9話
真っ黒な<ネクロマンサー>デイジィ・ブラッドニールは静かに怒っていた。
この幼馴染で同じチームのトラブルメーカー、アンジェリカ・リーフテイルが騒ぎを起こすのは何時もの事ではあるが、人を巻き込まないで欲しいと切に思う。
宿屋で休んでいた所を強襲され、連れ出され走らされる。しかもツバつけとこうとした新米冒険者が巨人族の先祖返りで案山子をホームランでライナー一直線バックスクリーンに突き刺さる?前半はともかく後半は何言ってるか分からない。そして巨人族のどちらの血を引いてるか確認する為に霊を使役する自分が必要?魔法使いの常識として神話の文献を紐解いた事もあるから分からないでもないが別にそれは夜になってからでもよかったんじゃないだろうか。
「ドッズが先走ってギルドマスターに報告しにいっちゃったんだからしょうがないじゃない!」
さいですか。ドワーフは巨人信仰が盛んだからなあ。
でも訓練所を揺らす音はなんなの。先入って確認してきて。
無言で背中を押すなおいばかやめて
バタン!
メリッサは倉庫の中で一番大きかったタワーシールドを振り回すのを止めて
音のなった扉の方を覗きに行くと真っ白いのと真っ黒いのが絡まって起き上がれなくなっていたのを発見した。
とりあえず猫を摘むように起こしてもらって軽く自己紹介を交わしたデイジィとメリッサであるが、元より口下手な二人であるが故に会話は弾みようが無かった、追々慣れていってもらうとして今は本来の目的を果たしてもらおう。デイジィ、と呼びかけると分かっているといわんばかりに魔法の詠唱を開始した。
紹介された真っ白なアンジェ真反対に真っ黒なデイジィの体から僅かに黒い燐光が上るのを見てメリッサは魔法を行使するのだと身構えた。
「<召還>(サモン)<下級死霊>(コープス)」
デイジィの背後がぐにゃりと歪んで卵に羽が生えたようなものが飛び出してきたのが「半分」見えた。
ふわりふわりと自分の周囲を飛び回る姿は死霊とは思えない程愛らしい。
しかしそれが右目には写るのに左目には写らないのである。
それを二人に尋ねると自分に流れているのは古代の巨人、サイクロプスの血で間違いないだろうということ、サイクロプスは本来一つ目なので片方の目にしか魔力は宿らなかったのだろうというのが二人で出した結論だった。
結論が出たならば報告しなければならない。
3人は急ぎ、冒険者ギルド本部へと向かった。
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ギルド受付のニーニャと戦闘試験官シャントットは二人で昼食を食べに近場の宿の食堂に行こうとしていた所、ギルドマスター直々に呼び出されていた。
このギルドマスター、齢60にして夜は娼舘に通い、昼は寝て過ごすという爛れた生活を送っている事で有名なのだ。そんなギルドマスターがまさに真昼間に呼び出しをかけるなんて相当の事があったのだろう、二人は冒険者ギルドの会議室に急ぎ向かったのであるが、ノックしてから入って二度驚いた。
ギルドマスターは当然居るとして、ドッズ・バジルのホーキンス兄弟、<神殿>の司祭様、分からないのが料理が旨いと評判の宿屋<大戦斧>の母子、他のギルド職員は見当たらず自分達だけである、二人して首を掲げてるとギルドマスターのがなり声が響いた。
「お前らで最後じゃい、とっとと閉めんか!
良し、閉めたな?んじゃ早速ニーニャ、お前から聞こう。
昨日朝浮浪者のガキが冒険者登録をしにきたな?
どんな印象だった。」
要領を得ない質問であったが昨日の事なのですぐ思い出せる。
大人しい少年であった事、スラム育ちだった事、人馴れしてない様子だった事。名前が無かったので友人に頼んでメリッサと名づけてもらった事。
全て話した。
「分かった、分かった。
んでその後シャントット、お前が試験したんだな?
どうだった。」
体格に恵まれ、鍛えられていると印象を受けた事。
ウルフに臆せず冷静に防御し、一撃で仕留めた事。
「ふーむ・・・ウルフを一撃ね。分かった。
次は・・・司祭様よ、あんたが転職を担当したんだよな。
どうだった?」
無知ではあったが真面目で上昇志向が高く見えた、と
「真面目・・・真面目ねぇ・・・
で。あー大・・・大・・・思いだせん、アレンビー(大戦斧の主人)んとこの女将さん、嬢ちゃん、あんたらから見てメリッサ何某はどう写った?」
母親は真面目で寡黙だけど少し茶目っ気のある少年であると。
娘は力持ちで優しくて少し口下手だけど素敵な冒険者さんであると。
「ふーん・・・わざわざ来てもらってありがとな
聞いた感じ、んな悪ィ奴には聞こえねぇな。
バジル、おめーはどうだ」
私は採寸しただけだから・・・ちょっと無愛想だけど将来有望そうな普通の冒険者さんってカンジ、と
「さよけ、でだ。ドッズ、わしァまだおめーの話が与太なんじゃねーかと思ってる。おめーの武器コレクションも知ってるがあのクソおもてえメイスを振り回せる奴がいるとは思えねえ、だがおめぇらドワーフが巨人族を信仰してる事もしってるしそれに関して嘘ついてるとはおもわねえ
ちったぁ頭冷えたろ、どっちだ。」
「・・・あいつと会って小一時間程度しか話してませんがね、大将。
悪い奴だとは思ってませんよ。
だがスラム出身であの肉体はまずおかしい、生まれてからずっと筋肉を付け続けてもあんな密度にはなりゃしませんよ。しかもガチガチの筋肉じゃねぇ、しなやかな鋼のような筋肉でしたわ。
それにあのモーニングスターを片手で持ち上げたのも事実だし
軽々と振り回したのも事実です。
別に俺ァあいつを祭り上げて信仰したいって訳じゃあねえんです。
あいつはあいつの好きに生きりゃいいと思ってます。
ただ個人として持つには大きすぎる力故に注意するって意味で今回の報告したんでさ。」
ギルドマスターはほとんど白髪で染まった頭をボリボリと掻いてどっかと椅子に座りなおした。
「ドッズがここまで言うんだ、信用するしかあるめぇ。
簡単に説明するぞ、今回集まってもらったのはそのメリッサ何某が
古代の巨人族の先祖返りだっつー報告がドッズから上がったからだ。
おう、あの神様と大喧嘩した巨人族よ。んで接触のあった諸君らに来てもらって色々報告してもらったって訳だ。ギルドの方針としてはとりあえず下手に出る、刺激しないようにな。んで報告の通り真面目な優等生君だったら問題あるめぇ、普通の冒険者として扱え。以上!」
話を聞いた各人の反応は様々だったがそれを中断させるノックの音が響いた
ギルドマスターがオウ!と答えると
「メリッサ様、アンジェリカ・リーフテイル様、デイジィ・ブラッドニール様がお着きになられました。お通ししても宜しいでしょうか?」
傍若無人で知られるギルドマスターの額から汗が一粒流れて落ちた。