第六話 ぅゎおおかみっょぃ
今日はまだもう少し更新します。
霊体の俺は俺の肉体から離れられない。
つまり、俺の肉体を食べたこの狼から俺は離れられない、ということだろうか。
のそのそと歩く狼の上を漂いながら考えた俺の意見に物申す人はいない。
嬉しいことに一緒について来てくれている黒い手もといクロちゃん(勝手に命名)は喋れないからだ。
そしてクロちゃん以外で俺を認識してくれる奴にはまだ出会わない。
俺の下を歩く狼を見る。
俺の目の前で俺(の肉体)を食いやがったこいつにはあまり良い感情が抱けない。一発殴りたい。
(……だけど)
茂みを抜け、少し開けた場所に出る。
小さなため池だ。昼間なのに蛍みたいな光がふわふわしている。
澄んだ水で喉を潤した狼は茂みに戻り、しゃがみこんだ。
目をつぶっている。寝てしまったのだろうか。
俺は辺りを見渡す。
俺の肉体が埋まっていたところより深い森の中だ。
埋まったままでは見ることのできなかった風景に目を奪われる。
豊かな自然と青い空は地球で見ていたものより美しい気がした。
自分はずっとインドア派だと思っていたが、アウトドアもいけるのかもしれない。
少しワクワクしている自分がいることに気が付いた。
「クロちゃんが隣にいてくれるからだな!」
クロちゃんのひんやり気持ちよい手を握り、ぶんぶん振り回す。
狼、断じてお前のおかげではないぞ、と念を込めて狼に視線を送る。
ぴくっと狼の4つある耳のうち1つが動いた。
狼はゆっくりと目を開け、池を挟んだ反対側にある茂みの奥を見つめる。
俺も目を向けしばらく経った。
茂みが揺れ、ウサギのような生き物が現れた。
俺がその生き物のでかさと足の多さに驚いているとき、狼は行動しはじめた。
茂みに隠れつつゆっくりとウサギ(?)の背後へ回り込んでゆく。
ウサギは長い耳をピンと立て、あたりを確認すると池へと近づいた。
(……この狼、あんな耳のでかいウサギに気づかれないなんて、実はすごいやつなのか?)
俺が感心しているうちに狼はウサギの背面10mにまで距離を詰めていた。
ウサギが水を飲む瞬間を狙い、茂みから飛び出す。
狼は大跳躍で瞬く間にウサギの真上へとのしかかった。
狼の長い脚が大型犬ほどあるウサギを押さえつける。
ウサギは6本ある足を動かし抵抗を試みるも、狼の牙がウサギの首へとかかるほうが速かった。
ウサギは動きが鈍くなり、ついに動かなくなった。
元の茂みへと戻り、ウサギをがつがつと食べる狼を見て、俺は思った。
(生きてる時にこいつと出会わなくてよかった……)