第十三話 白い少女
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眩しさに目を細め、右手をかざす。
かざした手が光を遮ることはなかった。
(手が生えてこない……)
狼ことギン(これまた勝手に命名)が人を襲撃してから2日経った。
ギンはあのあと森に入り、この鍾乳洞を見つけ、ずっと休んでいた。
もう寝込みを襲いに来る魔物を軽くあしらうほどに回復している。
相変わらず直りが早い。
なお、今はお昼寝中である。
(……俺も1日くらい経ったら治ると思ってたのにな。)
騎士の光(捕縛術?)にチョップをしたせいで消し飛んだ俺の右手は帰ってこない。
じわじわ治ってます、というような気配すらなかった。
「利き手なのに……」
何度目かわからない溜息をつき、俺は思考を右手から昨日の勇者へと移す。
最後、ギンに攻撃を仕掛けたであろう勇者が、中学の時そこそこ仲の良かったあいつだったとは。
確か名前は……横山だったような気がする。
(横山(仮)が勇者かぁ。こっちの世界で知り合いに会えるとは思わなかったから、ちょっと嬉しいが……)
足元にうずくまるギンを見る。
(俺、ギンといる限り、どう考えても横山(仮)とは敵対関係だよな)
空虚な右手から視線を外し、洞窟の天井を眺める。
視界一面に広がる青い宝石のような鍾乳石が薄暗い洞窟内に光を拡散し、星空を作り出す。
「綺麗だな、クロちゃん」
隣にいたクロちゃんが同意するように体(腕?)をゆらゆらと動かした。
クロちゃんたちに囲まれながら、先日のショッキングな出来事で荒んでいた心を美しい風景で癒しているときであった。
ギンの耳がぴくっと動いた。クロちゃんも何かに気が付いたのか、さわさわ動き始める。
また魔物が現れたのかと思っていたが、ギンの殺気立った様子を見て考えを改める。
また人間じゃあないだろうな、とギンの視線の先に注目した。
洞窟の奥、宝石のつららが織りなす青い世界からぺたぺたと足音が聞こえてきた。
つららの合間から見えたのは真っ白な少女だった。
磁器のような白い肌に絹糸のようにつややかな髪。
細い首にはめられた武骨な首輪が鈍色に光って目立っている。
少女の淡い色の瞳がギンを捕らえた。
「……お腹すいた」
少女の口からは澄んだ声と共に透明なよだれが垂れた。




