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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
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第三十五回 巨大な敵

 シロちゃんがワザとトラップを発動させ、出現した魔物を捕食しながら進むこと数時間、俺たち3人は大きな扉の前に立っていた。鉄パイプや溝がこれでもかというくらい張り巡らされ、あちこちに赤黒い宝石がはめ込まれた扉は禍々しく、今すぐ踵を返してこの城を出たい衝動に駆り立てられる。

「え、シロちゃんやめとかない? この先絶対危ないよ……」

 俺の弱気な声に振り向くことなく扉に手を当てるシロちゃん。手の触れた部分が光り、溝を駆け抜けてゆく。

 うわ、すげぇなと、見上げていると体が光りはじめた。シロちゃんとギンの体も光っている。

「あれ、これ転」

 俺が言葉を言い終わる前に視界が真っ白になり、浮遊感に襲われる。

「移、だ、よな……」

 気が付くとそこは学校の体育館より二回りほど広い部屋の中であった。

 そしてこの広大な空間を埋め尽くさんばかりの大きな物体が視界を覆った。

「なんだ、これ……もしかして」

 大きな黒い巨体は人型のように見える。どうやらこちらには背を向けているようだ。重そうな腕を天井に当たるまでゆっくりと振り上げている。

「これは……サイコガ○ダム!?」喜色満面な俺の隣でギンが渋面になる。

「あれは人間の作る土人形だろう。しかし、この場所――」

 ギンが土人形と呼んだやつの腕が地面に叩きつけられ、その振動でシロちゃんがこける。ひっくり返ったシロちゃんを心配して近寄ると、土人形の股の向こう側に2人の人間がいることに気が付いた。

「あ、あいつら!」

 何時ぞやにシロちゃんをハンマーで捕らえたカンダと呼ばれる勇者と、召喚後俺に精神的苦痛を与えた女勇者(確かサクラギとか呼ばれていたか?)がいた。

 でかい土人形の腕を回避した2人もこちらに気が付いたようだ。

「あ、あの子!」とサクラギがカンダに話しかけている様子が見える。

「あれ、どうしたんだろ。世川がいない。あいつらもはぐれたのかな」

 俺が呑気に呟いていると土人形がこちらに気が付いたようで肩越しに顔を向けてくる。

「まずい、逃げろ!」

 カンダがシロちゃんに向かって叫んだ瞬間、大きな土人形は腰を回転させ、シロちゃんめがけて腕を振り下ろしてきた。

 シロちゃんは床をころころと転がり土人形の攻撃を避ける。

「火力は高いが動きは遅い。躱せるはずだ! 俺たちがこのゴーレムを倒すまで、何とか逃げてくれ!」そう言うとカンダは肉厚な両手剣でゴーレムと呼んだ土人形を切り付け始めた。しかし、堅牢なゴーレムには大したダメージが入っていないように見える。シロちゃんも剣を出して応戦するが、攻撃が通らないとわかると逃げに専念していた。

「世川みたいにでかい魔法撃ったりできないのか、あいつら」

 俺が文句を言っているとギンが口を挟んできた。

「この空間には死霊が溢れておる。方々で喚き散らして気が乱される……」

 ギンの視線はサクラギに向かっている。

 サクラギを見ると作りかけの魔法陣が何度も手元で砕けていた。

「どうしてっ! なんで、このままじゃまた……」サクラギの悲痛な声が聞こえてくる。

「あ、そういえばフジさんが言ってたな。魔法を使うには魔力と呪文……要は意思だっけ? その意思が部屋にいっぱいいる死霊に妨害されてるっていうのか?」

 そう言って部屋を見渡すが、俺とギン以外の幽霊がいるようには見えない。

「え、いないけど? 何、また俺には見えない聞こえないってやつか?」

 俺の問いにギンはあきれたような顔を向けた。

「相変わらず、だな。認めたくはないが、正直羨ましいぞ、お前」

 口の端を無理やり上げたギンは俺に命令する。

「あの小僧の攻撃じゃあ埒が明かん。我が屠る。お前、この小娘に乗り移れ」

 そう言うとギンは俺の襟首を咥え、シロちゃんに向かって放り投げた。

「ちょ、うわっ!」

 咄嗟にシロちゃんに乗り移った俺は目の前を見て悲鳴を上げる。

 ゴーレムの腕が俺(シロちゃん)を狙って振り上げられていたのだ。

「潰される!」

 思わず目を瞑ってしまうが、直後、足が床を蹴り、攻撃を躱した。

(馬鹿者! 戦いのさなかに目を瞑る奴がおるか!)

 頭の中でギンの声が響く。どうやら俺に乗り移って間接的にシロちゃんを動かしているようだ。

 シロちゃんの口の端が勝手に上がる。

「だが、お前が阿呆でよかった。褒めてやるぞ。……あぁ、頭が冴える。これなら使えるな」

 シロちゃんの口を借りてそう喋ったギンは軽やかにゴーレムの攻撃を躱し始めた。

 ゴーレムは動きの素早いギン(シロちゃん)を全く捕らえられない。

 すると、ゴーレムの左胸にはまっている大きな赤黒い石が赤く光った。ゴーレムの顎がガクッと外れ、奥に光が凝縮されつつあるのが見える。

(何かでかそうなのが来るぞ!)

「ふん、我がさせると思うたか?」

 ギン(シロちゃん)がゴーレムの正面で止まる。「いけ」と片手をさっと薙いだ。

 直後、シロちゃんの今までの足跡が光り、ゴーレムを囲うように巨大な魔法陣を生成した。石畳の地面がたわみ、沼に変わる。ゴーレムは自身の重みで一気に沈み始めた。

 ギン(シロちゃん)は「仕舞いだ」と右手を上に挙げる。すると黒く硬質化した泥の柱が何本も沼から飛び出しゴーレムの胸の石を刺し貫いた。

 ゴーレムが溜めていた光は行き場をなくし、ゴーレムの体内で大爆発を起こす。飛んで来る破片を泥で壁を作り、全て防いだギンは「他愛無い」と言葉を吐いた。

 あっさりと倒してしまったギンに俺は驚きを隠せずに叫ぶ。

「お、おい! 幽霊は魔法が使えないんじゃなかったのかよ!」

(五月蠅い)と頭に声が響くと、ギンが面倒くさそうに答えた。

「我には無いが、この小娘には魔力がある。それを使えば魔法ぐらい撃てる」

「はっ、そうか! なら、乗り移ってる今、俺にも魔法が使えるはず! うおぉぉぉ、ファイヤー!」

 俺が全力で魔法の練習をしていると、どこからか「おい!」と声をかけられた。

 見ると泥だらけのカンダとサクラギがいた。

「ゴーレムを倒してくれたこと、まずは礼を言う。ただ……」

「あ、あなたの魔法、あの、独眼のアージェンルーヴのでしょ! どうしてっ」

こちらに身を乗り出しそうになるサクラギをカンダが抑える。

「聞きたいことはたくさんあるが……お前は、俺たちの味方と捉えていいのか?」

 カンダの鋭い眼光に思わず声が裏返る。

「てっ敵ではないです……危害は加えないと思います!」

 慌てて弁解するも、刺さる視線は変わらず。険悪な雰囲気である。

「私も、神田君もこの部屋で魔法が使えなかったのに、あの狼の、それにあんな強力な魔法を使うあなたを信用なんてっ」

 どうやらご乱心らしいサクラギさんをカンダが止める。

「落ち着け。お前の言いたいことはわかるが、今の戦いを見ただろう。この部屋で俺たちがやり合っても勝てる確率は低い……」

 敵かもしれないやつを目の前に内輪もめを始める二人に呆れながら、ふと気づいた。

(あれ、そう言えばギンは魔法でゴーレムを倒したけど、この部屋は幽霊に妨害されて魔法が使えないんじゃ……?)

 俺の疑問にギンが珍しくすんなりと答える。

(その幽霊を認識できないお前に同調して、乗り移っているのだ。お前が奴らに影響を受けないように、我も影響を受け無くなる)

(へぇ、だから邪魔されず魔法が撃てたんだ)

 謎が解けてすっきりしていると、シロちゃんのお腹からぐぅ~と可愛いらしい音が響いた。俺とギンがシロちゃんから抜け出ると、シロちゃんはばらばらになっているゴーレムへと走り寄った。見るとゴーレムの胸に埋まっていた赤黒い石の破片を集めて口に詰め込んでいる。

 どう見ても美味しくなさそうだがシロちゃんにとってはごちそうなのかもしれない。まるで飴を砕くかのようにごりごり言わせながら咀嚼している。シロちゃんの口の中で微かだが光っていたゴーレムの赤黒い石が最後の光を散らした。するとゴーレムの残骸が散らばる床が光りはじめた。よく見ると巨大な魔法陣のようだった。

「これってもしかして……」

 俺の声をかき消すように少し離れたところからサクラギとカンダの声が聞こえる。

「うわっ、これは!」

「また、転移魔法陣!?」

 その言葉を最後に視界と音が消えた。


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