていく
早く、早く助けを呼ばなければ
しかし、夜のお屋敷には誰一人いない助けをもとめても無駄だ
ありすはどんどん本へと吸い込まれていく
「キャァッ!!!」
吸い込まれたかと思えば大きな穴へと落ちていく
とてもとても深い穴
そしてもう少し先に光が見える
きっと出口だわ
けどもぅ遅い、下に落ちれば確実に死ぬ
…………あれ??
目を開けるとそこは地面だ
痛さを感じない??
立ち上がって体を見回しても傷一つ無い
「あんな高いところから落ちたのに、おかしいわ」
きっとこれは、夢なんだわ
それでなきゃおかしいもの
周りを見てありすは、更に驚く
そう、それもそのはず、そこは一面あのイラストの景色があるのだ
夢にしては、うまくできてるわね
トンボや、鳥のさえずりまで聞こえてくる
真っ赤な夕日に包まれた街並みは、人々を暖かく照らす
あぁ、なんて綺麗な場所なのかしら??
夢なら覚めなければ良いのに
もし現実なら凄く嬉しいわ