オマケさん。
最近ハマり始めた携帯小説。
異世界トリップ?召喚?OK.OK.大丈夫。知ってる。
聖女とか姫巫女とか、勇者とか。だーいじょうぶ。テンプレ的な話は、大体読んだ。
まあ、大体が異世界に行くのはこれでもかと美とか知の恩恵を与えられた少女か少年、マイナーと言っていいか分からないが、あとは不細工、ぽっちゃり、オッサン、オバサンその他諸々が行く。まあ、大体は誰もが見惚れる美しく万能な人だ。美しい表現や万能ぶりが大き過ぎて、たまに「おらんわ、そんな人間」とツッコミたくなるが。
そんなウチも、異世界に行く切符を手に入れたようだ。別に要らんのに。
マジ望んでねェーよ!元に戻せよ!元いた場所から文明レベルも生活水準も大きく下がった所での文無し生活押し付けられて、誰が諸手挙げて喜ぶんだっつーの!ふざけんな、ボケえええェェ!!!
……と、まあ最初はそんな事を人気の無い所で叫んだこともあった。
人間、慣れだわな。慣れ。これしかないと身に沁みれば、段々と受け入れていくもんだ。まあ、たまに改善できるなら、していったけど。
◇◇◇◇
始まりは何だったか。
何か、日本とも地球とも違う異世界っての?そこから世界の安寧をもたらす巫女とやらを召喚したってのが、始まり。こっちからしたら「知らんがな!」と、言ってやりたいが。で、本命の巫女様ってのが、これまた小説に出てきそうな美少女。神様が本気出したら、こうなった。って感じの美少女。
そんな美少女が召喚される瞬間を目撃したのが、ウチ。近所の公園の側を歩いてたら、向かいからやってきた美少女の足元が光って、魔法陣っての?そんなのが出てきた。美少女も、そりゃビックリしただろう。彼女以外の人間がウチしかいなかったのも悪かった。「た、助けてください!」ってウチに向かって美少女が走ってくれば、影のようについてくる魔法陣。巻き込まれるのは嫌だ!と、ウチは背を向けて逃げ出そうとしたのに、美少女がウチの服を掴むのが早かった。
そうなれば、こりゃアレですよ。『巻き込まれ召喚』
異世界にやってきた初めは怯えを見せていた美少女。それが、見目麗しいいろんなタイプの美少年たちに囲まれ、優遇されていく。最初はウチを気遣った言動が見えていたが、次第に忘れられていく。誤解の無いように言っておくが異世界の人間たちが美少女をウチに近寄らせようとしなかったわけではなく、ウハウハ状態の美少女が単純にウチを忘れていっただけ。ああ、もうこうなりゃ美少女じゃない。微少女だ。微妙の微な!そうなりゃ、最初は巻き込まれた巫女様と同じ世界の住人……という扱いだったのが、城の人間もウチの事を忘れ、下女の一人としてしか見なくなった。
知識も銭も持ってない状態で外に飛び出すアホじゃない。それは絶対許さん!タダで転ばんのがウチや!
でもまあ、そう言いながらも元の世界でただの掛け持ちアルバイターだったウチが、いきなり内政だの無双だの働けるわけじゃない。そもそもがそんな事いきなりできる人間じゃない。しかし、いろんな職場に勤めていたウチだからこそできることはある。
外面の良い笑顔、1人1人に合わせていく会話、当番をたまに代わってあげたり、手伝ったり、休憩時間に、ちょっとしたお菓子や水を配ったり。
何だ、そんな事か。と思うなかれ。異世界といえど、同じ人間だ。価値観の相違はあろうが、胡散臭くないレベルのニコニコ顔の人間を嫌う人間は少ない。自分に同意してくれる人間に悪い気はしない。ちょっと気が利く人間から距離を置く者はいない。地道に続けていけば、年上からはまあまあ可愛がられ、年下からはそこそこ頼りにされる。人間関係って、大事だと思う。ストレス?人間関係悪くして居心地悪い思いするくらいなら、ちょっとくらいなら我慢できる。
そこから何をするか?いろんな事を教えてもらうに決まってる。この世界の事から、文字の読み書きから銭の数え方。危険人物やら、果ては城下のどこの店が流行ってるかまで。
おつかいに行くついでに、外の様子を見に行く。
何というか、中世ヨーロッパの街並み?RPGでよく見る出店や荷馬車、冒険者達や、兵士の恰好をした者達。西洋の映画村みたいなとこだ。と、そんな気分を楽しみながらおつかいを済ませれば、たまにおこづかいが貰える。微々たるものでも、塵つも山。厨房から貰った高さ90cmくらいの大きな瓶には半分以上溜まってきている。ウへへ。
盗まれる心配?それはない。実は、魔法が使えるようになった。
ホイっと掛ければ、ビャーと大掛かりな魔法じゃない。火ならライターレベル、水なら蛇口から出るレベル、風なら扇風機の弱風レベル……と、確かに使えてるけど……生活には困らなさそうだけど……と、微妙だけど気持ちを切り替えさえすればまあいいやとなれるぐらいの魔法が使えるようになった。
きっかけは、町の広場で魔法使いが披露していた魔法を見て。魔法使いの映画みたいに、ヒューン、ヒョイ。と同じ感覚で、やってみたら、できた。基礎も基本も知らないけど、車やスマホと同じ感じだった。その作りは理解してないけど、キーを回せば、電源を押せば、動く。みたいな。
こちらの世界の魔法使いは、自分の魔力を持っている杖に流し、思う通りの魔法を使うのが一般的だそうだが、ウチの場合は言葉に魔力を込めさえすれば、発動する。言霊っていうんだったっけ?
自分に魔力があったのは驚いた。多分、こっちに来たからだろうか?まあ、使えるなら何でもいい。詳しい事は知らん。
「花よ咲け」と言えば、その花は咲く。「風よ吹け」と言えば、思った通りの微風が吹く。「病(傷)よ去れ」と言えば、死ぬ間際だった重傷病患者でも徐々に治っていく。でも、ウチは大っぴらに力を使った事は無い。分かってる。こういうのって、フラグ立っちゃうもんな?大丈夫、ウチは自分が一番かわいい。魔法を使うにしても、誰にも知られないようにしてきた。
逆に、微少女は覚えた魔法をバンバン使っているようだ。誰かに言われれば、煽てられ、褒められれば「そんな事ないです……」と、バンバン使っていく。別に文句は無い。あっちが目立てば目立つだけ、ウチは安全なとこにいられる。最近ではこの国の王子と、隣国の王子とで取り合ってるって話を聞くけど、かなりどうでもいい。しかし、戦争は起こすなよ。
小市民で、大きな事をやりたがらず、自分さえ良ければいい。そんなウチは、ウチが一番納得してんだから、他人にどうこう言われる気は無い。
◇◇◇◇
元の世界でも、仕事場の人間とは仕事場だけの関係だった。こちらの世界でもそうだ。
プライベートでも呼ばれたらまあ付き合い上は行くけど、基本は放っておいてくれたら嬉しい。
「オマケ、今日のお祭り行かないの?」
「あー、はい。今日はまだ片づけ残ってますんで」
仲良くなった人間からは、ウチは「オマケ」と呼ばれている。勿論、本当の名前じゃない。
召喚から数日経った頃、王子たちがウチの事を微少女に訊いた時、「オマケ……あ、いや何でもないです!」なんて言ってしまってから、ウチの名前はオマケになった。
最初はすんげー腹立ったよ?おどれが巻き込んだくせに、オマケとはどういう了見じゃい!と。
しかし、今はそれで良かったと思っている。
この世界では、本当の名前……真名っていうの?それは本当に信頼できる人間にしか教えちゃいけないらしい。
前にも説明したウチが使える言葉から発する魔法。これを使える者もいるらしく、言霊?とかいうので真名を通して人を操ったり呪ったりできるようで、昔からこの世界では偽名を使うのが当たり前らしい。
そういえば、先日微少女から名前を聞かれた事があった。あの時はまだ言霊だの真名だの知らなかったのだけれど、いやにしつこく聞いてくるからイラッとした。
「ウチの名前は"オマケ"で結構ッすわ。アンタが、そう言ってたっしょ?」
にーっこり笑って言ってやれば、バツの悪そうな顔して、今頃巻き込んでゴメンなさいしてきやがった。遅えんだよ。
ウチは、そんな微少女の額を指で軽く突っつく。
「っ!?」
「アンタが魔法を使えるのと同じように、ウチも使えるようになった。今、何したと思う?」
「え?え?」
実際は、ただ指で突っついただけ。でも、人の思い込みってスゴいね。
魔法の存在を知っている彼女は、勝手な勘違いで何かされたと思い込んだ。
元は気が弱いんだろうね。こっちに「何をしたんですか!?」なんて言うこと無く、青い顔してチラチラ見てくるだけ。
それからは、ちょっと微少女に融通してもらうようになった。
といっても食事やら服ではなく、ウチが望んだのは知識と情報だ。
この世界の世界地図に始まり、この国や他国の詳しい地図。そして魔法に関する本。
微少女に与えられていたそれらを『貸して』もらい、知識として蓄えた。勿論、用が済めばちゃんとお返ししましたよ?
魔力の底上げ方法やら制限やらを学べば、以前はストローから流される水レベルでしか出なかった魔法が、消防車の放水レベルにまで上げられた。
微少女は、ウチに何かされたと誰かに言ってはいない。
何をされたか分からないからだ。毒に冒されたら解毒剤、切り傷擦り傷ならオ〇ナイン。と同じように、魔法も何をされたか分かればできる対処も、わからないまま思い込みやマイナスな想像だけが深く大きくなる彼女は、もし誰かに言ってしまったら……と、口も閉じてしまったようだ。
まあ、本当に指で突っついただけなんだがね。
◇◇◇◇
そして今日、この国で一番のお祭りがあるというその日、ウチは全財産を持って城を抜け出した。
十分な知識も情報も貰ったし、何よりこの城に飽きた。
今まで一緒に働いてきた人達には、簡単な書き置きだけ残してきた。まあ、最後までそういうのって大事かと思うから。勿論、するべき仕事は終わらせてある。
必要な物を買った後は、人がごった返す関所で順番待ちの荷馬車に勝手に乗り込み姿を隠し、通過した所で勝手に降りた。
「よーし、これからどうしよっかな」
電線など一本も見えない広い空、広大な平原。
RPGでよく見るその光景は、これから起こるだろう事にワクワクさせた。
自分が飽きたのは、城に居ることだけではない。
元の世界でも、変わり映えの無い仕事だったり生活だったりいろんな事に飽きてしまっていた。だから最初は怒ってはいたが、今ではあの微少女に何の恨みもない。むしろ感謝すべきだろうか?なんて考え始めている部分もある。
命の危険はそこかしこにあり、十分なお金も無く、定職にも就いてない。世間を、世界を知らない。
それでも、自分の中に湧き上がるワクワク感はそれらの不安を上回る。覚えた魔法や知識が、何とかなるだろ。という余裕を持たせた。
この世界で貯めたお金は、装備やアイテムにつぎ込んだ。
ウエストポーチ型のアイテムボックス(小)には、運が上がるというストラップが付けられ、サバイバルナイフに似た短剣をポーチと腰の間に差せば、RPGの登場キャラになったかのように嬉しくなる。
「おい姉ちゃん、冒険初心者か?」
「命が惜しけりゃ、金目のモノ置いてきな」
見るからに『賊』と名の付きそうな恰好の男達が近づいてくる。
元の世界から来た頃なら、逃げ出すか素直に差し出してただろうが、今は違う。
「(ようこそ、チュートリアル。ようこそ、経験値)」
身に付けた魔法を試すチャンスだ。
そんな風に思えば、口端は大きく引き上げられた。
(この世界に飽きるその時まで、どうぞよろしく)
登場人物
【オマケ】
掛け持ちアルバイターの二十歳越え。
熱しにくく、冷めやすい性格。
例え溜まりに溜まった怒りが爆発しても、ガーッと言いたい事を言い終わったら瞬間冷却(賢者タイム)突入。
育成ゲーだと、育てきるまでは熱心にやり込むが、育てきると途端に熱が冷める(飽きる)タイプ
【微少女】
別に悪人でもないし、善人でもない。顔以外は極めて平凡な会社員。
煽てられたり、力を持つと程々に増長し、かなり痛い目をみる〇び太タイプ。
元の世界では見た事の無い美少年美青年に囲まれ、天より高く舞い上がる。
小心者で言いたい事が言えない代わりに、妄想力や想像力が大いに育った。そのせいで、最初は使えていた魔法が、ある事をきっかけに使えなくなってしまった。
【異世界の王族】
微少女を自分達の世界に召喚した張本人。
世界の安寧を云々と言うが、他にも役立たないかな。と、美少年や美青年を使って微少女を煽て褒めて讃えまくる。豚もおだてりゃなんとやら感覚で。
最初は順調に魔法を使い出した微少女にヨシヨシと喜んでいたが、ある時一切使えなくなってしまった事に、もしかしたらもう一人の方が巫女だったんじゃないか?と考え始めている。