第十二話 お前なんか
夕日で毒々しいほどに赤く染まる死体と、その中にたたずむ俺。
数日前までは普通の高校生だったのになぁと哀愁の念に浸る。
早いとこ、ここから去りたい俺の意に反して、足元の狼は動かない。
何を考えているのかは知らないが、静かにこの景色を眺めている。
ただ、その目に光はなく、ひどく空虚に見えた。
何度目かわからない溜息をついた俺は見える風景に違和感を覚えた。
(……死体が、動いてる?)
とっさに狼の体の後ろに隠れ、様子をうかがう。
「お、俺のお友達(幽霊)が爆誕するのか!?」
(声が震えまくっているのはあれだ、歓喜の震えだ。お化けなんて怖くねぇし!)
薄暗いから目の錯覚かも知れない、と淡い期待を込めて目を凝らす。
死体にたくさんのクロちゃんたちが纏わりついていた。
盛大な溜息をつく。
「――というか、浮気なんて! クロちゃん見損なったわよ!」
俺のそばにいたクロちゃんを左指でつんと突く。
クロちゃんたちは地面から次々にわいて死体にへばりつく。
かなりおぞましい光景だった。
「ねぇ、クロちゃん。何やってるの? あれ」
隣のクロちゃんに聞いても答えは返ってこない。
以前俺もクロちゃんたちに全身を覆われたことがある。
(きっとクロちゃんは人に張り付くのが好きなのだろう。
深く考えるのはよそう。考えたってわかんないし)
俺がクロちゃんについての思考を断念したとき、狼がやっと動き出した。
自分が殺した死体には目もくれず、ゆっくりと森の中へ入っていく。
尻尾を垂らしてとぼとぼと歩く後姿は、ひどく小さく見える。
つややかだった銀の毛は、血と泥で汚れ、輝きを失っていた。
森の闇の中に消えそうになっている姿に、俺は妙な苛立ちを感じた。
「お前、なんか大層な名前で呼ばれて、恐れられているようだったけど、何だよ、その姿は。憎くて、殺したくて、殺したんじゃないのかよ。
付き合わされてる俺のことも考えろ! やりたくて殺したお前がなんでしょげてんだよ。……なんでそんなに辛そうなんだよ。意味わかんねぇよ!」
俺は言葉を切った。
(なんで俺はこんなにイラついているんだ?)
深く息を吐く。
(何を言っても無駄だよな……、幽霊の俺がこいつに向かっていくら喋っても、物理的に通じないし。はぁ、怒ると疲れるな……)
「いいや、お前の好きにしろ。お前のじん……獣生だ。俺の知ったこっちゃない。
……だが、俺はお前を、今日聞いたかっこいい名前では呼ばんぞ。
お前なんて銀色の『ギン』で十分だ!」
言い終えると俺はギンの背の上で仰向けに寝転がる。
木々の間から見える空には星が薄く輝いていた。
これで第一章は終わりになります。
第二章冒頭部分は今日中にupします。




