第三十三回 魔王城
「考えたわね、独眼」フジさんが感心したように話しかけてくる。
シロちゃんの澄んだ声でギンのセリフが聞こえてきた。
「この娘は聖剣の中の魔王どもが五月蠅くて同調などできんかった。しかし、このすっからかんな阿呆になら取り付けるのではと思ってな」
左腕が動きシロちゃんの頭を小突いた。
「その娘に取り憑いた彼に取り憑いて、間接的に娘を操っているのね。よかった。独眼、あなたなら心強いわ」フジさんがほっとしたように顔を緩めた。
分かってはいたが、やはり俺では頼りなかったらしい。少し複雑な気分だった。
「いやぁ、待たせてしまったかな。思いのほか圧縮が難しくてね。悪かった。さぁ、行こうか」
爽やかな笑顔でイーサンが振り返る。飛び散る汗が日光に当たってきらめいていた。
イーサンは手に持っていた赤黒いテニスボール大の石を鞄にしまうと、シロちゃんの手を取って歩き始めた。
道中、休憩を挟み、寄り道を挟みつつ生者2人、死者3体の一行は進む。イーサンもシロちゃんも戦闘力は申し分なく、どんな魔物に会っても嬉々として狩り、順調な旅路であった。
そして今、俺、ギン、フジさん、シロちゃん、イーサンは2本の高い塔が特徴的な、黒く禍々しい城の前に立っている。行ったことがないので東京ドーム何個分かは分からないが、俺が通っていた学校の敷地面積の3倍はありそうだ。
「よし、魔王の死体を手に入れるぞ!」そう言ってイーサンは巨大な古びた門に手をかけた。
「お腹すいた~」シロちゃんがその後に続く。
「えっ、これ魔王城? 旅に出てからまだ2日しか経ってないけど!? 近くない?」シロちゃんに引っ張られて門をくぐってしまう俺にギンが続く。
「待ってて、ユヅキ」フジさんが俺たちを追い越して先頭を歩き始めた。
巨大な黒い影が四方から襲ってくる。しかしイーサンは的確に札を飛ばし、片っ端から爆破してゆく。頭を失ってもなお動こうとする犬のような魔物は、シロちゃんが右手に生やした聖剣で切り刻み、シロちゃんのお腹に納まった。
敵を狩りつくしたイーサンは背負っている鞄から地図を取り出すと、周囲を見渡しながら唸っている。
「魔王は一体どこにいるんだ……」
俺はシロちゃんから離れられる範囲で移動すると、イーサンの地図を覗き見る。
「へぇ、めっちゃ細かい地図だな。むしろ魔王城の図面と言ってもいいほどじゃないか」
地図の精密さに感心しているとフジさんが話しかけてきた。
「えぇ、この地図ここの図面らしいわよ。と言っても魔王城になる前の発電所の図面みたいだけど」
「え? 発電所だったの、ここ」
確かにこの魔王城は城というより工場っぽい。俺たちのいる場所はだだっ広い部屋で、壁や床にパイプのようなものが植物の蔦みたく複雑に這っている。そしてこれまた複雑な模様が彫り込まれた機械のような遺物がごろごろ転がっている。
「異世界って結構文明が進んでるんだな……」
「そうね。この発電所が稼働すればもっと進んだでしょうけど」
フジさんがどこか遠くを眺めている。
俺は図面に視線を戻す。確かに、詳しく描かれている。しかし、どこに魔王が居るかわからなければ意味がない。
(せめて世川たちと合流できれば、もう少し場所を絞れるんだけど……)
どこかに世川たちの痕跡がないか、と目を配る。
すると、パイプの奥で蠢く影が見えた。それは黒い小さな手であった。
「くっクロちゃん!?」思わず叫んで身を乗り出すと、驚かせてしまったのかクロちゃんは奥の通路へと消えてしまった。
「い、今クロちゃんが!」
慌ててギンに話しかけるとギンは顔をしかめた。
「喚くな、五月蠅い。知らんぞ、クロちゃんとやらは。ここは気配が多すぎる」
「くそっ、役に立たねぇ! あっちだよ! 左の奥の方に行ってだっ!」
ギンのパンチが後頭部に炸裂し、悶え苦しんでいると、シロちゃんが急に走り出した。
いつもの千鳥足でさっきクロちゃんが去っていった方向へ進んでゆく。
「よし、ナイス、シロちゃん! そのまま追いかけてくれ!」
俺は久しぶりに胸を高鳴らせ、シロちゃんの背中を押す。
(いつも俺を助けてくれてたクロちゃん……俺の親友ポジションが不快だったなら謝りたいし、別れるならありがとうは言っときたい。だけど、できるならまた一緒に旅がしたいんだ)
「ちょっと、魔王を探さないと!」
「おい、シロちゃん君! どこへ行くんだい!?」
フジさんとイーサンの声を背にシロちゃんは進む。
絵が描き終われば、今日中に登場人物紹介を上げます。




