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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第二章 シロ
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第二十九話 過去の魔王

壮大な話に頭がついていけないところが大半であったが、魔王を倒した者が魔王になる負の連鎖を断つために聖剣が作られたことは理解できた。そして聖剣がフジさん以外の過去の魔王を封印したことも。

だから、また疑問が上がってくる。

「魔王が封印され、フジさんも俺たちがいた世界に帰って、魔王成分はこの世界になくなったんだよな? なんでまた勇者が召喚されたんだ?」

俺の質問にフジさんの表情が暗くなる。

何かまずいことを聞いてしまったのかもしれない。

「あ、なんでシロちゃんが前勇者の聖剣を持ってるんだろうな」

慌てて話を変えるも、見事地雷を踏み抜いたようでフジさんの顔が能面の様になってしまった。

こういう時は下手に喋らない方がいいだろう。シロちゃんが飢えに飢えて床をごろごろし始めたので隣でご一緒することにする。

全力でごろごろしていること数分、フジさんが重い口を開けた。

「私、もう少し自分で調べてくるわ」

それだけ言うと壁をすり抜けどこかへ行ってしまった。浮遊霊とは実にうらやましい。

「はぁ、今日はいろんなことがありすぎて神経がすり減ったな……。ギンの成仏できない理由もわかったけど、困ったな。どうやったら封印って解けるんだろ?」

さっきから一言も発せず、牢の隅っこでうずくまるギンに話しかける。

「そういえば聖剣には過去の魔王が封印されてるって言ってたけど、本当なのか?」

俺は辺りを見渡す。俺やギンと同じく封印されてるなら、過去の魔王たちが見えてもいいのはずだが、俺の目には毛が逆立ったギンの背中しか入らない。

「……れ」

かすかだが、低い声が確かに俺の鼓膜を揺らした。

「ギン?」

「……まれ、だまれ、黙れ!」

気が付いたときにはギンの大きな前足に押さえつけられ、ギンの鋭い牙が眼前に迫っていた。

「は、なに!? もの○け姫のモ○ごっこ!? っていうか、痛い、いだい!」

押さえつけられている肋骨がみしみしいっている。

「五月蠅い! 黙れ、人間風情が! 貴様らのような妄執に飲まれると思っているのかぁぁあああ゛!」

「いや、お前の方がうるせぇよ!?」

俺を押さえつける前足を右腕で殴りながらギンを見る。

ギンの残っている左目は焦点が合っておらず、血走っている。

(あれ、何か様子が変か? そういえば今さっき“貴様ら”って言ってたし、俺のことじゃないのか?)

そこで俺の思考が遮られる。ギンが俺の首に思いっきり噛みついてきたのだ。

「殺す、殺ス、コロす、ごろずぅ!!」

首から骨の砕ける音が聞こえる。

「っ!!?」

(まずい、まずい、まずいって!)

俺は一か八かで右腕を振り上げると瞳孔が開き切っているギンの左目に向かって肘を入れた。

「離せ馬鹿野郎!」

いつものギンであれば確実に避けられる攻撃だったが、錯乱しているせいか見事に肘がヒットする。

ギンがたまらず口を離した。

この隙に少しでも距離を取りたかったが、腰が抜けてしまっているのか足が動かない。

若干ぐらぐらする頭をもたげるとギンに向かって怒鳴った。

「ふっ、ふざけんなよ! なに本気で噛んできてんだ! 首が、首がなんか不安定になってんだけど!?」

揺れる視界の中でギンが左目を抑えてうずくまっている。

「ぐ、この餓鬼いきなり何をする!」

「それ、こっちのセリフ!」

俺のツッコミにギンが返す。

「お前は聞こえぬのか! 亡者どもが周りで『殺せ』と喚いているのが!」

「聞こえねぇよ! なんてホラーだよ、ビビらせんな!」

言葉を詰まらせたギンは、少しした後、諦めたように大きなため息を吐いた。

「人間とはつくづく感情的で愚かだと思っていたが、まさかお前のようなちんけな輩もおろうとは……。お前と話していると全てが馬鹿らしく思えてならん」

ギンの様子を見るに、どうやら正気に戻っているようだった。

「なんかけなされているように聞こえるが、今はいいや。なんで噛みついてきたんだよ」

俺の問いにギンが渋々答えた。

「先ほどの話を聞くと、おそらくこの小娘の聖剣とやらに封印されている過去の魔王だ。時が経ち、個がなくなり、ただの破壊情動の念となった奴らが我を飲み込もうとしておる。お前の周りでもけたたましく騒いでいるが……」

「えっ、そんなの聞こえないけど」

「そのようだな。己が言葉を解さない阿呆でよかったではないか」

ギンは俺を罵っているつもりだろうが、俺は自分に対して生前からかなり諦めていたので、こんなことでは気にならない。

「なんとでも言え。その阿呆がひょうひょうと過ごすさまを喧騒の中から眺めてろ」

「こやつ、首を噛みちぎっておけばよかったか」

ギンは歯を見せて唸るが、いつもの迫力がない。右目はもとより、俺が肘鉄をくらわせた左目が閉じられたままだ。

「……あれ? もしかして目が」

「あぁ、潰れたようだ」とさらっと答えるギン。

さぁと今は無き指先から血の気が引くような感覚に陥る。

「わ、わりぃ……目を潰そうとまでは思ってなかったんだよ。えっと、その他は、大丈夫か?」

ギンの容態を見るため、腰を浮かせようとするが、足に力が入らない。

(うわ、まだ腰が抜けてんのか。とんだ小心者だな、俺)

活を入れるために足を殴る。が、何も感じない。

「あれ?」

もう一発殴っても同じだった。

うろたえる俺にギンが非情な現実を突きつけた。

「ふむ、霊体でも首が砕かれれば動かなくなるのだな」

「え、嘘だろ……?」

俺のか細い声が地下牢の闇に飲まれた。


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