第四十回 本当の
「とりあえずもう少しそっちに寄るよ」
ちょっとシロちゃん連れてくるね、と人型クロちゃんに声をかけ、シロちゃんの方を振り向く。
俺の視界にはユヅキの干からびた頭をシロちゃんが優しくもぎ取る光景が飛び込んできた。
「……お、おぉ。そ、そっちも一段落したようだな……?」
シロちゃんの中にいるフジさんに話しかけた。
「え? あぁ、そうね。ユヅキに は、先に、行って もらった わ。あぁ、楽しかった。もっと殺っ……じゃない、後、はどうにか、し、て聖剣の核の、中のまお うぅぅう」
シロちゃんの口から洩れる言葉がだいぶ物騒になっている。俺は慌ててシロちゃんに憑依する。
(フジさんしっかりして! 大丈夫!?)
俺の呼びかけにフジさんの声が途切れ途切れに聞こえる。
「あ、あぁ……わ、私ぃ、また まおう に、飲ま、れる。……もう、無 理み、たい」
(ちょっ、フジさん!)
「でも、ユヅキ は、ここか ら解放でき、てよかった……」
フジさんの声が聞こえなくなった。
「お、おい! ギン! どうしよう、フジさんが何か聖剣の中の魔王に飲まれたっぽい!」
ギンに助けを求めると、意外なことに声を荒げたギンが返答した。
「なんだと! あの幽霊娘、話が違うではないか! 聖剣の封印から我を開放するという約束はどうなったのだ!」
これだから人間は嫌いなのだ、と怒りを露わにしながら俺(シロちゃん)に近寄って来た。
ギンは俺(シロちゃん)の傍で鼻にしわを寄せ、言葉を吐き出す。
「ちっ、この果実が腐ったようなにおい、あの首輪が外れたときからか……あれが魔王も抑制していたとはな。我の時のようにはいかんか」
ギンが何かぶつぶつ言っていると、世川が歩いてきた。
「操られていたとは知らずに戦って、悪かった。それと、魔王を倒してくれて、ありがとう」
世川が傷だらけの顔に笑顔を浮かべ、手を差し出してくる。
俺が反応する前にシロちゃんの右手が世川へと伸びる。
握手をするかと思ったその右手は世川の手を躱し、生やした白い刀身で世川を攻撃した。
世川が左胸を押さえて後ずさる。
(へ?)と状況が飲み込めない俺をよそにシロちゃんの口が勝手に喋りだした。
「はっはははは! 久しぶりの自由! あの忌々しい首輪を外してくれて、こちらこそありがとう。お礼にあなたも取り込んであげる」
乗り移っているのに制御できない体が勝手に動く。倒れこんでいる世川に向かって剣を生やした右手を振り上げた。
「ようこそ、我が混沌の世界へ」
振り降ろした剣が何かに阻まれる。
肉厚な剣を構えたカンダがシロちゃんの剣をはじき返す。
思わずよろめく隙にサクラギが世川を救出し、距離を取った。
「お前、やっぱり敵だったか! これ以上、俺の仲間はやらせねぇ!」
カンダが俺(シロちゃん)に切りかかってくる。
シロちゃんも剣を構えるが、聖剣ではカンダの重い一撃を耐えれるわけがない。
焦る俺とは違い、シロちゃんは冷静だった。シロちゃんは剣が当たった瞬間、刃を傾け、カンダの攻撃をいなし、そのまま滑るようにカンダの鎧の隙間へと突きを繰り出した。しかし、横から飛んできた札が爆発を起こし、剣筋が逸らされる。
驚きを隠せないカンダは慌てて一歩下がる。
「一体どうなってる!? 太刀筋が変わった!?」
カンダの言葉にシロちゃんの口の端が上がるのが分かった。
「ふ、決まっているでしょ。私を誰だと思っているの? あなた達、魔王を倒したと喜んでいたようだけど、あのミイラ、魔王じゃないのよ?」
シロちゃんの手が勝手に動き、指を鳴らした。それと同時に世川を治療していたラクラギの回復魔法が暴発する。
シロちゃんはサクラギの方には目もくれず、話を続けた。
「稚拙ね。今代の勇者は数ばかり? 舐めているの? 剣王と謳われた勇者も、創世の魔術師と称えられていた勇者も、歴代の勇者を飲み込んだ、この魔王を」
そう言ってシロちゃんは両手から出した剣を構えた。




