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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
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第三十九回 めぐりあい地下

これが自分にできる最大のラブロマンスっ!

「あ、あぁ」

 黒い少女の口から洩れた声はシロちゃんの声とそっくりであった。

 黒い少女は抱きしめていたぬいぐるみを落とし、こちらに向かっておずおずと手を伸ばした。

「――ロちゃん……クロちゃん!」

 本能で少女がクロちゃんだと確信した俺は手首までしかない右腕を伸ばす。

 その瞬間、人型のクロちゃんの周りに漂っていた黒い手たちが俺に向かって一斉に突っ込んできた。

「うわっ」

 大量の黒い手にもみくちゃにされながら、感じるその懐かしい低体温に顔が緩む。

 1人で幸せ気分に浸っていると、ギンに「何か伝えたいことがあったのではないか」と言われ、自分の目的を思い出した。

 右腕で足を正座の形に整えると人型クロちゃんに向かって頭を下げる。

「親友ヅラしてすみませんでした! よろしければお友達からお願いします!」

 後ろからフジさん(シロちゃん)の声が聞こえてくるばかりで、人型クロちゃんからは待てども返答がない。

(と、友達もおこがましかったか……!?)

 恐る恐る視線を上げ、奥に佇む人型クロちゃんを確認する。

 人型クロちゃんの、シロちゃんとそっくりな可愛らしい顔は涙で濡れていた。

「うそ! 冗談! 俺とクロちゃんは赤の他人だから! 気にしないで!」

 慌てて体を起こし、言葉を撤回すると、人型クロちゃんの目からは滝の様な涙が流れ始めた。

「うそ゛、なの? 他人になっち゛ゃうの?」

 人型クロちゃんは先ほど落としていたぬいぐるみを強く握りしめている。

(あれぇぇぇええ!? 何をミスった、俺!?)

 頭を抱える俺にギンが呆れたように話しかけてきた。

「はぁ、わからんのか。……お前、嫌いな奴に触れたいと思うか?」

「いや?」

 俺の答えに鼻を鳴らしたギンは、俺を囲む黒い手に視線を移す。

「なら、そういうことだろう」

 周囲に漂う見慣れた黒い手たちに視線を落とすと、一人(?)の黒い手が少し震えながら俺の制服の裾を掴んだ。

 俺はぱっと顔を上げ、人型クロちゃんの方を見る。

 人型クロちゃんは俯いており、表情が見えない。俺はゆっくりと口を開いた。

「もしかして、俺と友達でもいいのか?」

 人型クロちゃんが小さく頷いた。

 俺は唾を飲み込むと、続けて聞く。

「親友、とか思っちゃって、いい?」

 人型クロちゃんはゆっくりと顔を上げた。

 泣き濡れ目元を赤く染めた人型クロちゃんはしっかりとした声で「うん」と頭を縦に振った。

「くっ、クロちゃん!」

 俺は勢いよく体を浮かせる。

 クロちゃんも握っていたぬいぐるみを放り、両手を広げる。

 俺の脳内では『エンダァァァァアアアアイヤァァアァァアアアアア!!! 』とホイット○ー・ヒューストンの美声が高らかに鳴り響いているのだが、どうしたものか、俺と人型クロちゃんの距離が縮まらない。

 俺はシロちゃんからこれ以上離れることはできず、人型クロちゃんが胸に飛び込んでくるのを待つのみなのだが、人型クロちゃんも両腕を広げているだけで、俺に近寄ろうとしてくれない。

 まさかギンとグルでドッキリか!? とギンの方を向く。

 ギンの目は非常に冷めていた。

(あれ、おかしいな……)

 俺は人型クロちゃんの方に視線を戻すと、人型クロちゃんに話しかけた。

「あの、クロちゃん。俺、これ以上動けなくて……できればクロちゃんに来てもらえると嬉しいかな~って」

 なるべく相手を傷つけないよう、注意して喋ると、人型クロちゃんは顔を曇らせ、下を向いてしまった。

「……ごめんなさい。私、私はここから動けないの」

 透明な雫がぽたぽたと落ちるのが遠目からでもわかった。

「体が重たくて、私自身はここから動けない」

 そう言うと膝に顔を埋めるクロちゃん。

「そんなことないよ! むしろクロちゃんは痩せすぎっ」

 喋っている途中でギンに後ろ頭をはたかれる。

「あれはそういう意味で言っているのではない。わからんか? あの小娘の中から計り知れないほどの念が渦巻いておるのを感じる。それこそ、あそこから動けなくなるほどの重さだ。おい、小娘。今まで何をしていた?」

 人型クロちゃんはギンに話しかけられびくっと肩を揺らすと恐る恐る顔を上げた。

「わ、私は、追い出されて、辛くて、寂しくて、一人が嫌で……一緒にいてくれる人をずっと探して、手を伸ばした」

 人型クロちゃんは息をつくと、続けて話し始めた。

「ここは暗くて、寒かったから、暖かい、熱いものを探した。怒ってる霊や攻撃魔法は温かかった。だけど、私が触るとすぐに悲しそうになって、冷えて、いなくなっちゃう……」

 語尾と共に人型クロちゃんの頭も下がる。ギンは隣で「なるほど、同調・同化か」と納得している。俺にはほとんど理解できなかったが、そんな俺でもわかったことが1つだけあった。

「少しはわかるよ、クロちゃん。俺も、この世界に来て、森に埋められてたとき、一人で、すげぇ暇で、退屈で死ぬかと思った。多分、クロちゃんとは一人でいた日数が全然違うだろうけど」

 俺は俯いている人型クロちゃんと視線を合わせたくて姿勢をかがめる。

「だけど、クロちゃんが来てくれて、一緒にいてくれて、一人じゃなくなった時、すげぇ嬉しかったんだ。俺、ずっとお礼言ってなかったから……本当にありがとう」

 黒い髪の隙間から人型クロちゃんの艶やかな瞳がこちらを覗いた。

 俺は無い握りこぶしに力を入れ、意を決して口を開く。

「そんで、これからも一緒に旅をしてくれると嬉しい!」

 人型クロちゃんは破顔すると、その場で立ち上がって両手を広げた。

 俺もつられて右腕をいっぱいに伸ばす。

 脳内で再び鳴り響く『エンダァァァァ』をギンが遮った。


「おい、同じことを繰り返すな。何の解決にもなっておらぬだろうが」


 ギンのツッコミに俺も人型クロちゃんも我に返ると、現状の大きな問題に頭を悩まし始めた。


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