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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
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第四十六回 旅立ちの地下

「え、あ! ク、クロちゃん! 手がっ!」

 慌てる俺に反して白いクロちゃんは呑気に「わぁ、お揃い!」と手が無くなった腕をこちらに見せてくる。

「いや、待って! 動かない方がいいって、それ!」

 当の本人である白いクロちゃんは首をめぐらし、全身に広がるひび割れを楽しそうに眺めている。

「……平気なの? 痛くはない?」

「うん。こうなるって予感はしてたから。だって私、ユヅキ様が勇者してる頃に生きてた人間だったの。本当だったらもうとっくに朽ちてるはずだったから」

「そんな」

「大丈夫。体が崩れるだけ……だから」

 とそこで白いクロちゃんが言葉を切った。

 白いクロちゃんの様子に気づいてイーサン達が走って来たのだ。

「シロちゃん君、大丈夫かい!?」

 イーサンが体の崩れていく白いクロちゃんに話しかけた。

「サクラギ君! 回復魔法をかけてやってくれないか!」

 意識が戻ったサクラギが少し不安そうに白いクロちゃんに近づいた。

 その様子を見てイーサンが説得する。

「大丈夫。シロちゃん君は魔王に操られていただけの子だ。もう危害は加えてこないだろう」

 イーサンの言葉を聞いて、サクラギが白いクロちゃんに回復魔法をかけようと近寄るが、白いクロちゃんがそれを止める。

「いい。体が壊れるのは仕方ないし、それに私、回復魔法も飲み込んじゃう。そっちの人にかけてあげて」

 白いクロちゃんはサクラギの後ろの、カンダに肩を貸してもらっている世川を見ながら喋った。

 世川は白いクロちゃんの視線から何かを感じ取ったのか、深くうなずくとゆっくりと話しかけた。

「操られていると知らずに戦って済まなかった。そして、ありがとう。君は僕の仲間を助けてくれたんだよね」

 世川の言葉にシロちゃんは嬉しそうに頷いた。

「シロちゃん君、君のおかげで私は夢へと大きく近づくことができたよ。完璧な使役獣が作れた暁には君の名前を借りてもいいかな?」

 イーサンの問いによくわからないなりにも頷くシロちゃん。そして、幸せそうな顔をしたまま、白いクロちゃんの体は完全に崩れた。



 白いクロちゃんを構築していた残骸の上に半透明のクロちゃんがたたずんでいる。

「……クロちゃん」

 俺は俯いて自分の体だったものを見つめる幽霊のクロちゃんに声をかけた。

 こちらを向いたクロちゃんは小さくはにかんでいた。

「私、今までずっと自分はいらない子なんだって思ったの。だけど、私、皆の役に立ててたみたいで、嬉しかった。いらない子じゃないんだって思えたから!」

 胸の前で小さな拳を握ったクロちゃんは、嬉しさのあまりか、こちらに詰め寄ろうとしたが、何かに上から押されたように、急に地面に倒れた。

「大丈夫!?」

 慌てて駆け寄ると、「あぁ、忘れてた……」と呟くシロちゃんの声が聞こえた。

 顔を上げ、こちらに向けられたクロちゃんの顔はとても悲しそうに歪んでいた。

「私、沢山の人の気持ちを飲み込んできたから、体が重たいんだった。うっかりしてた。あぁ、でも気にしないでね! ずっとこうだったから。大丈夫。そうだ、あなたは、あなたを捉えていた核が無くなったから、やっと自由に動けるんだよね。よかった」

 クロちゃんはぎこちない笑みを浮かべる。

 その笑顔見て、俺は胸が苦しくなった。

(違うよ、クロちゃん。君は笑顔が似合うけど、そんな笑顔じゃない!)

 俺は息を吐き出すと、笑顔を作り、話しかける。

「うん、ありがとう。ずっとなりたかった浮遊霊になれたよ。これで夢だった異世界物見遊山ができる」

 俺はクロちゃんの真正面に立った。

「だけど、きっと一人じゃつまらないと思うんだ。同行者がいると嬉しいな」

 顔を曇らせるクロちゃんに手を貸してくれるようお願いする。久しぶりに俺の右手、左腕にクロちゃんたちが収まった。

「ありがとう。じゃあ、ちょっと失礼」

 俺は断りを入れると、クロちゃんの背中、膝裏に手を差し入れ、体に引き寄せると立ち上がった。

 クロちゃんの華奢な体は俺の貧相な体でも軽々と持ち上げることができた。

「やっぱり! 全然重くないよ! むしろ軽すぎだぜ、俺がお姫様抱っこできるし!」

 俺はクロちゃんを抱えたまま、その場でくるくると回ってみせた。

「えっ、な、なんで!? どうして!?」

「はは、なんでって、クロちゃんくらい細くて、重たいわけないって!」

 いつもより近い位置にあるクロちゃんの顔に笑いかけていると、後ろから低い声が聞こえてきた。

「そういう意味では……はぁ、何度言ってもわからぬのだろうな。まぁ、念を認識できなければ重さも感じることはない、か」

 振り返るとギンがあきれ顔でこちらを見ていた。

「あれ? お前まだいたんだ。成仏しないのか?」

 俺の問いにギンが顔を背けた。

「できたらしておる」

「そうか。難儀なことで」

 ギンが渋面になる。

「……まぁ、お前は好きにしたらいいんじゃないか? それより、クロちゃん」

 俺はクロちゃんと視線を合わせる。

「俺と一緒に旅をしてくれないか?」

 俺の決死の告白にクロちゃんは今までに見たことのないような柔らかい笑みを浮かべた。

「うん!」




「よし、行こう! クロちゃんは行きたいとこある?」

「私は、あなたが連れて行ってくれるとことなら、どこでもっ」

「そっか、じゃあ、どっかの街にいってみたいなぁ。あ、そうだ。おい、ギン。お前も寂しかったらついてきていいんだぜ」

「ふざけるな。誰がお前なんぞについてゆくか。守りはもう沢山だ」

「なっ、お前!」


 少年の声と共に少女の静かな笑い声が崩れかけの地下に響いた。


本編はこれにて終了となります。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

今日中にエピローグも上げますので、よろしければそちらも。

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