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鈍色のパラディン  作者: チノフ
二章~王都立身編~
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11話

親知らず抜歯の為更新停止していました。

一回戦で対人の感覚を取り戻したメリッサは順調に勝ち進んでいく。


最初は全力で武器を振るう事に躊躇していた、加減が分からず相手を殺してしまうと思ったからだ。

だが実際冒険者というのはそんなに柔なものではない、対戦を重ねるうちに理解したメリッサは十全の力を出せるようになった。


そもそも予選に出場するのはほとんどBランクであり、一部のAランクが混じっている程度なのだ。

老いたとはいえ元AAAランクの師匠に打ち勝ったメリッサが苦戦する理由はない。


メリッサは試合を重ねるうちに人気を獲得していく、相手の攻撃を受けてから弾き飛ばす。シンプルだが豪快なファイトスタイルは人の目を惹いた。




             ~~~




舞台に立ったメリッサの鎧が擦れる音がする。

既に六回戦、対面に立つ対戦相手はお互い知っている。


両者中央にて礼、と審判の声が響く。お互い中央に歩み寄って兜を外した。


「メリッサ殿、以前はありがとうございました」


対戦相手――オークのダンジョンで助けたシグンが先に口を開いた。


「礼は何度も頂いたのでお気になさらず」


「はは、相変わらずな方だ。……あれから自分達はメンバーを募集して今は五人でパーティを組んでいます。仲間の期待に応える為にも全力で向かわせてもらいます」


「こちらも、持てる力の全てでお相手させて頂きます」


お互いガントレットに包まれた右手で握手して白線まで下がり兜を被り直す、後は審判の合図を待つだけだ。


「両者準備は宜しいですね?……では第六回戦、始め!」


開始の合図と共にシグンが地面を地面を蹴る、メリッサは慌てず補助魔法をを自分にかけて耐久力の底上げをした。


様子見は無い、シグンは走った勢いを乗せて渾身の<強打(バッシュ)>を振るう。

対してメリッサは動かずに冷静に盾で受け止めた。以前はペアでダンジョンに潜っていただけあってシグンの剣は速く、重い。だがメリッサはびくりともしない。まるで大樹に剣を打ち込んだような感覚をシグンは感じた。


剣を盾で弾かれたシグンは体勢を崩す、そこを腰布を翻し、回転で勢いをつけたメリッサの斧槍が襲った。


「ぐオッ…!」


短い悲鳴を置き去りにしてシグンは吹き飛ぶ、二転三転して舞台を区切る石壁にぶつかってやっと止まった。

辛うじて意識が残ったシグンは攻撃を受けた鎧の脇腹を撫でる。派手に凹んでおり骨も何本か逝っているだろう、激痛が遅れて襲ってきた。


カチャリ、鎧の擦れる音と共にシグンを影が覆った。

首元には斧槍が突き付けられている。


「降参、完敗だ」


油汗を滲ませながら辛うじて口にした言葉は審判に届き、メリッサの勝利が宣言された。この試合に注目していた観客から歓声があがる。


待機していた医療班が担架に自力で起き上がれないシグンを乗せて運ぶ、メリッサは何も言わずに見送った。



揺れる担架の上でシグンは激痛に苛まれながら思う。

お互い放った攻撃は僅か1回ずつ。

以前助けられた時に見たメリッサは攻撃をせず、後衛を守るだけだった。その印象が強かったせいで攻撃力は然程無いと自分に思い込ませていたのが良くなかった、今思い返せばあの巨体、あの武器から繰り出される攻撃が痛くない訳が無い、緊張が判断を鈍らせていた。


段々増してくる悔しさと激痛のせいで、シグンの目元には涙が浮かんだ。




           ~~~



今日も無事勝てた。メリッサはシグンを見送った後、そう思いながら舞台を降りると職員の一人が声をかけてきた。


「メリッサ様、予選Aブロック決勝進出おめでとうございます。明日からのご予定に関して説明があるのですが、歩きながらでも宜しいでしょうか」


「ああ、構わない」


説明を受けながら控え室の方へ歩を進める。


「明日の予選決勝から本戦にかけてですが、公平性を保つ為に闘技場で宿泊していただく事になります。世話の者をつけますが、他の方との面会は禁止となります。これは対戦相手の情報等を受けとらない様にする為の措置です、ご了承ください」


「それだと予選決勝の相手の情報は手に入るのではないか?」


「予選決勝の相手は問題ありません、あくまで本戦での対戦相手の情報を伏せる為の措置ですので。本戦のトーナメント表も出場者には知らされません。負けた時点で…この言い方は悪いですが、半軟禁措置は解除されます」


「その措置はいつから始まる?」


「明日、予選決勝が始まる前…12時までに闘技場入りして、そのまま部屋で待機して頂く事になります」


ふむ、とメリッサは考える。確かに対戦相手の情報を先に手に入れていた方が有利になるのは間違いない、少し釈然としない部分はあるが納得できる。


「こちらで何か準備する物はあるか?」


「食事等はこちらで準備させて頂きます、ただどうしても暇な時間が多くなると思いますので暇を潰せる物がありましたらご持参ください。話やゲームのお相手程度ならお付の者を使っていただいて結構です」


「分かった、説明に感謝する」


深く頭を下げる職員と別れ、控え室で鞘を拾ったメリッサは宿へと戻っていった。




            ~~~




「予選決勝進出に乾杯!」


アンジェが音頭を取って皆で唱和する。夕食の席で祝杯を挙げるのももう6日連続だ。


「だが明日からは闘技場で寝泊りしなければならないらしい」


メリッサは今日職員から言われた事をそのまま伝えた。


「そんな規則があるのね」


「昔八百長しようとした奴がいてな、それ以来選手同士を隔離するようになったらしいぜ。本戦は賭けがあるからな」


一日目の祝杯以降、宿屋の主人はずっと混じっている。よっぽど大会が好きなようだ。話をしたくてたまらないという顔をしている。


「それも含めて公平性、か」


「どっちにせよ明日からはめりーくん闘技場かぁ、夜が寂しくなるけどすぐ戻ってくるつもりもないよね」


「まぁ、な。やるからには出来る限り進みたいと思っている」


強気な言葉を吐いたものの心中には不安が残る。たまたま運良く勝ちあがれただけではないか、調子よく勝ち上がってきただけにその思いは余計強くなる。

師匠に言われた言葉を思い出す、『慢心はするな、だが自分を過小評価しすぎるのも駄目だ』。今の自分はどちらだ、緊張のせいか分からなくなってくる。


そんな自分の心中を察してか、アンジェとデイジィが火傷で爛れた左手と武器を振るうせいで硬くなった右手にそれぞれ自身の両手を重ねて微笑んだ。


「大丈夫よ、メリィならやれるわ」


「そんなに緊張しないで、大丈夫だよ」


言葉は少ない、だがその微笑みが何より自分を励ましてくれた。


「ああ、ありがとう」




別に自分の為でなくてもいい、応援してくれる人の為に頑張ろう。


照れ隠しに料理を掻き込みながらそう思った。

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