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啓示・終末へのカウントダウン  作者: 合沢 時
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究極のホラー

 究極のホラーについて


 推理小説、いわゆるミステリー小説の世界に究極のトリックというものがある。

 それはフーダニットとよばれる、犯人が誰なのかという謎で読者の興味をひきつけるものの中にある。犯人が誰であろうと、小説の中に伏線が散りばめてあれば、最後の謎解きで読者は納得してくれる。しかし、どんなに仕掛けを施しても不可能に近い犯人像がある。 ましてやそれが小説の中で行われた殺人事件の犯人ともなると尚更である。

 では、その犯人とは誰なのか。幾多のミステリー作家が挑んできた究極の犯人とは、その小説を読んでいる読者自身であるというものである。

 これを成り立たせるためには、読者に違和感を与えず、納得させなければならない。しかし、いくらアクロバティックな手法を使おうとも、やはりどこかに無理が生じてしまう。


 では、ミステリー小説の究極のトリックではなく、ホラー小説には究極のホラーというものは存在するのであろうか。


 そのことを語る前に、ホラーそのものについて考察してみる。

 世の中には怖い話が好きな者が沢山いる。ホラー映画やテレビの心霊番組、ホラー小説古典落語の怪談ものなど、ホラーを扱ったものは枚挙にいとまがない。怖いもの見たさという言葉があるが、まさにそれである。もちろん、私はホラーなんて絶対見ないという人たちもいる。しかし、今回は見る方の人たちについて述べる。

 では何故、わざわざ怖い思いをすると分かっているのに人はそれを見るのか。

 私が思うに、彼らは自分たちが住んでいる場所とは別の場所に、何者かが潜んでいるということを実感したいのではないかと考える。幽霊であっても魔物であっても、自分が生きている世界とは別の世界に生きている住人を見ることによって、今生きているこの世界が全てではないのだと安心したいのだ。

 例えそれが、つくられたものであっても、疑似体験の中で怖い思いをしながら、その安堵感を求めているのだ。

 これはあくまで私の私見であるから、異論はあるだろうがご容赦願いたい。


 本題に戻ろう。


 ホラー小説においては、読者が小説を読んでいる間は、読者は自分の想像力を駆使して疑似体験をしている。だから、読み終わった後は、自分には何も危害が及ばないことを読者は知っている。「ああ、怖かった」で済むのである。

 前に一度、それをくつがえすような小説を読んだことがある。その小説のネタバレになるので詳しく述べることは出来ないが、ある媒体を通じてのみ伝わっていた呪いが、その形態を変え、小説を読んだ者に呪いがかかるということを暗示して終わっていた小説である。

 私は、その小説を読んだ時に、作家の巧さを感じつつ、自分が呪われるかもしれないという微かな期待感を持っていた。ただし、7日後に何も起きなかったが。

 

 以上をふまえた上で、私が考える究極のホラーの定義を述べる。

 私が考える究極のホラーとは、読者が小説を読み終わった後に、それが疑似体験などという生やさしいものではなく、小説で語られた続きが、読者自身に引き継がれるというものである。つまり、読者が当事者となってしまうわけだ。

 この究極のホラーを成立させる手段としては、色々考えられる。

 まず一つ目の手段として、小説の発行部数を極力少なくして、例えば一つの書店でのみ販売して、買った客の素性を調べ上げて、脅しにいくというもの。これは、究極のホラーを成立させることは出来るかもしれないが、これを行えば犯罪であるし、虚しいだけである。

 二つ目の手段としては、呪術に長けた者に頼んで、小説に呪いをかけておくことである。しかし、そのような呪術が出来る者を探し出すことは困難であろうし、また運良く見つけ出すことが出来たとしても、不特定多数の者を呪う手伝いをしてくれるはずがない。

 三つ目以降は簡単に紹介する。いずれも欠点があるが、あえて説明しないので、そこは考えてもらいたい。

 三つ目、心霊ツアーの招待券を巻末につける。

 四つ目、読後のアンケートを送ってくれた者に、「緊急なお知らせ」を送る。

 五つ目、今世間を騒がしている殺人鬼の柿田善然が殺しまわっている相手が、この小説を買った者たちだというデマ情報を発売後に流す。


 私もホラー小説家のはしくれとして、色々と究極のホラー小説について思考してみたが、これといって良いアイデアは浮かばなかった。

 今では、これを読んだどなたかが、究極のホラー小説を完成させてほしいと願う次第である。


                               ホラー小説作家 山村 風尾

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