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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第二章 シロ
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第十四話 ぅゎιょぅι゛ょっょぃ

俺の危惧していたことがまさに今、起ころうとしていた。

「おい、ギン止まれ!」

俺の伸ばす手もむなしく、ギンは白い少女に向かって駆ける。


(あんな細っこい子、ギンの一振りでばらばらになっちまう!)


ギンの体を乗っ取る間もなく、少女は目の前にまで迫っていた。

「逃げろ!」

少女に向かって届かない声を張り上げたとき、少女の心臓の真上あたりが赤く光った。

ギンは少女の首筋に食らいつこうとした瞬間、何かを感じ取ったのか、咄嗟に首をひねる。

直後、俺は首に鋭い熱を感じ、うめいた。

「いって! なんだ!?」

左手で首を抑え、少女の方を見る。


先ほど光った少女の胸から細身の白い刀身が突き出ていた。


足元のギンは少女から素早く距離を取る。

首元の銀色の毛が血で濡れていた。


(え、何あの女の子!? 胸から剣が生えた!?)


俺が驚いている間にギンは少女の後ろに回り込み、攻撃を仕掛ける。

刹那、少女の背中が3か所光ると同時に、細長い刀身が3本飛び出した。


「いってぇ! また!?」

左腕を見ると制服が裂け、腕が浅く切れている。


ギンも左腕から血を滴らせつつ、少女から離れていた。


(なんかギンと同じとこに俺も傷負ってるんだけど!?

今までこんなこと、なかったぞ…)


少女は突き出ていた刀身を引っ込め、ふらつく足取りで近づいてくる。

ギンは苛立たし気に唸り、前足で強く地面をたたいた。

次の瞬間、ギンの足跡が光はじめ、地面を沼地に変えてゆく。

そしてギンがさらに吠えると、少女の足元が光り、沼は大きく口を開け、少女を飲み込んだ。


「え、殺しちゃったのか……」

少女の沈んだ沼を注意深く眺めるギンを見て、まだ戦いは終わっていないことがわかった。

少女を飲んだあたりがふくっと膨らみ、突然はじけた。

手のひらから細身の刀身をはやした少女が現れる。

ギンがまた低く唸り、沼は少女の足を絡める。

しかし少女の一振りで沼は幻のように消えてしまった。

ギンがその光景に目を奪われた一瞬に、少女はゆらりと手のひらをギンに向けた。

その手のひらは赤く光っている。


「なんかやばいぞ!」

俺がそう叫んだ瞬間、少女の手のひらから一振りの剣がはじき出された!

(間に合わない!)

俺が咄嗟に剣を遮るように無い右手をかざしたとき、どこからか現れたクロちゃんが俺の右腕に巻き付き、俺の右手の位置に納まる。


「クロちゃん!?」

俺が右腕を引っ込める間もなく、剣とクロちゃんが衝突した。

激しい音と光に感覚を奪われた直後、右腕が勢いよく弾かれる。

勢いを殺しきれず、後ろに宙返りをきめた俺はギンから2メートルほど離れ、静止する。


青い宝石が飛び散り、ギンと少女の間に鍾乳石が降り刺ささる。

クロちゃんによって軌道がそれた剣は天井に突き刺さっていた。


俺は慌ててクロちゃんに呼びかける。

「く、クロちゃん! 無事かっ!?」

俺の右手に納まっているクロちゃんは握った拳から親指をぴんと立てた。

どうやら無事なようだ。


ギンは不可解そうに少女と剣に目を走らせ、わふっと吠えた。

ギンの声に反応した沼は大きく波打ち、再び少女へと襲い掛かった。

沼が少女を覆った瞬間を狙い、ギンは鍾乳洞を飛び出した。


(まさかこいつに逃げる脳があったとは!)


俺が驚いている間にギンはトップスピードに至り、鍾乳洞は遥か彼方に見えなくなった。


1時間ほど走り続けたのではないだろうか。

日が少し傾き、空に茜色が差している。

速度を緩めたギンは背の高い草むらの中に崩れるように倒れこんだ。

「お、おい! 大丈夫かよ」

俺と同じ傷ならそんなに深くないはずだが、横山(仮)たちを襲った時より大分辛そうだ。

俺にまで及ぶあの白い少女の攻撃が何か関係してるのかもしれない。


ギンの苦しそうな呼吸が不安になり、顔を覗く。

すると、ギンが左目を薄く開け、鼻にしわを寄せ少し唸る。

まっすぐにこちらを射抜く金の瞳に、慌てて後ろを確認する。

後ろに広がる薄暗い森には生き物の気配はない。

ギンの方へ振り返るとすでに意識が落ちた後であった。


「今、もしかして俺のこと見えてたのか?」

居心地がいいのか、俺の右手に納まっているクロちゃんは「さぁ」というように手のひらを見せる。

「まさか、そんなことないよな」

俺はギン上で胡坐をかき、右手にいるクロちゃんに話しかける。

「さっきはありがとう、クロちゃん。助かったよ。手ケガとかしてない?」

クロちゃんは静かに親指を立てる。

(頼もしいよ、クロちゃん。俺なんか騎士の光をえんがちょしただけで右手吹っ飛んだのに)

自分の貧弱さにへこんでいると、右手のクロちゃんが俺の左腕をさすってくれた。

裂けた制服からのぞく傷は消えていない。首の切り傷も痛みは無いが、まだ残っている。

この傷をつけたであろう少女の白い刀身を思い出し、背筋が寒くなった。

(死んだ後も痛い目見るなんて、ごめんだ。できればもう会いたくないが……)


いつの間にかすっかり日が落ち、ただの草原だと思っていたあたり一面には花が咲いていた。銀色に輝く花畑の上には蒸しパンのような月が2つ昇っている。

「なんか、腹減ったな……」

夜の森に俺の独り言が漂った。



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