表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
37/51

第三十四回 トラップ

サブタイ考えるの苦手すぎて困る。

シロちゃんは複雑に込み入った通路をずいずい進んでゆく。

窓や明かりはなく、床や壁に張り巡らされたパイプや溝が淡く光って通路をぼんやりと照らしている。

「段々地下へ潜って来ている。シロちゃん君は魔王城に来たことがあるように見えるね。前勇者の聖剣を持っていることと関係しているのかな?」イーサンがシロちゃんに話しかけるが、いつもの如くシロちゃんは答えない。

いつものように頭をふらふらと揺らしながら歩くシロちゃんの隣で漂っているフジさんの顔は暗い。

「もし、魔王のことが気になるなら、壁抜けして魔王の居場所探して来たら早いんじゃないのか?」

俺の提案にフジさんはゆっくりと頭を横に振る。

「できるならそうしたかったわ。だけど……」

そう言ってフジさんはパイプが這う壁に手を伸ばす。すると手は抜けることなく、壁に遮られてしまった。

「えっ、この壁抜けられないのか!?」俺も真似をすると、右腕が壁に当たる。

壁を見つめていたギンが呟いた。

「この鉄管、魔法陣の模様と似ておるな」

「えぇ、このパイプに魔力を流して結界を作っているようなの。魔法や霊みたいな、“意思”が通らないように術が施されてる」

「でかい魔法で壁ぶち抜き、とかができないようにしてるのか……」

俺が感心していると背後から息をのむ音が聞こえた。

振り返るとイーサンの右足が踏んでいる地面が光っており、その光は床や壁を這う溝を駆け抜けていく。

「ぐっ、これは……!?」

途端に膝をつき苦しそうにイーサンが呻く。

「え、何? 大丈夫なのか。ちょ、シロちゃん……」

マイペースなシロちゃんは気にせず進んでいる。一応助けた方がいいと思い、シロちゃんにお邪魔しようとしたとき、薄暗い通路の奥がきらりと光ったのが見えた。

その瞬間、剣を生やしたシロちゃんの右腕が跳ね上がる。鋭い金属音を立てて真っ二つになった光の槍がシロちゃんに当たることなく空中で霧散した。

「は!? 今、通路の奥から槍が飛んできた!」

肝を冷やす俺の隣でフジさんが物騒な言葉を洩らす。

「まさか、この張り巡らされている溝は全てトラップの術式!?」

「まじかよ……」思わず呟いていると後ろからイーサンのうめき声がする。

「あ、大丈夫か!」慌ててイーサンの方を振り向く。

相変わらず膝をついたイーサンの足元は脈打つように光り、溝を流れ通路全体を明るく照らしている。

「! イーサンの魔力を使ってトラップを起動しているんだわ! 早くどかさないと」

フジさんの声を遮るように光の槍が通路奥から次々と飛んで来る。シロちゃんはその槍を捌くので手一杯である。

するとイーサンが震える手で懐から札を取り出し、自分の胸に張り付けた。

「発!」イーサンの声と共に小規模な爆発が起こる。煙を抜けて後ろに吹っ飛び出たイーサンが見えた。溝を走る光が途絶え、元の薄暗い通路に戻る。

「ぐ、げほっごほっ……」

苦しそうにせき込みながらイーサンが起き上がった。

「まさか、この溝、式だったとは……迂闊に歩けないな」ぱたぱたと服をはたきながら続ける。

「いや、ありがとうシロちゃん君。1人だったら槍に串刺しにされていたよ」

イーサンのさわやか笑顔を華麗にスルーしたシロちゃんはふらふらと歩き出した。

その様子を見ていたイーサンが驚く。

「まさか、術式を全て避けて歩いていたのか! やはり君はこの城と魔王について何か知っていそうだね」不敵な笑みを浮かべたイーサンはシロちゃんの足取りを辿ってついてくる。

「さすがは不思議少女シロちゃん。ほんと何でトラップの場所がわかるんだろう?」俺の疑問にフジさんが答えた。

「多分だけど……この娘、前王の」そこで言葉を切るフジさん。視線を落とすフジさんの表情は暗い。

「どうして、ユヅキはこんなことを……」

「その、ユヅキってどなた?」

フジさんの口から度々聞こえる人物について尋ねると、フジさんが困ったように眉をさげた。フジさんは少し間を置いて口を開く。

「ユヅキは、この城にいる現魔王よ。昔彼は、前魔王である私を倒した前勇者。魔王を聖剣に封印した勇者だったのよ……」

「そうなのか。ずいぶん親しげに呼ぶから友達とか好きな人とかだと思った」

俺の言葉にフジさんが俯く。流れる髪の隙間から真っ赤な耳が見えた。

「え、まさか魔王なのに勇者に恋して――みたいな王道ラブロマンスっ!?」

「ちっ違うわ! ……多分。そんなんじゃ、ない、と思う……だって初めは、絶望に顔を歪めて死んでいく様を見たかっただけだし……」何やら物騒な単語が聞こえるが、顔を赤らめる美少女は可愛かった。

これが福眼かぁ、と感動に身を浸らせていると、背後から「危ない!」と叫ぶ声と共にシロちゃんの背中を押すイーサンが見えた。

シロちゃんに引っ張られ、俺とギンがつんのめる。シロちゃんを押し出したイーサンが踏んだ床は光を放ち、イーサンとその近くにいたフジさんを包み込む。それは一瞬のことで、気づいたときには元の薄暗い通路に戻り、そこにはイーサンもフジさんもいなくなっていた。

「あれ、二人は?」俺の間の抜けた声にギンが淡々と答える。

「今、一瞬光った溝の形……人間が使う転移の魔法陣に似ていたぞ」

突き飛ばされ転げていたシロちゃんは起き上がると、先ほどイーサンが踏んでいだ床を叩いた。うんともすんとも言わない床は再び転移が発動することはないようだ。

シロちゃんは床から目を離すと何事もなかったかのように通路を進み始めた。

「はは、相変わらずだな、シロちゃん」

シロちゃんのぶれない態度を見ていると、慌てていた心が収まってくる。

「にしてもイーサンはなんで転移の床に気づいたんだろ」

「あの男、なかなかの切れ者だ。この短時間で術式の形を把握したのだろう」

「え、このでたらめに走る溝を見てトラップの起点がわかるなんて、変態かよ」

イケメンで有能とは……天は二物を与えずなんて当てにならんな、と思いながら前をえっちらおっちら歩くシロちゃんを眺める。

(まぁ、フジさんは幽霊だし、イーサンも何か強いし、大丈夫だろう)

「久しぶりの3人旅だな」とギンに話しかけるも、案の定、ギンからの返事はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ