第二十二回 戦いの果て
世川の攻撃があたる寸前、思わず目を瞑ってしまった俺は、待てども来ない衝撃に、恐る恐る目を開けた。
眼前には白い少女の華奢な背中が広がっていた。
(あれ、生きて……ないけど、生きてる)
見下ろすと見慣れた学ランと、心配してくれていたのか体に大量に張り付いているクロちゃんたちが目に入った。
どうやら俺は白い少女の体から追い出されたようだ。
(そう言えば世川の殺人光線が……)
周囲に目を配ると白い少女をめがけて、か○はめ波が撃たれたんじゃないかと思われるぐらいに地表がえぐれていた。ただ、両手から剣を生やしている白い少女は世川の全力殺人光線を受けきったのだろう。少女と少女の背に隠れる位置にいたギンは無事であった。
この惨状をもたらした世川は力を使い切ったのか気を失っているように見える。
「今の攻撃を凌ぐなんて、それはやはり聖剣……?」
ギンの後ろから出てきたフジさんが何やら呟いている。
どこか物思いにふけっているようなので、今のうちに針を抜かせてもらおう。
「ギン、今更大量出血なんかで死ぬんじゃねぇぞ」
右手と左腕のクロちゃんに手伝ってもらい、俺はギンに刺さっている針を抜いた。
「よし、早くずらかろうぜ!」
ギンはフジさんの針で拘束されていた体が急に自由になり、大きく体勢を崩した。
俺は慌ててギンを支えようとしたが、幽霊の俺ではギンの体をすり抜けるだけだった。
ギンはそんな俺を静かに見つめていた。
(何か小っ恥ずかしいなこれ……)
「い、行くぞ!」
とギンに声をかけたその時、ギンの背後にいた白い影が何かを振り下ろすのが見えた。
ごとり、とギンの首が落ちた。
「私の」
白い少女が首のないギンの胴体にしがみついた。
「……撤退する! カンダ君、セガワ君をこっちに連れてきて!」
やっと沼から抜け出したカンダと呼ばれた勇者が意識のない世川を担いでイーサンの元へ走っていく。
カンダは首のないフジさんを横目で見ると、歯を食いしばり通り過ぎた。
イーサンの治療をしていた女勇者がわめいている。
「しおりんがぁ、しおりんも連れてこなきゃ!」
「諦めるんだ。あの白いお嬢さんには近づかない方がいい。わからないことが多すぎる……」
止めるイーサンの手をすり抜け女勇者が走り出そうとするが、世川を抱えたカンダに捕まり、連れ戻された。
「イーサン、行ってくれ!」
4人が揃うと地面に大きな魔法陣が浮かび上がった。いつの間にか移動していた幽霊フジさんが魔法陣に駆け込むと同時に5人は光と共にこの場から消えた。
森に静寂が戻った。
生きているのは白い少女ただ一人。
まだ熱の残るギンの躯に抱き着いている。
そんな少女を幽霊の俺とギンが呆然と眺めていた。
「……」
「……」
「……なに死んでんだよ、ギン!」
俺はいつの間にか俺の横にたたずんでいた半透明なギンに詰め寄った。
ギンは然もうるさいと言わんばかりに顔をしかめ、こちらを睨んでくる。
その眼力に圧倒され、思わず一歩さがる。
しかし、その上からの目線を見ているとだんだんむかっ腹が立ってきた。
俺は唇を強くかむと、口を開いた。
「なんで、なんで逃げなかったんだよ!分が悪いことくらいわかってたんだろ!なんで無茶して、死にに行ったんだよ!
お前がこんなところで死ぬから、俺ここから動けなくなっちまったんだぞ、おい!」
俺に手が残っていたら相手の襟首をつかむくらいの勢いで怒鳴った。
そんな俺をギンは感情の読み取れない目で見つめると、おもむろに前足を上げる。
その行動を訝しんでいる俺をギンがはたいた。
脳天を走る衝撃に頭を抱えようとしたところで、何かに押されて体勢を崩す。
ひっくり返った俺をギンの前足が踏みつけた。
苦しさに目を見開いた俺は、視界いっぱいに広がるギンの鋭い牙に冷や汗が噴き出した。
「黙れよ、人間」
低く腹の底から響いてくるような声が鼓膜を揺さぶった。
「お前らの指図は受けん。最後くらい静かにしておれ」
ギンはそれだけいうと俺から足をどけ、少し離れたところにうずくまった。
俺は体を起こすと、心配をしてか集まってきてくれたクロちゃんを撫でながらギンの方を眺める。
何となくはわかっていた。
俺がギンに取り憑いて、初めてギンが人間を殺したときだった。
殺しつくした後のギンは空虚に見えた。
たぶんあれは、虚しさだろう。
きっとギンは自分の復讐が虚しいものであるとわかっていたんじゃないか。
だけど虚しいとわかっていながら、人間を目の前にすると殺さずにはいられなかった。
(たぶんこいつは誰かに止めて(殺して)ほしかったんだ)
こいつに取り憑いていたから、こいつの気持ちを察することができたのだろう。
ギンは頭を上げ、空に昇っている白い月を眺めている。
細かい光を散らしながら徐々にギンの体が薄くなってゆく。
「お前、行くのか? 一人で?」
俺が尋ねてもギンはこちらを見ようともしない。
「今思えば一緒にいたのは短い期間だったんだな」
俺はギンの方に一歩踏み出す。
「お前に体食われたとき、なんかすごく切なくなったんだよな」
もう一歩近寄る。
「お前が人間虐殺すんの見て、気分わるくなったし」
さらに一歩。
「だけどお前、自分でたくさん殺したくせに、元気なくすし……」
ギンの前にたどり着く。
「俺、覚えてるぜ。お前を……」
右手のクロちゃんにお願いして拳を強く握ってもらう。
体重を後ろにかけると左足を思いっきり踏み込んだ。
「一発殴るっていう誓いをなぁぁぁぁああ!」
拳を高らかに振り上げた俺はクロちゃんから伝わる確かな感触を噛みしめた。
気が付けばみんな首が無くなっている。




