第二十三回 別れ
俺はギンに殴り返され、空中をのたうち回っていた。
「おまっ、俺はひ弱な人間なんだぞ! 俺の一発とお前の一発は重みが違う!」
ギンはさっきの今にも消えそうだった儚い雰囲気を引っ込め、殺気を醸し出している。
俺は慌てて逃げようとしたが、ギンの死体から3mも離れられなかった。
あっさりとギンに捕まり、フルボッコの刑にあう。
俺が原型をとどめているので本気で殴られてはいないことが分かるが、痛いものは痛い。
ぎちぎち、ばき、ぼき、ぐしゃ……
あまりの痛さに肉体がぶっ壊されているような音すら聞こえてくる気がした。
ぶちぃ、ぐしゅ、どぷっ、ぷちぷち……
ギンが俺を殴る手を止めた。
俺もさすがにこれがただの幻聴でないことに気が付き、音のする背後へ顔を向ける。
放心した様子でギンが見つめていたものは、ギンの死体を食べている白い少女だった。
「この世界の住民って何なの!? そこらへんに落ちてる死体を食べる文化でもあんのかよ!」
クロちゃんの手を借りて頭を抱える俺の隣で、我に返ったギンが怒りをあらわにしていた。
「人間が我を食らうだと!? 許さんぞ、これ以上は奪わせん!」
食事中の少女に向かって飛びかかったギンは強靭な前足を振りかぶる。
しかし、その攻撃は少女に当たることなくすり抜けた。
その光景に過去の自分が重なる。攻撃が当たらなかったことに呆然としているギンを見ていると何やら暖かいものが胸を満たした。
謎の充足感に浸っているところをギンの強力なタックルで現実に引き戻される。
「おい、お前。あの人間の止める方法を吐け」
「うぐっ、くそ、知らねえよ! もし知っててもお前には話したくないがな!」
「知っているのだぞ、お前が我やあの小娘の体を操ったことがあるのを。話さなければお前の頭を砕くことも厭わん」
ギンは歯茎をむき出し脅してくる。
「いや、ほんとに知らないんだって! いつも気が付いたら体乗っ取ってたんだよ!」
今までのギンの行動を見る限り、こいつがただの脅しで終わらせるはずがない。
俺が必死の弁解をしていると周囲にクロちゃんたちが集まってきた。
(あぁ、クロちゃんはいつも俺の味方をしてくれる。クロちゃんはマイベストフレンドだ!)
俺はクロちゃんを味方につけ、胸を張ってギンと向かい合う。
すると意外なことにギンは一歩下がり、毛を逆立ててこちらを睨んだ。
「……なんだその死霊は。その邪気……実に不快だ」
ギンが吐き捨てた言葉を聞いた俺は衝動的に足を踏み出した。
「おい、何かよくわかんねぇけど、クロちゃんを悪く言うのは許さね……」
右腕を振り上げようとしたとき、たくさんのクロちゃんたちが俺の体を優しく包み込んだ。
後ろから抱きしめてくるクロちゃんたちはいつもより冷たく、少し震えている。
何かに怯えているようだった。
クロちゃんの体温で血ののぼっていた頭が冷える。
俺は首にかかっているクロちゃんを右腕でそっと触れると話しかけた。
「大丈夫だよ、クロちゃん。ギンが何と言おうが、クロちゃんはこの世界の初めての友達で、俺の親友だ!……クロちゃんがよければ、だけど」
俺が言い終わると、クロちゃんたちの抱擁が一瞬だけ強くなり、そのあと俺からはがれていった。
俺の右手、左腕をしてくれていたクロちゃんたちも俺から離れ、遠ざかっていく。
「え、クロちゃん?」
振り向いた俺の視界にクロちゃんが映ることはなかった。
「おい、ギン! お前がひどいこと言うからクロちゃんがいなくなっちまったじゃねぇか!」
俺を見つめるギンの目は冷たく、視線が刺さる。
「……もしかして、俺の親友認識が気持ち悪かった、とか?……そうなのか!?」
泣きつく俺をギンはけんもほろろに突き放した。
今日はもう一話上げげます。




