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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
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第四十三回 魔王

クロちゃんが戻ったシロちゃんを『白いクロちゃん』と表記しています。ややこしくてすみません。

 クロちゃんがシロちゃんの中に戻って来た後、シロちゃん、もとい白いクロちゃんの心臓辺りが赤く光りはじめた。

「これ……」

 俺ではない、元の体に帰ってきたクロちゃんの声だ。

 光りが一層強くなると白いクロちゃんの胸から剣の柄がゆっくりと現れ出てくる。それは見えない手で引き抜かれるように、徐々に全貌を現した。

 空中に浮かぶ剣に引っ張られ俺とギンが白いクロちゃんから抜け出る。近くで見ると、いつもシロちゃんが出していた剣より一回り大きく、鍔と刀身が交差する中央に緋色の宝石が付いていた。

「臭い。この石か。これが以前幽霊娘の言っていた核だな。これを壊せば……」

 とギンが剣を睨んでいるとカンダ達の声が聞こえてきた。

「な、なんだ!? 今までとは違う剣が出てきたっ」

「あっ、あの紅石……まさかこれが聖剣の本体っ!!」

 イーサンが興奮した声を上げ、俺たち(剣)に近寄ろうとするが、サクラギが止めに入る。

「イーサンさん、待ってください!」

 サクラギは世川を治療しながら話を続ける。

「その剣、何かすごく嫌な感じがします!」

「あぁ、分かっている。なんせ、これは先代の勇者が魔王を封印した剣。おそらく、今までシロちゃん君を乗っ取っていた魔王が中にいる代物だからね……!」

 イーサンはゆっくりと聖剣に近づくと一定の距離を保ちながら核を観察する。

 相変わらずだな、と呆れつつその光景を眺めていると、隣でギンが低く唸り始めた。

 振り返ってみると毛を逆立て、歯茎をむき出しにしているギンがいた。

「どうした? 何かあるのか?」

 声をかけると、ギンは聖剣を睨みながら動ける範囲で素早く聖剣から遠ざかった。

「お前にはわからんか。阿呆は気楽でよいな」

「何? もしかしてまだ魔王が何かしてきてんのか?」

 俺が聖剣の方に向き直ると、聖剣を観察していたイーサンの様子がおかしいことに気が付いた。

「う……ぐ、なっ、こ、これは!? あ、頭が」

 イーサンが頭を抱えて後ずさりをし始めた。

「な、何!? 声が……!」

「うぅ、いってぇ……」

 サクラギとカンダの呻く声も聞こえてくる。

「みんなしてどうしたの? え、こわっ」

 おろおろしている俺にギンが声をひねり出すようにして話しかけてきた。

「魔王が猛り狂っている、のだ。聖剣の核から、怨念を垂れ流して、あたりの意識を支配しようとして……いる。我の目に見えるほど、の強い念だ」

 ギンが苦しそうに左目を細めた。

「そう、なのか。俺には何が起こってるのか、よくわからねぇけど……クロちゃんは、大丈夫?」

 後ろで座っている白いクロちゃんに話しかる。

「うん、平気」

 そう言うと白いクロちゃんは足元の影から1本の黒い手を生やし、空中で何かをつかむように黒い手を動かす。すると黒い手が膨らみ、3本の手に分かれた。

「あんなに熱かったのに、触ったらやっぱりいなくなっちゃう……」

 3本に増えた黒い手を見ながら少し寂しそうに呟いた。

「小娘、お前……魔王の念すら侵食できるのか」

 ギンが驚いたように目を見開いて白いクロちゃんを見た。

「侵食……?」

 理解できなかった白いクロちゃんは首を傾げて俺を見るが、俺にもよくわからない。

 二人顔を見合わせて首を傾げていると、すぐ後ろで大きな声が聞こえてきた。

 肩を飛び跳ねさせ後ろを振り向くと、瞳を真っ赤にしたサクラギが聖剣を掴んで笑っていた。

「ふっふふ、くっ、あっはははは! 体がないから何もできないとでも思った? 魔王を舐めないでもらいたいわね。精神支配は得意なのよ。あはは。さぁ、続きを! あなたちの絶望する顔がもっと見たいわっ」

 サクラギを乗っ取った魔王が叫ぶと、額に汗をにじませているカンダに近づく。

「まっ待て、桜木! 俺がわからないのか!」

「いいわ! その顔、素敵!」

 サクラギが躊躇なく剣を振り降ろそうとしたその時、聖剣の核に一筋の光が当たった。

 次の瞬間、音を立てて核が砕け散った。

「な、に……!」

 赤い瞳を見開いたサクラギが見つめる先には、左胸を押さえて魔法陣を展開している世川が立っていた。

「もう、お終いに、しよう」

 聖剣を落としたサクラギの口から言葉が吐き出される。

「よ、くも おまえぇ…………なんてな」

 サクラギはにやりと笑うと糸が切れたように倒れた。


「お、終わったのか?」

 俺が呆然とこの成り行きを見守っていると、サクラギが手放した聖剣の中から何かが出てきた。

 半透明でノイズがかかったようにぶれて見えるが、それはフジさんだった。

 腰より下の長い髪に、赤い鎧ドレス姿のフジさんは、今までに見たこともないような残虐な笑みを浮かべ、世川に近づいていく。

「あれ、フジさんだよな? 何か雰囲気変わった……」

「どう見てもあれは過去の魔王だろう。あいつ、あの小僧に取り憑くつもりだぞ」

 ギンがそう言ってイーサンに支えられている世川に視線を移した。

「は!? それまずいじゃん! 止めねぇと」

 慌ててフジさんっぽい魔王と世川の間に立ちふさがる。

「いや、もうやめようぜ? もう終わりでいいじゃん!」

 いきなり進路をふさいだ俺に心底不快そうな表情を浮かべたフジさんっぽい魔王は、右手に剣を出現させるとサクッと俺に袈裟斬りを繰り出した。

 避けれらるはずもなく、思いっきり攻撃をくらう俺。

「うわー! いっ……たくない。あれ?」

 剣が俺の体を分断したはずなのに傷はどこにも見当たらない。

 フジさんっぽい魔王も驚いたような顔をして、次々と斬撃を繰り出してくる。

「いや、まっ……て」

 喋る間にも剣が俺の体を遠慮なく通っていくが、切れた様子はどこにもない。

「まさか、俺のスルーされるスキルがここでも発動してっ」

 そこでフジさんっぽい魔王の裏拳が俺の頬に入った。

 確かな衝撃と共に後ろにぶっ倒れる。

「いってぇ! なんでいきなり!?」

 訳も分からず、フジさんっぽい魔王の方を見ると、ニヤついた顔で指を鳴らしていた。

 フジさんが何か言うように口をパクパクしながらこちらに歩いてくる。

「ちょ、待って。暴力駄目、反対! 話し合おう!」

 フジさんっぽい魔王が問答無用で拳を振り降ろそうとした直前、俺の視界を黒い手が遮った。

「やめてよっ、それ以上、その人に乱暴するの!」

 声の方に目を向けると、白いクロちゃんが影から大量の黒い手を出して悲しそうに顔を歪めていた。


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