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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
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第四十四回 フジさん

 フジさんっぽい魔王は先が三つ又に分かれた槍を出現させると、黒い手に切りかかった。

 しかし、槍が黒い手に触れた瞬間、そこから槍が黒く変色し、黒い手の中に沈んでいく。

 慌てて槍を離したフジさんっぽい魔王は顔を歪めると何かを叫ぶように口を開閉するが俺には聞こえなかった。

 次にフジさんっぽい魔王が大きく息を吸い込み、白いクロちゃんに向かって火炎を吐き出すが、それを白いクロちゃんは黒い手で包み込んだ。火炎を飲み込んだ黒い手は何事もなかったかのように再び白いクロちゃんの元へと戻る。

 その後、フジさんっぽい魔王が何度も白いクロちゃんに向かって攻撃を繰り出すが、そのすべてを黒い手が防ぎ切った。

「おお! クロちゃんすごいぞ! めっちゃ強いな!」

 俺が声をかけると白いクロちゃんは嬉しそうにはにかむ。

 やっぱりクロちゃんは笑った方がいいなと考えていると、後頭部にものすごい衝撃が走った。

 いつの間にか背後に回っていたフジさんっぽい魔王が拳を振り抜いた姿が見える。

 なぜ、背後がこんなにがっつり見えるんだと視線をずらすと、隣で首のない(ついでに右手と左腕のない)学ランを着た体が倒れる光景が目に入った。次いでゴトンと頭に音が響き、視界が大きくぶれる。

「え? あれ? 天井がめっちゃ高く見える……」

 あまりの衝撃に呆然としている俺の視界に、錯乱したような顔のフジさんっぽい魔王が映った。

 こちらに向かって足を浮かせる。

 何かを喚きながら俺の頭に足を振り降ろすフジさんっぽい魔王の目に涙が見えた。

 やけにゆっくり感じる時間の中で、後悔の念が頭をよぎる。

(これで終わりかぁ。せっかく核から解放されたし、消える前に異世界物見遊山したかったなぁ)と考えていると、フジさんっぽい魔王に踏みつぶされる直前、ギンの狼パンチがフジさんっぽい魔王の腹に直撃した。

 真横に吹っ飛ぶフジさんっぽい魔王にクロちゃんの黒い手が纏わりつく。

「どうして、ひどいことするの! これ以上、傷つけないで!」

 黒い手に触れられ、フジさんっぽい魔王の赤い鎧ドレスが黒く染まってゆく。

 今まで、口パクだけで聞こえなかったフジさんっぽい魔王の声が聞こえてきた。

「――んなさ……い、ごめん、なさ……、ごめんなさい――」

 それは今まで聞いてきたフジさんの声だった。

 その声に微かな希望を感じ、咄嗟に叫んだ。

「ふ、フジさん! いるんだろ! 君、俺の頭を踏みつけるとき、泣いてた! 踏む瞬間、躊躇してくれてたろ? いいよ、もともと首取れかけてたし! 何か首取れても平気っぽいし! だからそこから出ておいでよ」

 俺の声に気が付き、顔を上げるフジさんっぽい魔王。

 もうひと押し、と声を張り上げる。

「それとな! 謝るんならそんな遠くからじゃなく、本人の目の前で、しっかり謝れ!」

 俺の声と共にフジさんが黒い手の中から抜け出た。

 赤い鎧ドレスは消え、髪も短くなった、いつものフジさんだった。

 フジさんはこちらに駆け寄ると俺の頭を恐る恐る手に取り、胸に抱き寄せた。

 あれ? 何だこれは。こんな幸せでいいのか? と混乱している俺をよそに、フジさんが言葉を紡ぐ。

「ごめんなさい。魔王に飲まれていたとはいえ、君をこんなにしたのは私のせいだわ」

「ふ、フジさん、苦しい……」

 幸せのあまり昇天しかけた俺をフジさんが解放する。フジさんが俺の体のすぐそばに頭を設置してくれたので、息を整えるとギンを横目で見ながら話す。

「いや、そんなに気にしなくていいよ。もともとこいつに首噛みつかれてぐらぐらしてたから。責任はギンにもある」

 そう言うとギンが無言で俺の頭を転がし始めた。

「うわ、待って! 嘘! 冗談! あ、あれだ、さっきは助けてくれてありがとう! ありがとうございます!」

 ギンに転がされ、ぐるぐる回る視界の中で、フジさんが静かに笑っているのが見えた。


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