幕間~壁役の火力~
「壁役やってて何が一番欲しくなります?」
ある日の工房での昼休み、職人達と集まって食事を頂いているとナールが尋ねてきた。
メリッサは思わず腕組みして考え込む。
「欲しいもの、欲しいもの……やはり火力でしょうか、全力を出せば自分単体でも敵を倒せない事もないのですが、ダンジョンでのペースを考えると敵と遭遇する度に全力を出すわけにもいかないので」
職人達はやっぱりな、という反応だ。
「壁役が敵を倒せるってだけで結構常識外れだと思うんですが……やっぱ火力ですかー、盾をはずして武器を持つ訳にもいきませんし…うーん」
悩むナールに若い職人の一人がメリッサならアレ使えるんじゃねえか?と声をかけた。
「あー、前使った人が脱臼したアレですか。確かにメリッサさんなら使えるかも…食事終わったら試してみましょうか、大丈夫です。駄目でも肩が外れる程度で済みますから」
それは全然大丈夫ではないのだが、と思うメリッサではあるが職人達が好奇心の篭った眼で見てくるので嫌とはいえなかった。
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これです、とナールが倉庫で埃を被っている筒のような物を指差した。
なんというか、杭の入った筒。というべきものだ、一応固定具もついてある。
「試作品なんですけどね、筒のお尻の方に魔石を入れるスペースがありまして、<爆発>を込めた魔石を破裂させてその勢いで杭が飛び出るっていう単純な代物なんですが、魔石自体も安くないですし、連射も効かない、その上に体への反動が大きすぎるっていうんでここで埃被ってるんですよ。」
何故そんなものを作ったのかと思うメリッサ。
「一応大盾に装着できるサイズですし、一撃ですが凄まじい火力を発揮出来ますよ、よかったら試してみません?というか試しましょう、魔石も<爆発>込めたのが使い道なくて余ってるんで」
「……分かりました」
ナールの瞳は完全に職人の目だ、頷かないと機嫌を悪くするに違いない。というか昼食の席で職人達も聞いていたのだ、やらない限り帰してもらえないだろう。
「んじゃそれ持って裏に来てください、魔石と案山子の準備してきますんで」
ナールは目を輝かして走っていった。
メリッサはしばらく筒と睨めっこしていたが覚悟を決めたのか筒を担いで裏へと歩いていった。
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工房の裏には武具を買いに来た冒険者が武器を振り回せるようにそれなりのスペースがある。
今その場所には工房中の職人達がほとんどやってきている、中にはバイスの姿まであるではないか。
「いやぁメリッサさん、私の作った武器を試してくださるとは嬉しいですなぁ」
「……これはバイス殿が作ったものなんですか」
「そうですとも、若い頃に考案して数年前やっと完成したんですが予想以上に使い勝手が悪くなった上に、前に試した人は肩が脱臼してしまいましてね、大丈夫。メリッサさんくらい体が頑丈なら扱えるでしょう」
何故この人達は自分を不安にさせるような事ばかり言うのだろう。
メリッサがそう考えているとナールが左腕に筒を固定していく、最後に魔石を嵌めて準備完了です、と言った。
「魔石の周りは暴発しない様に抗魔石で出来てます、お尻のところについてるこの蓋をスライドさせて隙間を開けて魔力を通せば魔石が爆発して杭が飛び出しますんで、案山子に向かって打ち込んでください」
そう言ってナールは離れていった、腹をくくるしかあるまい。メリッサはそう思って筒を持ち上げ、案山子へと向けた。ふう、と一息ついて
「行きます」
蓋をスライド、全身に力を込め更に魔石に魔力を込める――!
――ズオン!!
杭は轟音を立てて鎧に見立てた板金を纏った案山子を貫いた。
職人達は口笛を噴いたり手を叩いたりして喜んでいる。
確かに反動が凄い、腕ごと持っていかれると思ったが凄い火力だ。
半ば嫌々だったメリッサはこの武器の事が一瞬で気に入った。
打ち込んだままの姿勢で固まるメリッサ。
「引き抜いて上に向ければ杭が勝手に落ちてきて固定されます!」
言われるがままに拳を突き上げるように上に向けると杭がスライドして
ガチャン、という音を立てて元の位置に収まった。その感覚すら心地よい。
「やはりメリッサさんは頑丈だ、どうでしたかな?使ってみて」
「……最初は半ば嫌々でしたが、良い武器ですね。敵に打ち込めば一撃必殺になるでしょう」
「良さが分かりますか!コストパフォーマンスを無視しても一撃で敵を屠る、男の憧れですよ!」
「これは…欲しくなりますね。切り札になりそうだ」
「おお、おお。そう言って貰えますか!…ただ実践で使うにはまだ未完成なので今すぐメリッサさんの盾に装着する事は出来ません、しかし使える人が出てきたんだ、すぐに設計から見直しましょう。いずれ完璧な形でお渡しする事をお約束します」
楽しくなってきた。と言って工房に戻るバイスと黙ってついて行くメリッサの姿はまるで新しいおもちゃを見つけた少年達の様だった。
抗魔石…魔石の魔力が漏れないように魔石のケース等に使われる素材、それなりに希少。




