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鈍色のパラディン  作者: チノフ
二章~王都立身編~
57/67

6話

書き直したので再投稿

「おお、応援しに行きますね」


翌日、工房での昼食中、ナールに大会に参加する事を伝えると周りの職人達からも激励の言葉をもらったメリッサ。


「ありがとうございます、どこまでいけるかは分かりませんが全力を尽くします」


「ところで大会用の武器はアテあります?」


「いえ、今日帰る時にこちらでお願いしようと思っていました」


「わっかりました!自分達で良い物作りますよ!」


感謝します、と言って頭を下げる。年かさの職人が下げた頭をワシワシと撫でた。

この街の職人は頑固だが皆気持ちのいい人ばかりだ。

昼食を終えた人から自分の作業に戻っていく、メリッサもナールと共に工房へと戻っていった。




            ~~~



「おかえりなさい、今日もお疲れ様」


宿に戻るとアンジェがワインを片手に手紙を読んでいる所だった。

デイジィは相変わらず寝ているようだ、布団が盛り上がっている。


「ああ、ただいま。」


アンジェは無言で手紙を渡してきた、自分が読んでも問題ない内容のようだ。対面の椅子を引き、どかりと座る。重そうに椅子が軋むが知った事ではない。受け取った手紙を開く。


「カールからか」


「そうよ、今日宿に届いたわ」


差出人は王都に着いてから音信不通のカールだった。

格式ばった文章を見るとやはりカールも貴族なんだな、と思う。

内容を分かりやすくするとこうだ


連絡が遅れてしまってすまない。本来ならば会いに行きたいのだが周りから止められてしまったので手紙で連絡する事になってしまったよ。

最初は父上の友人の仕事を手伝っていたんだがいつのまにか宰相様の補佐官の補佐をする事になってね、緊張の毎日だ。

メリッサ達の活躍はたまに王宮に届いている、人助けをしているそうじゃないか。この国のいち貴族として礼を言わせてもらうよ。

会って話したい事は沢山あるんだが手紙では伝え切れそうに無い、Aランクになれば北区にも出入り出来るようになるそうだからがんばって会いに来て欲しい。

怪我と病気だけには気をつけてくれよ。 君達の友人カールより。


「Aランクを目指す理由が増えたな」


手紙を封筒に戻しながらメリッサは呟いた。


「でも貴族には気をつけなさいよ、油断すると骨までしゃぶられる事になるんだから」


アンジェは髪の先をいじりながら言う。

彼女もデイジィも元は貴族だったのだ、色々な体験をしたのだろう。

語る声色は普段より少しトーンが低かった。


「ああ、貴族が皆カールみたいに気の良い人間だとは思っていない。」


「勿論いい人もいるんだけど、基本的に貴族っていうのは損得で判断しないといけない時があるからどうしても打算的になっちゃうのよ。」


「民の生活を守る為、か」


「そういう事、まぁ今考えてもしょうがない事よ。もうすぐご飯の時間だからデイジィ起こしてあげて頂戴、私は先に行ってるわ」


Aランクより今はとにかくダンジョンに篭り、目の前の転職と大会に目を向けるべきだ。メリッサはそう思いながらデイジィの小さな肩を揺すった。




          ~~~




轟、と炎の塊がメリッサの鎧の表面を撫でて消えた。


オークのダンジョンで最も気をつけるべきなのは剣持ちでも弓持ちでもなく杖持ちオークの炎の魔法だ。

彼らの攻撃魔法はアンジェが妨害魔法を最速で唱えるのと同じくらい速い、更に毎回前衛を狙う訳でなく後衛も狙ってくるので、メリッサは剣持ちの機動力を奪いながら杖持ちの魔力の高まりを右目で注視する事になる。

炎の魔法の威力自体は大した物ではないが、集団と遭遇した時に鎧に何度も当たる事によって中身のメリッサが火傷を負う事が多々ある。火傷を負ったままだと動きに支障が出るので毎回<初級回復(ヒール)>で強引に癒すので体中火傷の跡だらけだ。


「炎よ 水よ <霧となれ>!」


剣持ちの機動力を奪い、弓持ちを無力化した所でアンジェの妨害魔法が入る、これで杖持ちは2回目の魔法の狙いがつけれなくなる。

後は効率化の為に敵を固めるだけだ。


「<召喚(サモン)> <(ビッグ)りの大口(マウス)>!」


ぱかり、と地面が口を開くと固められたオーク達を飲み込んだ。

<毒竜の顎門>と似た魔法ではあるがこちらの方は威力も低く範囲も狭いし、追加効果も無い。

ただし現状ではこの魔法で威力は十分な為、デイジィはここ最近<(ボーン)(スパイク)>、<(ヴラド)(スピア)>そして今回の<(ビッグ)りの大口(マウス)>の三つを主力に使っている。


メリッサが引き付け機動力を奪い、アンジェが妨害魔法を放った後メリッサが敵を集めた上でデイジィが殲滅する。アンジェは取りこぼしが出た時の為に攻撃魔法を詠唱するがほとんどの場合、中断(キャンセル)して終わる事になる。

稀に横から敵が来る事もあるが、魔法使いも一応自衛の為の魔法があるので問題はない。

アンジェは敵を後方へ押し出す魔法、デイジィは敵を一時的に混乱させる<恐怖(テラー)せよ>という魔法。効果は両方とも10秒程度だが詠唱は短い上にそれだけあればメリッサが走ってくるのに間に合う。


この数ヶ月で効率の良い敵の倒し方を学んだ三人であるがそう上手くいかない場合がある、壊滅して逃げてきたパーティーと遭遇した時だ。




         ~~~




大量の足音、かすかに聞こえる「助けて」という声。

足を止めてまたか、と思う。最近妙に多い。


「アンジェ」


「分かってるわよ。地よ <隆起せよ>!」


簡単な土壁を作ってもらう、大量の敵を後ろに通さない為だ。

姿が見えた、三人だ。敵の数は多いが慎重に対処すればなんとかなるだろう。


「こちらだ!走れ!」


大きな声を出すとこちらに気付いたのか、全力で走ってくる。

敵の全貌が見えた、30匹以上いる。かなりの距離を逃げてきたのだろう。

逃げてきた三人が土壁の隙間から転がり込んだのを確認して自身の体で蓋をして盾のスパイクを地面に突きたてて体を固定する。


数秒遅れて盾越しに剣持ちが体当たりしてきたのが分かる。踵を地面にめり込ませながら耐えた、問題はこの後だ。


杖持ちの炎の魔法が連続して盾に直撃、盾越しにガントレットが熱されて左腕が焼けるが歯を食いしばって我慢する。今回復しても熱されたガントレットで再度火傷してしまう。しかし敵の杖持ちが多い、妨害魔法にも時間がかかる。


「水よ 炎よ 風よ <濃霧となれ>!」


いつもより一段階上の妨害魔法だ、後ろからだと敵の全貌が見えない為丸ごと濃霧で覆う。霧に当たって熱された盾とガントレットがじゅう、と音を立てた。


「闇よ 闇よ 闇よ 地獄の門の番人 恐るべき毒の竜よ 今ここに御身の一部を借り受けん <召喚(サモン)> <毒竜(ベノム)顎門(ジョー)>!」


今日は魔力を温存していたデイジィの上級魔法が発動する。

広範囲、高威力のこの魔法が決まれば敵は跡形も残らない。

盾越しにオーク達が食われるのを見てから大きく息を吐いた、今回もなんとかなった。

一旦盾を外し、ガントレットから腕を引き抜く。見事に焼き爛れた腕を見てアンジェとデイジィは痛ましげな顔をするがもう慣れたといっていい、<初級回復(ヒール)>を何度か重ねがけすると跡は残るが痛みは消えた。


若干皮が引きつるいつもの感覚にため息をつくと逃げてきた冒険者達に向き直った、帰りはアンジェのお説教タイムだ。




  

            ~~~




「最近ああいうの多くない?」


場所は冒険者ギルド、何度も頭を下げる三人と別れて清算の為にアーチェの前に座ったアンジェの第一声がこれだ。


「ああいうの、と言いますと?」


「少人数でオークのダンジョンに来て逃げてくる冒険者よ、ちゃんとギルドで注意してよね」


「ああ……武道大会に向けて地方から冒険者が集まってきていてですね、一応ギルドで注意するんですが自分達は大丈夫と思っているらしくて……私達には止める権利はありませんし、というかアンジェさん達のパーティーも少人数じゃないですか」


「それはそうだけど!…何よメリィ」


尚も食い下がろうとするアンジェをメリッサが遮った。

首を横に振るうと一纏めにされたメリッサの髪の毛が少し揺れる。


「アーチェ殿に噛み付いても仕方ないだろう、本来なら彼らを救う義務はない、僕達が勝手にやっている事だ。嫌なら僕らも逃げれば良い」


「でも目の前で死なれたら気分悪いじゃない……」


「ああ、僕もそう思う。人が無意味に死ぬのは嫌な事だ。それが彼らの慢心から来る事であっても可能な限り救いたいと思う」


「…その度にメリィが傷つくのつらくて…前衛押し付けてる私が言える事じゃないのは分かってる、だけど他の人の為に傷つくメリィは見たくないのよ…」


「そこまで想って貰えるのは嬉しい。ならばもっと強くなる事を約束する。自身が傷つかぬように、無傷で人を救えるくらいに」


「メリィ…」


「アンジェ…」


アンジェの滲んだ涙を火傷の跡だらけの左手で拭う。

その左手をアンジェは大切な宝物のように抱きしめた――。


「「オホン!」」


完全に蚊帳の外だった二人が自己主張する。

アンジェは慌ててメリッサの手を放し涙を拭って平然を装った。

尖った耳は真っ赤に染まっている。


「公共の場でイチャつかれても困るんですが、というか彼氏の居ない私に対する当てつけですか」


「ちょっとめりーくん最近アンジェの事贔屓しすぎじゃない?私ももうちょっと構って欲しいんだけど?構ってくれないと拗ねるよ」


「いや…そういうつもりはなかったのだが、すまない。謝罪する」


「はぁ…まぁ今後オークのダンジョンに潜る冒険者にはしっかり注意するようにします、ギルドマスターにも伝えておきますので今日はお帰りください。清算も丁度終わったようですので」


丁度運ばれてきた金貨袋を受け取って三人は礼を言って席を立った。

デイジィはまだ恨めしげにメリッサの右腕をぷらぷらさせている。

エルフだという点を除けばまるで親子のようだ、アーチェは三人の後姿を見送りながらそう思った。




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