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鈍色のパラディン  作者: チノフ
序章
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7話

ギルド直営の防具店はこじんまりとしていたが腕は良いし、何より値段が安く済むからしばらくはここのお世話になるといい、と機嫌を直したアンジェが言った。


カラン、とドアに取り付けられた安っぽいベルが鳴り、皮と鉄の匂いが頬を撫でた、アンジェは鼻を摘んでくちゃい。と言っているがスラムの空気に慣れているメリッサは気にならなかった。


「いらっしゃいませーギルド直営防具屋ホーキンスへようこそー」


ひょろりと背の高い店主が顔を覗かせるとアンジェは銀貨1枚を押し付けてさっさと出て行ってしまった、匂いが気に入らないようで、くちゃいくちゃいと言いながら涙目である。


「予算は銀貨1枚、最低限急所を守れればいい」


こちらの要望を簡潔に伝えるとバジル・ホーキンスと名乗った防具屋はメリッサの周りをくるりくるりと回りながら計り紐を片手にあちこち計って紙に数値を書き込みながら言った。


「お客さんがっちりしてるから皮の分ちょっと足出ちゃうけど。

アンジェリカさんのお知り合いなら信用出来るしこれからもご贔屓にしてくれるならまけて銀貨1枚でつくりましょう!」


駆け出しの冒険者である事、と前衛志望である事、金銭的余裕が無いので

当分は世話になる事を伝えるとホーキンスはニコニコ顔で


「いやー最近の冒険者ってお金持ちが多いし、すーぐ金属鎧に走っちゃうのよ、だから一部の人達しか来てくれなくってね、お兄さんは<ファイター>?え?<ノービス>?貫禄あるからもう転職済ませてると思った!」


軽口を叩きながらも大きめに切られた皮を胸に当て腿に当てパチリと金具で印をつける手際はまさに職人だった。明日の朝には出来上がってるから取りに来てねん、と言われたので銀貨1枚を渡してアンジェが休憩してる向い通りのカフェに向かった。



              ~~~



「昨日登録したばっかのぺーぺーが一次職と間違われるわけ無いでしょ。

おべっかよ、おべっか、残念でした、あ、クレープ食べる?」


アンジェが出て行った後防具屋であった事を話すと一刀両断にされてしまった。残念そうに肩を落としたメリッサに差し出された初めてのクレープは甘くて蕩けるような味だった。

クレープ一口で機嫌直すなんて子供じゃないんだから、なんて言われたが気にならなかった、稼げるようになったら自分で買いに行こうというくらいに気に入った。

ギルド直営の武器屋までの道すがら、気になった一次職について聞いてみたがどうせ武器訓練所で聞く事になるから、といって教えてはもらえなかった。さて、また余った時間は教養を叩き込まれるのだ、知識が増えるのは嬉しい事だが間違ったら蹴っ飛ばすのをやめて欲しい、まったく痛くは無いのだが…



             ~~~



訓練所が近づいてくるにつれて一般の家が少なくなり、武器屋が多くなってくる、大体は武器を買ったらまず訓練所で慣らしてからダンジョンに潜るのよ、と視線をあちらこちらへ飛ばしていたメリッサにアンジェが囁いた。

露店も多くなり賑やかになってくる。多くは粗末な武器を扱う露店だがたまに掘り出し物もあるらしい。


「目利きに自信が出来たら来て見なさい、勉強になるわよ。

例えば向かって右側、手前から三番目の露店に置いてある片手剣見える?

銀貨3枚って書いてあるけどちゃんとした所もって行けば5倍の値はつくでしょうね。周りの武器もちゃんとしたのが多いし、大方首都の工房で修行してきたはいいけどこっちの相場を知らないんでしょ。」


と、小声で評価するアンジェの目つきは真剣そのものであった、きっと彼女は「目利きに自信がある」のだろう、次に武具を揃える時も彼女に相談しようと思った。


露店を冷やかしながらゆっくり歩いているとやっと目的の訓練所に到着した。大きな闘技場然とした円形のグラウンドに鉄のプレートを着せられた案山子が乱立していて、向かって右側には大きな建物には大きな文字で何やら札に書いてあった、大方武器訓練所とか書いてあるのだろうと、メリッサは当たりをつけて満足していると、左袖をぐっと引っ張られて思わずそっちを見るとアンジェが指差している若い男冒険者が、案山子に向かって燐光を纏った両拳を交互に叩きつけていた。あれが武技よ。とアンジェは言った。


「武技であれ魔法であれ魔力、気力を基点にして発動するものだから

発動した際にはああやって光が漏れるの、なるべく漏れるのを防いで発動させる為にああやって反復練習する為の施設がここってわけ。」


つまり反復というのはスキルの効率化に必要な事なのだな、と問うと。

分かった用で何よりだわと、合格をもらった。実践で慣れるのも有効なんだけどね、という補足付きで。




            ~~~




「やっぱりエルフは肉付きが薄くていけねえや」


アンジェの控えめなお尻を撫でて逃げようとした所をメリッサに頭を鷲掴みにされたままの小人が言う。


「そりゃわるうござんした、ねっ!」


ねっ!と共に繰り出される見事な蹴りは逃げ場の無い小人の股座に吸い込まれて行った。結果は泡吹いて倒れる小人と男として痛みに共感してしまう内股になったメリッサである。



「わしがここの管理人ドッズ・ホースキンだ。

防具屋ホースキンのほうもよろしく頼む。」



3分程度で復活した小人は内股になりながらも自己紹介をした。

防具屋にはもう寄らせてもらった事、今日は相性の良い武器を選びに来た事

を伝えると、ついてきてくれ、と言って先導し始めた。


「アンジェ、エルフとは何だ、あの小人は何だ?」


メリッサが尋ねるとまさか今更そんな事を聞かれると思わなかったと呆れられた。


アンジェや目の前を歩くドッズは人間ではなく亜人に分類されるらしい。

まずアンジェはエルフという種族で魔力との親和性が高いのが特徴、身長は人間と同じくらいだが成長が遅いので幼く見える、少女だと思っていたアンジェでも既に成人していて今年で22歳になるという、まさか7歳も年上だとは思っても居なかったメリッサはスラムから出てきて一番の衝撃を受けた、敬語使った方がいいですか?なんて尋ねてみるが今さらでしょ、気持ち悪い。と一蹴されてしまった、これはしばらく不機嫌が続きそうである。


ドッズはドワーフと呼ばれる種族で生まれつき膂力が高く物作りの才能を持つ者が多いそうだ。防具屋のバジルとは義兄弟らしい。色々あったそうだが長くなりそうなので深くは詮索しまい。


どちらの種族も生まれつきの才能に恵まれているが故にスラムに堕ちて来る事は殆ど無いのでスラムから出た事の無かったメリッサが目にする機会が無かったわけである、スラムにいる亜人はダークエルフくらいなものだった事を話すとエルフと本能的に相容れない為ダークエルフは枯れた山や沼地、町だとスラムにいる事が多いのだという。アンジェも差別意識は持っていないもののどうも苦手、らしい。


そんな事を話しながら進むと開けた場所に出てドッズが足を止めた。

壁や床には磨かれた武器が所狭しと並べてある。


「金はないっつー話だがまずはお前さんの適正を測りたいと思う。

上着とズボン脱いでそこに立て。そうそう、それでいい。

少し触らせてもらうぞ。」


そう言うとドッズは足元からギュッギュッと筋肉を確かめながら押し込んでいく。

アンジェは椅子に座って足を組みながら昨日の姿と重ねていた。

昨日腹いっぱい食わせたおかげかアバラの浮き具合も目元の窪み頬のこけ具合も随分マシになっている、試験が終わった時、試験官のシャントットは飢狼と評していたが今は細身の熊と言った方が似合っている。


「ぐぅ……むう……ッ!」


ドッズが懸命に太ももとふくらはぎの筋肉を押し込みながら、唸っている。そんなドッズを見てアンジェはどうしたのと問う。ドワーフは膂力に優れる種族であるしドッズは本職は鍛冶屋の筈だ、そんな彼が渾身の力を込めているのに皮膚以上凹まないのだ。


「どうしたもこうしたもあるか、アンジェリカ、正直に言え。こいつどこから引っ張ってきた!」


顔が真っ赤になったドッズは一旦手を離してアンジェに問うた。

メリッサもアンジェも訳が分からないが、昨日冒険者ギルドにエールを飲みに行ったら丁度スラム出身の彼冒険者試験クリアしたものの名無しで困ってたから名付けついでに面倒見てるだけだと正直に、かつ簡潔に話す。


「丸一日一緒にいて分からんのか!お前はそれでもBランク…そうか、お前さんはマジシャン系だったな…おい小僧、今まで人を殴った経験は?」


裏ギルドの報復を避けて喧嘩した事も人を殴った事も無いと伝える。

脚立を引きずりながらドッズはメリッサに話し続ける。


「よーしよし、お前さんに殴られたら破裂しちまうからな。

そうなってたらスラムの中とはいえ警備隊につきださにゃならんとこだった。一旦下は履いていい、上はそのままでいろ。」


脚立を上りながら腹筋、背筋を叩いていく、相変わらず唸りながらである。

アンジェはここに来てやっと不思議に思った。


スラムのような悪環境で普通はここまで育つものなのか?


身長は170を超えている――おかしい、スラムで生活していた人間がここまで大きくなれるものなのか?


腕、胸板、背中、太もも、ふくらはぎどこも筋肉で覆われている。

昨日見た時はみすぼらしかったその姿形に目が行っていたが残飯を漁って生活しているような人間が筋肉生成に必要な栄養素を十分に摂取する事が出来るわけが無い。


自信のなさげな態度と無知、小汚い格好に騙されていた。



――こいつは一体"何"だ。


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