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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第二章 シロ
33/51

第三十一回 出発

「いやぁ、待たせたね。さぁ出発だ!」

昨日フジさんの返事も聞かず、「また明日」と去ってしまったイーサンが現れる。

荷物を抱え、準備万端という出で立ちである。

牢の鍵を外しながらイーサンが喋る。

「今日からパーティーになるイーサンだ。よろしく。と、いうことでシロちゃん君、私には攻撃しないと約束してほしいのだが……」

「ごはん、ごはん! 食べる!」

イーサンは鉄格子にへばりつき暴れるシロちゃんに警戒していた。

鉄格子の隙間から攻撃してくる聖剣を躱し距離を取るイーサン。

「うーん、どうしたものか……」

悩むイーサンをシロちゃん越しに見ていると、フジさんが話しかけてきた。

「この娘をおとなしくさせる方法ってわかる?」

フジさんの言葉に目を丸くして答える。

「あれ、フジさん、イーサンと一緒に行くんだ」

「えぇ、その方が効率がいいと判断したのよ」

「そっか。んー、多分シロちゃんはお腹が一杯だとおとなしくなると思うけど」

「……やっぱりそうなのね。じゃあイーサンにそう伝えて」

シロちゃんにお邪魔してイーサンに腹が満たされれば大人しくすると伝えた。

イーサンはすぐに大量の料理を準備するとシロちゃんに与える。

シロちゃんの食いっぷりを関心して見ていたイーサンは、途中何かに気が付いたようで声を上げた。

「シロちゃん君。君、服がボロボロじゃないか! せっかくの白く美しい姿もそんな服では台無しだ。何か準備してあげよう」

そう言うと地下牢を後にするイーサン。数分後、戻ってくると「少女の服なんて持ってなかった! 買いに行こう!」と牢を開け、満腹になったシロちゃんの手を引いた。

「それでは出発だ!」



イーサンに連れられて歩くこと10分。小さいながらも活気のある街に着いた。

異世界というと中世ヨーロッパっぽいイメージがあったが、この町はもう少し文明が進歩しているようだった。近所の商店街を洋風化したような街並みをワクワクしながら眺める。

「これだよこれ! 異世界! 人の住んでる街!」

異世界こっちに来てから森と地下牢しか経験してこなかったので、人の営みを見た今、ようやく異世界に来たという実感がわいてきた。

イーサンはシロちゃんを連れてこぢんまりとした店に入る。

「失礼。この子に似合う服を見繕ってくれないか」

声を聞いて奥からおばさんが出てくる。

「あれ、まぁ。イーサン様! は、はい、ただいま」

店員らしきおばさんはシロちゃんのサイズを測るとそそくさと奥に引っ込んだ。

「ねぇ、フジさん。イーサンって顔広い? 世川たち以外の人みんな様付けで呼んでるけど、偉い人なの?」

俺が疑問に思ったことを尋ねる。

「えぇ。イーサンは初代勇者の子孫だから。国民から慕われているわ」

「えっ、それ、マジか。俺の周りすごいやつ多くね!? フジさんは元勇者で魔王もやってたし、シロちゃんは何か聖剣持ってるし」

「あなたが“ギン”と呼ぶ独眼もよ。アージェンルーヴは神獣と崇められている地域もあるほどの魔物で、特にこの独眼は多くの冒険者を殺して王国からS級魔物に認定されていたわ」

「は?」俺の隣で大あくびをしているギンを見る。

「え、こいつが?」と指をさすと、すかさずギンに叩かれた。

「ゆっ指がぁぁぁあ!」あまりの痛さにのたうち回っていると、ふと気が付く。

「あれ、今さっきイーサンって初代勇者の子孫って言ったけど、イーサンのご先祖さまも俺たちの世界から来た勇者? ん? それに勇者って魔王になるんじゃ……」

「初代勇者はこの世界の人間よ。勇者を異世界から召喚し始めるのは、魔王が死後、人に取り憑くとわかってから。あと初代勇者は魔王を倒す前に子を作っていたのよ。イーサンはその子孫」

「物知りだね。フジさん」俺が感心すると、フジさんが少し顔を赤らめる。

「え、そ、そんなこと……伊達に勇者や魔王をしていたわけじゃないわ」

「へぇ。結構長生きしたの? フジさんって今何さ……」

恥じらう美少女はどこへやら。何人もの勇者を葬ってきた歴戦の魔王のような眼光が俺を貫いた。

慌てて視線を逸らすと、いつの間には新しい服に着替えたシロちゃんが目に入った。

さっきまで血で汚れたぼろぼろの服を着ていたシロちゃんは今、黒いワンピース姿になっていた。ウエストのところで切り替えがあり、布をたっぷりと使ったスカートがひざ下まで広がっている。武骨な首輪を隠すように巻かれた赤いリボンが黒地によく映える。

「グッジョブ、おばさん!」

俺がおばさんに向かって親指を立てていると、おばさんがおずおずと話し始めた。

「すみません。うちの店ではこれ以上上等なものがなく……」

「おぉ、黒山猫の上毛皮か。よいではないか! 黒がシロちゃん君の白さを際立だせている。いくらだ?」

「そ、そんな! 滅相もないです! イーサン様から代金をいただくなんて!」

イーサンとおばさんの押し問答が続くこと数分、ようやく店から出た俺たちは町の門までたどり着いた。

眼前には緑の濃い森が広がっている。

「さあ、行こう! いざ、魔王城へ!」


「……は? まおうじょう?」

シロちゃんの手を引き、歩き始めたイーサン背中に俺の言葉が飲み込まれた。


これにて2章は終了になります。

今日はあともう一話投稿します。

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