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啓示・終末へのカウントダウン  作者: 合沢 時
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予兆 内間敦史 2

 三島さんは、弥勒については御存じですよね。

 弥勒は五十六億七千万年後の未来に現れて、人々を救うとされている菩薩だそうです。

 僕は、弥勒菩薩という存在がいるのかどうかは知りませんけど、弥勒信仰では、弥勒が現れた時点が、世界の終わりの日だと考えられていたと思います。


 三島さんも御存じとは思いますが、五十億年後は太陽の寿命も尽きる時です。弥勒が現れるとされた五十六億七千万年後が、どのような根拠で導き出されたのかははかりしれませんが、五十億年という数字が不思議に一致してるのです。


 同じような考え方は、キリスト教やイスラム教にも最後の審判という考え方がありますよね。これも世界の終わりに、絶対的な神が心清き人々を救うという考え方です。

 必ず世界の終わりは来るという終末思想は、私たちが住んでいる地球という星にも寿命がある以上、たどり着く考え方だったと思います。


 しかし、なぜ、弥勒が現れる時が、五十六億七千万年後なのでしょうか? 


 僕は、考えたんです。遙かなる昔に、天才的な天文学者か数学者がいて、太陽の寿命を計算した。そして、その時までは、人間の社会は営まれると、希望的観測をもった。しかも、その終末の時には、超越的な力をもった者が、人間を救ってくれると。


 つまり、人間は、未来永劫、幸せが続くのだと。


 僕も、何かの本で、この弥勒思想を読んだ時、人類の明るい未来を信じました。

 何しろ、僕は霊を見る能力があったので、死んだ後も霊となって、新しい世界で生きていくことができると信じていましたから。

 まあ、実際には霊界のことは詳しくはないので、霊にも寿命というものが、あるのかどうかは分かりませんでしたけど。


 唐突ですが、三島さんは、神とか超越者とかについて、どう考えられますか?

 いると思いますか?

 僕自身は、神とか超越者などという存在には懐疑的だったので、いないと思っていました。

 しかし、霊界において、浅子をはじめとする霊たちに、啓示を与えたのは、明らかに超越者なのではないかと考えます。人によっては、その超越者のことを神と呼ぶのかもしれません。


 ただ、啓示という言葉を使いましたが、浅子が言うには、誰かが話しかけてきたわけではなく、突然、これから起こることが分かったそうなんです。

 先ほど、浅子が霊界で聞いた啓示というふうに書きましたが、聞いたという言葉も適切ではありません。例えれば、テレパシーのようにダイレクトに伝わってきたのだと思います。


 三島さんは、啓示について話すと言いながら、僕が、なかなか啓示の内容について触れないので、少し苛立ちを感じていらっしゃるのではないでしょうか? 

 実は、僕もこの文を書きながら、どのように話せば分かってもらえるのか、考えあぐねているのです。


 そうだ。先ほど、この世と霊界がすぐ側にあって、でも次元が違うから見えないという話をしましたね。

 しかし、見えてなくても、人間は霊界というものが存在し、先祖が私たちのことを見守ってくれていると感じとることが出来ていたんだと思います。

 だから、死者を弔う儀式を行って、成仏を願ってきたのだと。

 古の昔から、霊界は、私たちのすぐ隣にあって死んだ者を受け入れていたんです。肉体のある世界から、精神だけの世界への移行。そう考えたらいいと思います。


 ところが、密に隣接していた二つの世界が、なぜ、そのようなことが起こるのかは分かりませんが、あとわずか後に分断されるらしいんです。そして、この世と切り離された霊界だけが救いの場所に運ばれると。それが、浅子が話してくれた啓示です。


 はっきり言って、僕には霊界がなくなると、どのような事態になるのかは分かりません。 でも、霊界だけが救いの場所に運ばれるのだとしたら、この世に今生きている者は、超越的な存在から見捨てられたことになります。

 そして死んだ時、その霊魂はどこに行けばいいのでしょう。すでに霊界という場所が無いのですから。霊界という特殊な空間があったからこそ霊が存在できていたと考えると、もしかすると人間が宇宙服なしで宇宙空間では生きられないように、霊魂になった瞬間に本当の死が待っているのかもしれません。

 全くの無の状態になってしまう。

 いや自分の身体を構成していたものが原子に分解されるだけで無になるということは無いかもしれませんが、それでも魂、意識と言い換えてもいいでしょう。その意識が消滅してしまう、そう考えたら怖くてたまりません。


 人間が神を信じたのは、(矛盾した言い方ですが)死んだ後にもあの世で生きて、いつか救われる(天国というユートピアに行ける)と考えていたからだと思います。その救いがもう無いのだとしたら。


 超越者を神と言い換えるならば、僕たちは神に見捨てられるのです。


 三島さん、僕はまだ霊界があるうちに霊界に行こうと思います。そうしたら、浅子と一緒にいられるからです。僕にとっては、救いとかはどうでもよくて、浅子と別れたくないのが霊界に行く理由です。


 僕は霊能力があったおかげで、浅子が伝えてくれたことを、素直に理解できました。おそらく霊能力をもった人たちは、僕と同様に、この啓示のことを知るでしょう。その時、そのうちの何人かは、自分だけ霊界に行くのではなく、多くの者を連れて行こうとするかもしれません。

 残念ながら、僕はそれはできません。どんな理由があれ、僕には人殺しは出来ませんから。

 三島さん、啓示によると霊界が分断される日は、約60日後です。浅子によると、はっきりいつとは分からないそうですが、漠然と、今から60日後ぐらいではないかと感じたそうです。


 僕は三島さんに直接お会いして、この啓示のことを伝えようかとも思いました。しかし、伝えることによって、僕が自殺を計画していることを悟られ、止められはしないかと考えたのです。

 それで、僕は悩み抜いた末に、こうして手紙で啓示のことを伝えることにしたのです。

 誰かのセリフと似ていますが、信じるか信じないかは三島さん次第です。そして、霊界が存在するうちに霊界に行くのか、それともこの世にとどまるのかも。


 追記 三島さんがこの手紙を読んだ時、まだ霊界がこの世のそばにあることを願っています。

内間敦史 合掌 』


 内間の長い手紙を読み終えた時、三島は軽い疲労感を感じていた。

 内間が言っていることを信じたとしても、一介のフリーライターである自分がどう動くべきなのかも分からない。

 ただ、手紙に書かれている内容が真実かどうかをはっきりさせるために、自分が知らなかった内間敦史のことを詳しく調べる必要があることは分かった。

 手紙が届いてから、既に20日余りが過ぎ去っていた。

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