第十一話 戦いの終わり
今まで一話の文字数が少なかったので、増やしてみました。
光の破片が舞い散る中、狼と神官が対峙する。
神官は準備していた次の魔法を仕掛けた。
神官の薙ぎ払った手から光のナイフが5本放たれる。
狼は臆することなく神官へと突っ込んだ。
狼から離れられない俺は、ナイフがかすめるたび、無い肝がガンガン冷えていく。
距離を詰めた狼は神官へ鋭い爪を振るう――
ように見えた。
狼は振りぬいた足で地を蹴り、神官を飛び越え後ろの4人に迫る。
「――っ! させぬよ!」
初めのものよりは小さいが、4人を覆う半球状のシールドが立ちふさがった。
印っぽいものを結ぶ神官の手が震えている。
狼は神官を睨み付けた。
俺はその時、半球状のシールドから糸のように細い光が漏れ出しているのに気が付いた。
その光は間にいる俺をすり抜け、狼に向かってぴんと張られている。
騎士の捕縛術とは少し違うようだ。
「なんだこれ? 予測線みたいだな……って、それまずくないか!?」
神官へと向かう狼は心臓を狙う光に気づいていない。
「動きが読まれてる。当たっちまうぞ!」
俺の声は狼に届かない。
(いくら強くてもこいつは生き物だ。いつか死ぬ)
「気づけよ、この鈍感!」
俺の蹴りを放った足が狼にめり込んだとき、また頭の中で声が響き始めた。
――ニクイ、憎い!――
「あっつ、体が……」
視界が揺れ始めた。声に意識が呑まれる……!
――我が伴侶を殺したニンゲン!
(殺してやるぞニンゲン! あと一歩、爪が届く!)
その時、俺は胸を焦がす熱い衝動を抑え、全力で後方に飛びのいた。
視界の端に映る光の線が赤みを帯びた瞬間――
まばゆい光と轟音が脳を揺さぶった。
憑依していた狼からはじき出される。
空中をぐるんぐるんと回転し、2mほど離れ停止した。
「何とか躱せたようだな……」
揺れる視界に、神官と狼の間に走る大きな亀裂が映った。
その亀裂は半球状のシールドを突き破って伸びている。
そのシールドの割れ目から力強い少年の声が聞こえた。
「おっさんっ! 転移できるぞっ!」
おっさんと呼ばれた神官が素早く何かつぶやいた。
意識が戻った狼は急いで神官に飛びつく。
しかし、狼の爪が獲物を捕らえることはなかった。
5人が転移する直前、俺はシールドの割れ目から4人の顔が見えた。
俺と同時に召喚された勇者たちだった。
奥から、こちらを見据える幸薄そうな美少女。
先ほど神官に声をかけたであろう、がっしりとした少年。
この世界に来て、俺に精神的に大ダメージを与えた女子。
そして涙の跡が残る顔を歪め、赤く発光する短剣を構えた男子。
(あ! あいつは中学の時同じクラスだった……)
「名前、何だっけ……?」
結構しゃべってたのになーと頭をかしげる俺の下で、狼が悔しそうに遠吠えしていた。
戦いの最中は忙しすぎてそれどころではなかったが、
戦いが終わった今、見渡すと周囲は凄惨なことになっていた。
気分が悪くなってきた。
そもそも中身なんて無いので吐くことはないが、つい手を口に添えてしまう。
そこで気が付いた。
(……右手が、ない?)
手が透明で見えない、とかではなく、右手首から先が完全に消滅していた。
「は? なんで!?」
脳裏に召喚直後のスプラッタな自分の姿がフラッシュバックする。
原型を留めていない体を他人事のように見ていた時とは違う。確かに俺の右手が無くなっている、と実感してしまった。
頭がぐるぐる回りはじめる。
歯がガチガチ鳴って止まらない。
その時、背中を優しく撫でられた。
ひんやりとしていて、気持ちが静まっていく。
「……ありがと、クロちゃん。クロちゃんには助けられっぱなしだな」
クロちゃんにお礼を言い、冷静になった頭で考える。
見当はすぐについた。
(あの騎士の光にチョップしたときだな。
あの時、俺は霊体で初めて痛みを感じた。きっとそれが原因だろう)
少し気が楽になった俺は右手について考えることを放棄した。
(悩んでも手は生えてこないしな)
(にしても……)
俺は周囲を見渡し、げんなりする。
(どうせ取り憑くならもっとハートフルな生き物がよかった……)




