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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第一章 ギン
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第四話 続、初めまして

俺の異世界生活はバラ色だ!

日に日に増える黒い手はいつしか俺の周りを取り囲み、風に揺られ、うにょうにょしている。

死後、こんなにたくさんの女子 (の手)に囲まれるとは、と幸せを噛みしめる。


じゃれてくる黒い手に和みつつ過ごしていたある晩のことである。

森の奥の方の茂みがごそごそと動くのが見え、そちらに目を凝らしていると、金色の小さな光が見えた。

草を踏みしめる足音が近づいてくる。


月明かりが映し出したのは大きな狼のような生き物だった。

ライオンほどある巨体は傷つき、銀色の毛並みに赤い斑点模様を作っている。

右目は刃物で切り裂かれたようで、つぶれている。


鼻をひくつかせ、足を引きずりながら近寄ってくるそいつを、俺は息をひそめてただ見つめることしかできなかった。

4つある耳はせわしなく動き、長い脚をゆっくりと運ぶ。

俺は黒い手を握る手に力がはいった。

狼は俺の前で足を止めると地面を掘り始めた。

金の瞳が俺を映していないことに安堵のため息を吐いたのもつかの間、俺はあることに気が付いた。

「お、おい! そこは……」


狼が掘り出したのは俺の肉塊が入った包だった。

そして狼は口を大きく開けて俺の肉を食べ始める。

「うわああぁぁ! やめろよ、おいぃぃい!!」

狼を止めようとするが、狼に俺は認識されておらず、俺の手は狼の体をすり抜けるだけだった。

俺の抵抗もむなしく、程なくして俺の肉はすべて狼の腹の中に納まってしまった。

「う、嘘だろ……」

(特に愛着があるわけでもないが、俺の肉体だったんだぞ! 17年間俺と一緒だった……

――イケメンでもないし、女子を虜にする体でもない、

「あ、いたの?」程度の存在感しか放てなかった俺の肉体、かぁ……)

何だかとっても切なくなっている俺に、気づきもしない狼は腹がいっぱいになったのか、長い脚をたたみ、体を丸めて眠りについた。

横目で規則的に上下する狼の体を見ていると無性に腹が立ってきた。

一発殴ってやらんと気が済まん、と当たりもしない拳を握っていると、突然鼻の奥に湿った土のにおいを感じた。

急にどうしたんだろと驚く間もなく、においと共に何かの記憶が俺をのみこんだ。



低木が点在する草原に立っていた。

隣には少し小柄なあの狼のような生き物がいる。

小柄な狼は走る。

慌てて追いかける。

足で大地を蹴る。ぐんぐんスピードが増す。

小柄な狼に追いつく。

一緒に草原を駆ける。

まるで風になったようだ。


(ああ、なんて気持ちがいいんだろう)



唐突に視界が真っ黒になった。

というか、黒い手が俺の目を含め、いたるところに張り付いているようだった。全身が寒い。

「びっくりしたぁ。……寂しがり屋さんめ」

そう言いながらひんやりしている手を剥ぎ取り、目を開けた。

夜が明けたようだ。

大きな狼のような生き物に目を向ける。


(今さっき見たのはこいつの記憶……なのか?)

まるで自分がこの狼になっていたかのようで、風を切って走る感覚が今も残っている。


「なんだか爽やかな気分だ」

俺は握っていた拳をほどく――


「とでも思ったかぁ!! 俺を食べた恨み、忘れはせんぞ!」

上半身をねじり、拳を固め、左足を思いっきり踏み込む。

「一発くらいやがれぇ!」

俺の拳が盛大に空振りしたところで狼は目を覚ました。


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