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外から大勢の生徒の歓声が聞こえてくる。試合ーー神聖試合は学院の行事の一環だ。生徒らが盛り上がりも頷ける。なにか開会式のパレードでもやっているのだろう。試合をするのは八組、四試合するそうだ。俺たちの組みは最後ということだった。


「ふぅ......」


長椅子に座り、ゆっくりと息を吐く。

大勢の前に出るのは流石に緊張するな......。元の世界でもそんな機会なかったしなー。


「もっと、シャキッとしていこー!」

「ぶほっ」


不意に背中を叩かれる。


「......やっと、来たのかルーティア」

「いやー、寝坊しちゃってさー」


コイツ緊張感無さすぎだろ。少しはもってほしいな、仮にも相手と剣を交えるんだからな。どうせ、死ぬことはないんだろうが。


「お前はもう少し緊張した方がいいぞ」

「緊張してるよー」


絶対してねぇ。


「......そんでお前の剣返しとくな」


俺はそう言い隣に置いていた剣を手に取る。十字を型どった両手剣は、美しい装飾がなされていて、武器というよりか、芸術作品といったところか。どうやら父親の形見らしいな。昨日会った俺にそんな大切なものを預けられるコイツの神経がしれないが、相当俺をパートナーとして期待しているらしい。


「ああ、ありがと! 」

「その剣、俺を魔力媒体として能力が使えるようにしといたんだが......どんな能力か分かるか? 」


実は伝説の勇者の剣の噂は聞いたことがあるから能力の予想はつくんだが。試す方法が無かったので一応聞いてみることにする。


「んー......よくわかんないんだよねーー私魔力無いからさ」


剣を抜き取り刀身を懐かしいものを見るように見る。刀身は水晶のように半透明で、部屋のランプの霊符の明かりで輝いていた。特殊な素材らしく魔力に反応して光るらしい。

「あ、でも体は何だか軽くなった気がするよ」


成る程、身体強化は付いてんのか。

すると、ルーティアが何か思い出したような顔をする。


「そう言えばシュウヤくんて珍しい瞳の色してるよね?」

「ああ、黒い瞳はこの世界では珍しいんだよな、黒髪は多いみたいだが」


手で自分の短い髪をかきあげる。相変わらずのボサボサ感。


「この世界?」

「あ、い、いやこの世界ってのは都会ってこと!俺の生まれ田舎だからさ」

「へー、シュウヤくん田舎者ものだったんだぁ......」


やめてくれ、そんな珍しいものを見るように近づくのは。


「それでなっ! その剣《天嵐の十字剣(シエロ・クルス)》の能力なんだが」

「シュウヤくん名前知ってたんだ!?」

「いや、だってお前の父親、伝説の勇者じゃん。武器の名前ぐらい知ってるって」

「最近の田舎者はクオリティー高いなぁ」

「......」


お前があっちの世界の言葉を知ってることにも驚きだよ。


「それで?」

「......噂でしか聞いたことないんだけどーー」


******


暫くして目の前の扉が開き、どうやら俺らを呼びにきた女性が入ってくる


「クレイドさんとヤガミさん。そろそろお願いします」

「時間、みたいだな」

「うん、時間だね」


そう言い二人同時に立ち上がり、女性についていく。


「作戦どうりに頼むぞ」

「任せてっ! 人に言われたことをやるのは得意だよ!」

「いや、お前、授業中に食い物食ってたじゃん」

「そう言われれば......じゃ、やっぱり得意じゃないねっ!」


この調子で大丈夫だろうか。やはりコイツとはパートナーを組むべきじゃ無かったんじゃ......。


「相手には申し訳無いなこの作戦」

「んー、そうかもねー、こっちも運次第かな? 予想通りの能力だといいんだけど」

「そうだな......あと言わなきゃいけないんだけど......」

「なに? 愛の・く・は・く?」

「ちげぇよ! それと肘でつつくな!」

「じゃあ、何?」

「俺、魔力はあるんだけど......通常魔法使えないんだよな」

「え?」

「ああ」


突然の事実に立ち止まり石像のように固まるルーティア。開いた口が塞がらないっといたところだろう。そして次に口にした言葉は。


「終わった......」


ルーティアはそう言い、膝から崩れ落ちた。


「いや、まて! 早まるんじゃない! 俺が使えないって言ったのは通常魔法(・・・・)な」

「あ、あぁ......」

「......特有魔法なら使えるんだよ、少しだけ」

「......魔法が使えない......私と同類......私の仲間......わかったよっ! シュウヤくんとこれから傷のなめあい仲間だね!」

「話がズレてる! 落ち着け落ち着くんだ!」


焦点の合っていないルーティアの肩を揺すって、なんとか正気に戻そうとする。


「あの、早くしてくれませんか? 試合が始まってしまいます」


ふと、前方を見ると冷淡な目で俺たちを見る生徒の方。


「「はい、すいません」」


******


観衆の歓声の中、眩しい太陽の光射し込む合の対戦場に立つ。試合会場は丸っきりコロッセオ。予想して通りで良かった。


「なにこの炎!?」


どうやら思考が正常に戻ったらしいルーティアが胸に灯る炎に驚嘆の声をあげる。


「お前、話ぐらい聞いとけよ......。その炎が今回の試合での自分のHP......体力というよりかは精神力に比例するらしいを表しているらしいな。炎が消えれば負けらしいな」

「すごーい! こんな便利なものあったんだ!」


興味津々で「おー、熱くない熱くない」とか言って慶んでいる奴は放っておき、前方の方に目を向ける。

そこには同じように立っているレイド。一人(・・)で。

髪は窶れ、顔は青白く眼はどこを見ているか分からないからない。


あれって......


『では今年の初行事である神聖試合、最後の取り組みを始めます』


けたたましく場内をこだまするアナウンス。


『場外への被害防止のため魔術結界を張り、試合を開始します』


盛り上がる会場。円台の周りを透明な膜のような魔術結界が空へと延びてゆく。


『それではーー』


「ヤガミシュウヤ、『神速の黒騎士』 ーー思ったより弱そうだな」


レイドが落ち着いた声で口にした言葉。そこには明らかな敵意が隠っていた。


「お前っ!」


『開始します!』


アナウンスが終わった瞬間、レイドが炎に包まれる。しかし、武器にもそのレイドらしきものは笑っていた。

そして炎が燃え尽き残っていたのはーー男、レイドではない男。


「......よぉ、ヤガミとやら。俺は《新革命軍(トランプ)》のテルス=メニアルっつーんだ。因みにクラスはジャックなんだが」


そのメニアルと名乗った男はにへらと笑いながら、腰の剣を撫で回すように触る。


「嘘だろ......神格者以外の闇ギルドの配員!?」

「......闇ギルド?」


くそっ、気づけなかった! レイドを素体として転移魔法を使いやがった。あのレイドの表情は間違いなく洗脳された状態。目的は不明、だが相手の様子からして殺らないと殺れる。

ジャッククラス、其処らの上位魔術師五人分ぐらいの強さか。今の俺だと倒せる可能性が低すぎる。せめてルーティアだけでも逃がしておきたいところだが。ルーティアを見ると静かに敵を見据えていた。いつもとは全く違う雰囲気を漂わせている。


「取り合えず、あの人が闇ギルドの配員なら勇生として拘束しなくちゃね」


そう言い剣を抜くルーティア。


「おっ、そこの娘はやる気あるねぇ、だけど用は君にはないんだよねっ!」


そう言い抜刀しこちらに駆け出す。


「ふぅ......」


ルーティアが同時にゆっくりと足を前に踏み込み、剣に手をかける。

その刹那、ルーティアの姿が消えた(・・・・・)。かき消えたのだ。驚愕に顔を歪ませる敵。しかし、その顔を浮かべる時間も与えられない。


「ぐふっ!」


ルーティアの剣が敵の腹部を一閃し、そのまま後方に吹き飛ばされる。しかし、敵も闇ギルドの幹部クラス、受け身をとり攻撃を受け流す。


「はは、思ったより強そうな奴がいるじゃねえか。だがーー」


奴の持つ剣が赤くなり、徐々に炎を帯び始める。

それは紅蓮の炎。まるで生きているかのように体を中心に渦巻き始めた。かなりの高魔力体であることが体に伝わる威圧感で分かる。


「これはどうかな?」


渦から複数の炎が蛇のように突出する。不規則に動きながらも確実にルーティアを狙った軌道を描いている。対してルーティアは剣を敵に構えたまま動かない。受け止める気のようだ。


あれだけの魔力を魔法武器だけで受け止めるなんて無謀すぎるだろ!?


口に出すよりも体が先に動き、ルーティアの前に躍り出る。途端に襲う光と熱。

強烈な爆発音。直撃だ。普通なら生きていられないだろう。|普通なら(・ ・ ・ ・ ) 。


「間に合って良かったな......」


体中が熱い。音がさっきよりも鮮明に。体から溢れんばかりの魔力。そして手には白く輝く槍(・・・・・)があった。

煙を槍でで振り払う。煙が俺を恐れるように消えていき視界がクリアになった。やはりこの状態(・・・・)は気分がいい。


「そ、それだよぉ! それだぁっ、その()が欲しいんだよっ! これで今の世界は終わり《新世界》が出来上がるぅ! 神のいない世界、いや、神は俺たち、俺たちが神にーー」


突然、俺の武器を見た瞬間狂ったように話し出すメニアル。コイツ何言ってやがる? 神のいない世界? 俺たちが神に?


「ーーだから、だから死んでくれぇぇっ!」


狂った視線を俺に移し紅蓮の炎が俺を襲う。だが武器があり、さらにこの状態(・・・・)だ。この程度大したことではない。だがこの状態はそう長くは続かないな。短期決戦だ。

軽く槍を横になぐ。その瞬間、炎が消滅する。それを見て更にメニアルは狂った笑みを浮かべる。


「流石ただねぇぇっ! ははっ、俺たちの夢がこんなに近くにあるなんて、コーフンしちまうぜぇ!」


「ルーティア! レイドに使う予定だった作戦でいく!いけるか?」


呆然と立ち尽くしていたルーティアを現実世界に引き戻す。


「あ、うん......でもアイツに通用するの?」

「アイツの武器は相当の価値のある魔法武器だ。損はないし友好的だ。それに価値のある分、俺の槍にとっては実行しやすい。


「わ、わかった」

「俺がお前に合わせる、全力で叩き込め!」


さっきはルーティアの速度に追いつくことが出来なかったが今なら出来る。今の状態なら。残り時間もほんの僅かだ。


「りょ、りょーかい!」


何とかモチベーションを上げたルーティアが先に駆け出す。動きがよく見える。まるで時間が止まったように。今ならいける。


「なにするきぃだよぉ?」


顔を歪めながら剣を構える。ルーティアとほぼ同時に出た俺はそのままルーティアと並行に走る。ルーティアは剣を左に、俺は槍を右に振りかぶる。そして一気に敵までの距離を縮める。

走り始めたときと同じく全く同期した俺たちの剣と槍の動き。

そのままメニアルを挟み込むように右と左からそれぞれ横になぐ。

敵の顔に嘲笑がみられる。避けられると思ったのだろう。確かに振りかぶりが長いため奴自体はギリギリ避けることは出来るだろう。

しかし、俺たちの目的は奴自体(・・・)ではない。


「はっ!」


何とか避けられたことに安堵の表情を浮かべるメニアル。

しかし、俺たちの攻撃は終わっていない。俺たちの狙いは奴が避けることが出来ても、一テンポ遅れて動いたもの。

手元の武器(・・・・・)だ!


クロスした俺たちの武器が奴の武器の刃を捉える。そしてそのまま思い切り引き裂く。けたたましく響く金属音、そしてーー敵の深紅の剣はくだけ散った。

さっきとは違った敵の顔の歪みに、俺は薄ら笑いを浮かべる。ルーティアも驚いた様子を隠せないようだ。


ーーまだこれからだよ。


途端、 ルーティアの剣が三人を包み込む程の光を放った。



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