第七話 幽霊の本領
乗り移ってるときの描写が難しい……
強い日差しに目を細める。
俺の足元には狼が丸まっている。日中はいつもおとなしい。たぶん寝ているのだろう。
大きな6本足のウサギを食べてから丸2日ほど経つが、ほとんど動いていない。
そのおかげか、傷はだいぶよくなったように見える。
(にしてもこいつの回復能力は異常だな……
もしくはこの世界の生き物が屈強なのか?)
日を浴びてきらきらと光る銀の毛並みを眺めながら考える。
(……なんか暇だな。)
俺の隣で風に揺られていたクロちゃんの手のひらをふにふにといじる。
「クロちゃん先輩。何か幽霊にできることって、ないんでしょうか」
クロちゃんは無言で俺にいじられるままになっている。
(まぁ、口がないし、しょうがないか)
俺はクロちゃんを解放し、狼に近づく。
(俺ってこいつにとり憑いてるんだよな……
体、乗っ取ったりって、できないかな?)
つややかな毛皮に手を伸ばす。なんの抵抗もなく腕が埋まっていく。
――ただ、それだけだった。
「うーん。やっぱこんなんじゃだめか」
次に狼の体に重なって寝っ転がってみる。
「……なんかやだな」
横にごろりと回転して狼の体から離れる。
腕に顎を乗せ、狼の顔をのぞき込む。
すらっと長い鼻梁(狼だから当たり前か?)で、なんだかかっこいい狼の顔には目立つ傷がある。
右目の切り傷は古いもののようだ。
その傷を見ていると、急に眠気が襲ってきた。
視界に白い靄がかかった。
視界を緋色が塗りつぶす。鈍い光が走る。
右目が熱い。
苦しい、悔しい。
ニンゲンが憎い――
無意識のうちに手に力が入る。そこで手に違和感を覚え、視線を下げた。
視界に入った手は銀色の毛でおおわれていた。
(え? これ……)
手だけじゃない。鼻にくる濃厚な土のにおいと、彼方から聞こえてくる足音を拾う耳――
(俺、狼に……)
驚き、とっさに立ち上がろうとして体に鈍痛が走る。
「――っい!」
気が付くと俺は狼の頭の上でひっくり返っていた。
クロちゃんが俺の頬をなでてくれる。
ひんやりとしていて気持ちいい。
「今のって、俺、乗り移ってた?」