第八話 夢はほのぼの異世界ライフ
狼の名前もかなり適当。あまり重要ではないので覚えなくて大丈夫です。
狼は寝ている間に自分が動いたことに驚いているようだった。
目を見開き、呆然と突っ立っている。
興奮の冷めない俺はその様子を見てさらに気が良くなってくる。
「マジでいけるとは、こりゃいい! この狼を殴る日も近いぞ!」
そうと分かればもう一度! と狼の体にタックルをかます。
狼を突き抜けひっくり返った俺は呟く。
「……あれ? どうやって入ったんだろう、俺」
乗っ取り手順を思い出しているとき、狼の表情が変わった。
4つの耳をぴんと立て、目を細める。
狼はまる2日動かなかった池を離れ、森の奥へと走り出した。
狼の纏う空気が変わり、思考を中断した俺は辺りを見渡す。
「また食い物……じゃあないな。なんだろ?」
(そういえば狼に乗り移っていたとき、遠くで何かの足音が聞こえたような……)
駆ける狼は徐々にスピードを増し、風景が恐ろしい速さで流れてゆく。
置いて行かれそうになるクロちゃんを握り、俺も狼にへばりついた。
どのくらい走っただろうか。
何かを見つけた狼が渾身の力を込めて地を蹴った。
木々を抜け、開けた道に躍り出る。
俺が道に何がいるのかを認識した時、狼はすでに獲物を1匹仕留めていた。
狼の足の下で、首を嚙み千切られているのは人間だった。
「たっ、隊長ぉ!」
「こんなところに出てくるとはっ」
「あれってもしかして……アージェンルーヴか!?」
「右目の傷……まさか独眼!? くそっもっと西にいるんじゃなかったのか!」
俺の足元にいる狼は咥えていた首を兜ごとかみ砕くと動揺している小隊に突っ込んでいく。
疾風のごとく人の間を駆け抜ける。
狼に引っ張られる俺は、目まぐるしく変わる風景と爆ぜ散る血肉に気分が悪くなる。
頭の中で声が鳴り響いた。
許さないゆるさないユルサナイ!
その時、ひんやりとしたものが目を覆う。
「……ありがとう、クロちゃん」
頭の中で響いていた声がだんだん小さくなる。
「もう、大丈夫。助かったよ」
そう言ってクロちゃんの手を外す。
狼による虐殺はまだ始まったばかりだ。
この後、登場人物紹介を置いて今日の更新は終わります。