第二十回 続、勇者との闘い
フジさんの死に気を取られた俺はギンの異常に気付くのが遅れた。
腹部を貫通されたが、息のあるイーサンにギンはまだとどめを刺していなかった。
否、刺せていなかった。
死してなお、フジさんの手が持つ長い針がギンの心臓を串刺しにしていたからだった。
(フジさんやべぇ! 心臓に刺さったものを抜くと血があふれて失血死ってよく聞けど……どうすれば)
焦る俺の耳に不気味な笑い声が響く。
「フジ君、ありがとう。君の死は無駄にしない!」
声の方に振り向くと、赤黒い文字がびっしりと刻まれた右手をギンに伸ばすイーサンが見えた。
その禍々しい右手は俺にでもやばいものだとわかる。
(やばい! こいつが言ってた奥の手ってこれか! 間に合わない!)
咄嗟に自分の左手をイーサンとギンの間に滑り込ませた。
「もってくれ俺の左手っ!」
イーサンの右手と俺の左手がぶつかった瞬間、激痛が左腕を駆け上る。
「うぐっ!」
(なんだこれ、騎士の捕縛術の時とはまるで違うじゃねぇか!)
「いったい何が!? 阻まれている!?」
イーサンも驚きを隠せずにいる。
そしてまばゆい閃光と共に俺の左腕が爆ぜた。
爆圧により後方に吹っ飛び、俺はギンにめり込む。
イーサンの方もはじき返され、後ろにひっくり返っているのが見えた。
(そんなことよりもだ!)
自分の左肩を見ると、肩より先が何もなくなっている現実に直面した。
「うわああぁぁぁあ! どうしてくれるんだよ、俺の左腕! 制服もワイルドになってるし! だからさっさと逃げようって言ったんだよ! この野郎!」
ギンに蹴りを入れる俺を戻ってきたクロちゃんたちがなだめてくれる。
しかし、なかなか怒りが収まらない俺はギンにガンを飛ばした。
心臓に針が刺さり、苦しそうなギンがこちらに目を向ける。
(……あれ? こっち見てる?)
ギンの黄昏時の色をした瞳にはいつもの様な激情が見えず、見つめられている俺の体は芯から冷えていくようだった。
(もしかして、ギンは諦めて……)
その時、俺の思考を遮るように俺の腹からぐるると音が鳴った。
「……こんな時に腹が空くなんて、我ながら図太い神経してるな」
腹をさすり、ギンに視線を戻すと、ギンは目だけを動かして後ろを見つめていた。ギンの背後を確認しようと背伸びする俺の後ろで、イーサンが声を上げた。
「セガワ君! 早まるんじゃない!」
振り返ると、イーサンはもう一人の女勇者に治癒魔法をかけてもらいながらすごい剣幕で怒鳴っている。
イーサンの視線の先には横山(仮)がいた。
「お前は、お前だけは許さない! フジさんをよくもぉぉぉぉぉお!」
(あ、あいつの名前世川だったな!)
ものすごい形相をした横山(仮)改め世川がギンの作った沼を這い出てくる。
(やばい、あいつギンを殺す気だ! 逃げねぇと!)
慌ててギンに視線を戻し、ギンに刺さった針を取ろうとするが、そこでもう俺には手がないことを思い出す。
すると察しの良いクロちゃんたちが俺の右手、左腕に納まってくれた。
「! ありがとうクロちゃん」
クロちゃんたちが針に触ろうとしたとき、誰かの手がクロちゃんたちを遮った。
「え、君は……」
俺とクロちゃんたちを阻むように立っていたのは首を取り戻した半透明なフジさんであった。




