第四十五回 シロちゃん
ギンは俺の頭を転がし飽きたのか、俺の頭を体から遠く離れたところに放置する。
「お、おい! 待て! 首放置しないで! 体のところに戻してくださいぃ!」
俺の悲痛な叫びを背にギンはどこかへ行ってしまう。
ちくしょう、あの野郎……と恨みを募らせていると、フジさんが近寄って来た。
「君たち、相変わらずね」
そう言って俺の頭を拾おうとしてくれたが、延びてきた黒い手が俺の頭を抱える方が早かった。
黒い手が白いクロちゃんの元へ俺の頭を持っていく。
白いクロちゃんが心配そうに俺を覗き込んだ。
「大丈夫……なの?」
「あぁ、何か大丈夫みたいだよ。さっきは魔王からかばってくれたし、頭も拾ってくれてありがとう。助かったよ」
俺が笑いかけると白いクロちゃんは安心したように表情を緩ませる。
しかし、俺の後ろを見ると、素早く俺の頭を引き寄せ、かばうように体の後ろに隠した。
白いクロちゃんに近寄って来たフジさんは、白いクロちゃんの態度に少し悲しそうに眉尻をさげると、白いクロちゃんに視線を合わせるためにその場にしゃがみこんだ。
「あなたには謝っても謝り足りないほど酷いことをしたわ。でも、ごめんなさいって言いたいの。ユヅキを狂わせたのは私……ユヅキがあなたに聖剣を入れたのも、本を正せば私のせいだわ」
そう言うと白いクロちゃんに向かって深々と頭を下げた。
頭をさげられた白いクロちゃんはおろおろすると慌てて自分も頭を下げる。
頭を上げたフジさんは白いクロちゃんの様子を見ると目に涙を浮かべて少しだけ口元を緩めた。
シロちゃんは前髪の合間からフジさんをうかがうと、ゆっくりと頭を上げ、口を開いた。
「あなたが、ユヅキ様の言ってた人だったのね。よかった。もうユヅキ様の寂しそうな顔を見なくていいんだ。あなたは早くユヅキ様の元へ行ってあげて」
白いクロちゃんの言葉に目を見開くフジさん。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
フジさんは光の粒子を散らし、宙に溶けて消えた。
「フジさん、行ったのか」
フジさんが先ほどまでいた場所を眺めていると、白いクロちゃんが思い出したように声を上げた。
「そうだった。体のところに返してあげるね」
白いクロちゃんは俺の頭を抱えた黒い手を俺の体のところまで伸ばす。
「つながるかな……」
そう言ってゆっくりと俺の頭を首の上にのせると、黒い手が千切れた首に巻き付いて固定してくれた。
「くっつけ、くっつけ、くっつけ……」と念も送ってくれる。
そのけなげな姿に、ここで首を繋げなければ男ではない、と気持ちを奮い立てた。
「治れ治れ治れ~!」
俺もしばらく念じた後、今まで無かった下半身の感覚が戻ってきていることに気が付いた。
「治った……?」
恐る恐る足を動かし、空中であぐらをかく。
「やった! 動いた! ありがとうクロちゃん!」
残っている右腕を広げ白いクロちゃんに走り寄る。
クロちゃんも嬉しそうに黒い手を俺から離した瞬間、俺の頭は首から落ち、動いていた自分の足に蹴られ、あらぬ方向に転がって行ってしまった。
いろいろと試した結果、どうやらクロちゃんの黒い手で固定されているときだけ首が繋がっていることが分かった。クロちゃんは嫌な顔一つせず、俺の首を固定してくれる。本当にとてもいい子だ。
俺は白いクロちゃんに近寄ると声をかける。
「お疲れ様。クロちゃんには本当に助けられたよ」
白いクロちゃんはスカートを握ると俺の目を見つめてきた。その形のいい唇を震わせながら俺に問いかける。
「私は、ちゃんと役に立てた? 私がいても邪魔じゃなかった?」
「もちろん! クロちゃんがいなかったら、どうにもならなかった。全部、クロちゃんのおかげさ。ありがとう」
俺の言葉に白いクロちゃんが満面の笑みを浮かべた。
「よかった」
そうこぼした白いクロちゃんの滑らかな頬に亀裂が入った。
「あ、れ? クロちゃ――」
その亀裂は白いクロちゃんの腕を走り、白いクロちゃんの白魚の様な指を砕いた。




