第四十一回 クロとシロ
シロとクロってカタカナで表記してあると識別しづらいな……
淡い色だったシロちゃんの瞳は今、獰猛な赤に染まっている。
シロちゃんは笑みを貼り付け、実に楽しそうにカンダとイーサンを圧倒していた。
「……つまり、今、首輪っていう制御装置が外れたせいで、過去の魔王が出張ってきている、と?」
「あぁ、おそらくな」
俺はシロちゃんから出るとギンに確認を取った。
「じゃあ、これからどうすればいいのさ。これからずっとシロちゃんは過去の魔王に乗っ取られ続けるのか?」
「小娘から魔王を封印している聖剣を取り出せば……」
ギンが言葉に詰まる。分かってはいても手段がない。
「あぁ、フジさんなら知ってたのかな」
思わず愚痴をこぼしながら頭をひねっていると、控えめに背中をつつかれた。
振り返ると癒しのクロちゃん(の黒い手)であった。
「クロちゃん! ごめん、立て込んでて、すっかり後回しになってるな……」
シロちゃんの主導権を魔王に奪われた今、クロちゃんに近づくこともできない。俺は猫の手も借りたい気持ちで、部屋の奥から黒い手を伸ばしてくれたクロちゃんに聞いてみる。
「そういえばクロちゃんってずっとここにいたんだよね? 魔王とか、聖剣とか何でもいい、なんか知らない?」
クロちゃんは少し考えるように頭をかしげると、おずおずと口を開いた。
「あんまり、くわしくはないけど。あの体……」
そう言って乱舞しているシロちゃんを指さす。
「あれ、私の、体なの……」
と言って恥ずかしそうに俯いた。
「……え、えっ!? どういうことだ!?」
クロちゃんとシロちゃんを交互に見比べる俺の横でギンが納得したように頷いた。
「なるほど。道理でにおいが似ておるわけだ」
「え!?」
衝撃の事実についていけない俺をよそに話が進む。
「私、ユヅキ様に聖剣を入れるから邪魔だって、追い出されて……あの首輪のせいで戻れなくて、だから、あの体は私のなの。私はいらない子なの……」
尻すぼみになる声と共にこちらに伸ばしてくれていた手が引っ込んでいく。慌ててその手を掴もうとして自分の手がないことに気づくが、勢いが殺しきれず体のバランスが崩れる。
顔面ダイブを決める直前、気が付いたクロちゃんが何本もの黒い手で体を支えてくれた。
俺は力の限り叫んぶ。
「クロちゃんは、いらない子じゃない! いつも優しくて、助けてくれて、クロちゃんはとってもいい子で、……俺の親友だ!」
俺の声にクロちゃんが顔を上げた。クロちゃんは花が咲くような笑顔で手をいっぱいに広げる。
俺も右腕をいっぱいに伸ばした。
「クロちゃ――」
「茶番はいい加減にしろ」
ギンに背中を蹴られた。
「何度同じことをやれば気が済むのだ」
ギンの俺を見下ろす目が非常に冷たい。
「だが、突破口は見えた。おい、小娘。あのミイラは聖剣を入れるのにお前が『邪魔』だと言ったのは本当だな?」
クロちゃんは身をすくめつつ、小さくうなずいた。
その姿に口角を上げたギンは俺の襟首を咥えてシロちゃんへと放った。
「うわっ」
慌ててシロちゃんに憑依すると、ギンも後から入ってくる。
(おい! いきなり何するんだ! しかもクロちゃんの心をえぐるような確認までしやがって!)
俺がシロちゃんの中で怒鳴ると、ギンが面倒くさそうに返してくる。
(あのミイラが聖剣をこの体に入れるとき、あの黒い小娘が邪魔だった……つまり、この体に魂がある状態では聖剣が入れられなかった。では、この体に魂であるあの黒い小娘を戻せばどうなる?)
(……もしかして、聖剣がシロちゃんから出ていく、のか?)
(おそらくな)
ギンがいつもより高いトーンで答えた。
(よし! じゃあ俺たちのやることは)
⦅小娘にこの体を届ける!⦆
俺とギンの声が被った。




