第二話 お墓は建てて欲しかった
人名や地名はかなり適当です。ストーリー上あまり重要ではないので。
騒然とする召喚の間に一人の声が響いた。
「おいっなんだあれは! 説明しろ!」
「お、落ち着いてください。聖騎士長殿……」
王宮魔導士長は乱れた襟元をただしながら説明する。
「どうやら勇者召喚に一般人が紛れ込んだようです。
勇者であれば強力な時空魔法である召喚にも耐えられますが、一般人であればそうもいきません。」
「……ちっ。だから魔法なんてものは信用ならんのだ!」
「一般人を巻き込んでしまいましたが、今回勇者を4人も呼び出すことに成功しました。
これは魔王に対抗する強力な戦力となり得ます。」
王宮魔導士長は聖騎士長を説き伏せると騎士たちに一般人の肉塊の処理を頼んだ。
そして体調のすぐれない勇者たちを介抱するよう下級魔導士に言いつけると、勇者たちに向かって語りかけた。
「私はイシュタル王国の王宮魔導士長ランザ・グランドと申す。
まず了承も得ず、一方的な召喚をした非礼を詫びたい。
そして貴殿たちに頼みたいことがある――」
「え、え? 俺、だよなあの肉塊……
え、どういうこと? あれ? なに、俺、死んだ…のか?」
騎士たちによって片付けられてゆく肉塊を見ながらつぶやいた。
しかしその声は誰にも届かない。
一人たたずむ少年の方へ目を向ける者は誰もいなかった。
「もしかして俺、幽霊……とかってやつ、なのか?
――はは、幽霊ってマジでいたんだ……」
乾いた笑いがこぼれる。
自分の手に視線を落とすと、大理石の床が透けて見えている。
大きな白い布に包まれてゆく自分の体を呆然と眺めていると、混乱していた思考にある感情が芽生えてくる。
「――なんで、こんなことになったんだよ……。俺、家に帰ってたよな……?
今日発売のジャ○プ買って、読むの楽しみに、帰ってたんだよっ!
どうして、俺、まだジャン○読んでねぇのに……それに、ほかにもまだ……!」
感情に任せて吐いていた言葉が途中で詰まった。
「俺、まだ……やりたいことが、」
言葉を絞り出し、気が付いた。
(……俺、特にやりたいこと、なくね?)
少年には夢がなかった。将来にこれといった希望もなかった。
彼の立てた人生プランには『老衰で安らかに死ぬ』という計画しかなかった。
「強いて言えば女子に告白されてみたかったな……」
などと少年が言葉を洩らしているうちに、大まかな肉塊を回収した騎士たちは撤収していく。
少年は肉塊の包に引っ張られることに気が付いた。
少年のささやかな抵抗もむなしく、彼は彼の肉塊とともに召喚の間を後にしたのであった。
「はぁ、いやな役に当たっちまったな……」
「……勇者召喚っていつもこんなことが起こるのでしょうか?」
「いや、一般人を巻き込むなんて聞いたことないな」
「……俺、もう肉が食えませんよ。思い出しちゃって」
「……」
騎士たちは王都の城壁を越えた外の森に肉塊の包を埋めていた。
「だが、一般人があんなになっちまう召喚を勇者は耐えた。
奴らただのガキにしか見えなかったが、本当に魔王を倒す力があるのかも知れねぇ。
巻き込まれちまったこいつには悪いが、今回の勇者召喚で希望が見えたぜ……」
「そう、ですね!」
そして土をかけ終えた騎士たちは王都へ帰っていった。
日が落ちつつある暗い森に静寂が戻る。
町から離れ、人は訪れず、魔物もあまり姿を見せない森の入口。
彼は一人残された。
「あ、お墓とか建ててくれないのか……」