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鈍色のパラディン  作者: チノフ
二章~王都立身編~
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4話

突貫ではありますがアンジェとデイジィの種族を変更しました。

詳しくは活動報告にかきます。

「俺はシグン、<ナイト>だ。こっちは嫁のコニーで<ビショップ>。命を助けてくれた事、本当に感謝する」


馬車の中、シグンは頭を下げながら言った。


「私はアンジェ、<フィロソファ>よ。黒いのがデイジィで<ファントムロード>、大きいのがメリッサで<クレリック>ね。

いきなりで悪いけど……二人でオークのダンジョンに潜るのはやめたほうがいいわよ」


頭を上げたシグンにアンジェは容赦なく言葉を飛ばした。


「ああ、数が多いとは聞いていたがまったく対処できなかった。実力不足を思い知ったよ。」


「というよりは構成かしらね……私達も人の事言えないけど、前衛と支援の二人だとBランクダンジョンでは厳しいと思うわ」


「一応<オフノック>で活動していた時に探してはいたんだが、固定で組めそうな人とはめぐり合わなかったんだ。」


「せっかく王都に来たんだからしばらくパーティーを募集するのがいいと思うわ。前衛と支援がいるんだもの、すぐ集まるわよ」


云々、パーティーリーダー達の会話を邪魔をしない様に馬車の少し離れた所で三人は座っている。メリッサは座るのに邪魔な武器を外して腕を組んで目を瞑っていて、デイジィは魔力の使いすぎで疲れたのか、うつらうつらとし、コニーはそんな二人に礼を言った後、話しかけていいものか悩んだ末に自分も目を瞑る事にした。




            ~~~




何度も頭を下げる二人と別れ、宿へと戻った三人は夕食を頂きながら今日の事について話していた。


「今日のデイジィの魔法は凄かったな」


「<ファントムロード>の上級魔法だよ、燃費は悪いけど範囲が広いし火力も高い。万が一耐えられても猛毒を与える強い魔法」


「同じ魔法使いでも<フィロソファ>にはああいう派手な魔法は無いから羨ましいわね。<嫌がらせの天職>なんていわれるけど転職してから覚えれる攻撃魔法がほとんどないって時点でお察しだわ」


「魔法を沢山使えるだけで羨ましいのだが……」


魔法に憧れていたメリッサの総魔力量は残念ながら少ない、二人が上の上であるのに対してメリッサは転職を残しているといっても下の中程度だ。最終職までたどり着けたとしても中の下がいいところだろう。

アンジェがメリッサに新しい魔法習得を強制しないのは現状、<下級治癒>くらいしか有効な魔力の使い道が無いからなのだ。


「転職もしたし、強い死霊を仲間にしないと……」


ぼそり、とデイジィが呟く。

聞いた事ない言葉に思わずメリッサは口を開いた。


「死霊を仲間……?疲れてる所すまないが解説してもらえないだろうか」


「あー、修行には直接関係ないからって教えてなかったんだっけ」


と前置いてデイジィは語り始める。


<ファントムロード>の系列の職業とは今まで使えていた魔法の代わりに闇に関する魔法や死霊を扱う魔法が使用可能になる職だ。

本来彼らはモンスターの死体等を操る事を得意とし、己の中に封じて有事の際に<召喚(サモン)>するのだ。

<召喚(サモン)>自体は消費魔力が少なく、条件さえ揃えば一人で死の軍勢を操る、変則的圧倒的火力を持つ<ファントムロード>ではあるが、勿論弱点がいくつかある。

まず一つ、闇に分別される彼らの常として太陽に弱い。これは閉所であるダンジョンでは問題無いし、夜に強くなるというメリットがある以上そこまで問題にはならない。

次に破壊された死体は元に戻らない、魔力的な欠損は埋めれるのだが粉々にされたり骨を砕かれたりすると次回以降まともな形で召喚出来なくなる。

最後にその死体の調達のし難さだ。ダンジョンで補充できそう、と思うかもしれないがダンジョンのモンスターは討伐後消滅する為己の中に封じる、という作業が出来ない。人の死体を利用する事は硬く禁じられているし、そうなるとダンジョン外のモンスターを倒さなければいけない訳だが、ダンジョン外のモンスターは賞金がかけられる為すぐ駆逐されてしまう。

自然と魔力を消費して血や骨を生成して攻撃魔法として使う、という戦闘手段になりがちなのだ。


「昔起きた戦争では凄い活躍したみたいだけどね、死体はそこら辺に転がってるから」


強い死霊が一体いるだけで随分楽になるんだけどな、とグラタンを口に運びつつ呟くデイジィ。


「成る程、つまり将来的に外のモンスターを倒し配下にする必要があるのだな」


「そゆこと、私達はもう最終職だから魔素を溜め込んでも少しずつしか能力上がらないけど、メリィはまだ転職残してるし、デイジィもまだまだ伸び代があるって考えた方が前向きよ」


「ま、そうだね。よし、今日はもう疲れたから休も」


「先休んでて頂戴、私はメリィと話があるからもう少し話してるわ」


「あーい」


目を擦りながらふらふらと部屋に戻るデイジィ。


「僕に話とはなんだ」


「今日の二人いたでしょ、シグンとコニー。あの二人これからパーティ探すだろうし、声かけてみるのどうかなって思ったんだけど」


「……一時的に組む、とかそういうのなら構わないと思う。だが僕の我侭としては三人でいける間は三人でいきたい」


ジっとアンジェを見つめるメリッサの瞳の力は強い


「勿論変則的ではあるけどこのままでもいけるわよ、メリィも自己回復を覚えたし、ただ今の状態だとメリィに負担が行き過ぎてるかなって思って提案しただけで、嫌なら取り下げるわ」


「すまない、僕の負担は気にしなくていいからこの我侭、出来れば通させて欲しい」


「そんな気にしなくていいわよ、そういう方法もあるって話なだけで。さ、明日は工房に行くんでしょう?なら早く休んだほうがいいわ」


「ああ」


二人は食後の茶を少し飲んで部屋へと戻っていった。





           ~~~



翌朝、メリッサは先日提案された事を実行する為バイス工房の前に立っていた。


「バイス工房へようこそ。あれ、メリッサさん。装備に問題でも生じましたか?」


「いや、そういうわけではないのです。不躾な願いなのですが、バイス殿に鍛冶を教えてくれる場所を紹介して頂けないかと思い、やってきたのです」


「あー、わかりました。ちょっと僕では判断つかないんでちょっと呼んで来ますね」


「呼ばんでもよい、わしはここにおる。メリッサさん、よければ奥で話しましょう」


うわっ!と驚く受付の少年を置いて奥のテーブルに二人で移動した。


「さて、鍛冶を教えて欲しいとのことでしたが一体何故?」


「自分の使っている武具に対する理解を深める為と、なるべく手入れは自分でしたいからです」


「なるほど、なるほど。確かに習いにくる冒険者様は稀にですがおりますな、構いませんとも。本来ならわしが直接教えて差し上げたい所ですがこれでも弟子が幾人もおりましてな、中々暇にしてもらえんのです」


「それは無論、承知しております。なので鍛冶について習わせてくれる場所を紹介して頂けないかと、対価は用意します」


「まぁまぁ、そう急かさなくてもご紹介いたしますよ。いくつか心当たりはあります。ふーむ……そうですな、うちの工房の手伝いをしてくださるなら対価は要りません。弟子を一人、紹介しましょう。腕は確かですので安心してください」


「忝い」


では参りましょう、というと老ドワーフはひょいと椅子を降り、先導するように先に歩いていった。




            ~~~



鉄を叩く音、独特の臭い。メリッサにとってどこか懐かしい思いを工房の中は抱かせた。


「ナール、ナールはいるか!」


バイスのしゃがれた大声が響き渡る。


「なんでしょうか、お師匠様!」


呼ばれて出てきたのは赤茶の髪を短く切ったドワーフの青年だ。


「メリッサさん、こちらナールと申しまして。弟子ではありますがわしの孫でもあります。まだまだ未熟ではありますが、冒険者としての経験を話して頂く代わりにこの子に教えさせましょう、どうでしょうか」


教えてもらえるのなら是非も無い、メリッサはナールに頭を下げた。


「ナールさん、自分はメリッサといいます。王都を拠点に冒険者をしています、どうか鍛冶について教えていただけないでしょうか」


ナールはポリポリと頬をかきながら目の前で頭を下げるメリッサを見る、頭を下げていても自分より大きい。


「えーと、話についていけないんだけど。要するにこのごっつい冒険者さんに鍛冶を教えればいいって事?」


「そうだ、その代わり教える間は冒険者としての話を聞かせてもらったり手伝ってもらいなさい、それもまた修行になる」


任せるぞ、と言ってバイスは去っていった。彼も多忙な身なのだ、時間を取らせてしまって申し訳ないとメリッサは思った。


「わっかりました、自分に出来る範囲ならお教えしましょう……メリッサさんって、あの例の先祖返りのメリッサさん?」


「ああ、自覚はあまりないですがそう呼ばれています」


「ひゃー!そんな自分なんかに敬語使わないでくださいよ。あ、勉強を始める前にちょっとお願いがあるんですがいいですかね」


「教えてくださる人に対して敬意を払わなければ冒険者としての師匠にどやされてしまいます。自分に出来る事なら言って下さい、力仕事くらいしか出来ませんが力には自身があります」


「まぁ今日はお話しましょ、どんな武器使ってるのとか詳しく知りたいんで、お願い事ついでに裏いきましょう」


バイス工房は職人を多く抱える工房だ、住み込みで修行する彼らのために裏には宿舎が立てられている。ナールについていくとそこについた。


「ちょっと呼んで来ますね、おっかさん!赤ちゃん連れて出てきてよ!」


ナールが大声で呼んでしばらくすると妙齢の女性が赤ん坊を抱いて出てきた、彼女はここで働く職人の妻だ。


「こちら例のメリッサさん、おっかさん赤ん坊撫でてもらいたいなっていってたじゃん?今日からここで鍛冶習いたいっていうから連れてきたよ」


「まぁ、まぁまぁまぁ!本物でいらっしゃるの?感激だわぁ、どうか赤ん坊の頭を撫でてやってくださいませ」


話がよく見えないが言われるがままに、赤ん坊を傷つけないように撫でた。


「ありがとうございます!坊や、これでお前はきっと力強く育てるわ!メリッサ様、ありがとうございました!お勉強がんばってくださいね!」


女性は嵐のように去っていった。


「申し訳ない、ナール殿。話が良く見えないのですが」


「僕らってほら、巨人信仰してるじゃないですか。巨人の先祖返りのメリッサさんは言わば神官様みたいなもんなんですよ、だからああやって子供を撫でて貰って祝福を頂きたがってる人、多いんですよ」


自分が撫でたところで何か変わるのか、とも思うメリッサだが、宗教的な部分は詳しくないので本人達がいいと言うならいいのだろう、という結論をつけてナールに向き直った。


「そうですねー、冒険者さんって事だし、装備から教えてもらえます?」


「分かりました」




日が傾くまでナールはメリッサの装備や今までの冒険についてを聞いた、いつのまにかメモを持ってきて真剣に聞く姿は知識を貪欲に吸収しようという職人のあるべき姿だった。




これからメリッサは休みに日にはなるべく工房に通うようになる。




           

             ~~~




「という事で無事に鍛冶について師事出来るようになった」


日が暮れてから帰ってきたメリッサは夕食の席でそう言った。


「よかったじゃない、実は私達も今日二人で相談してた事があるから伝えておくわね。デイジィ、お願い」


「ずばり、拠点。オークのダンジョンに安定して潜れそうだから今後のお金の使い方について相談してたの。け…結婚を前提としている以上、収入は纏めて私が管理したほうがいいってアンジェは言うんだけど、めりーくんもそれでいい?」


未だに慣れないのか、結婚の所で少し赤くなるデイジィ。


「ああ、僕も細かい計算は出来ないからデイジィに任せたい」


「じゃあ私が管理するね。今オークのダンジョンで得られるお金は一回あたり金貨3枚、そのうち金貨2枚を貯金していこうかと思ってるの。残り1枚は生活費とか経費ね。私達後衛の装備はめりーくんが守ってくれる限り消耗はしないけど、その代わりめりーくんの装備が削れていくからその分の修理代は貯金から出す感じで。んで最初に戻るんだけど、お金が貯まったら三人の拠点を買おうと思ってるの。」


「拠点とはつまり家、でいいのか?」


「うん、家だね。宿暮らしも悪くは無いけどやっぱり冒険者としては拠点があると便利だから。ただ王都の土地は凄く高いし、拠点を持つってなると家をあけてる間、留守番とか家事する為に人手がいるの。冒険者が拠点を持つ時は奴隷を買うのが一般的だけど、まぁこれは後々相談していこうね。とにかく拠点を持つにはお金がたくさん必要だからじゃんじゃん稼ごうって事。」


またメリッサの聞きなれない単語が出てきた。


「奴隷とは?大体言葉の感じで分かるのだが一応説明を頼みたい」


「一応王都にスラムを作らせない為の政策なんだけど、色んな経緯で人が売られてきたり、自分を売る人もいるんだけど。そういう人達が安易に裏切ったり出来ない様に首輪を嵌められるのが奴隷。奴隷を買った人はその奴隷にお給金を支払う義務があったり、不当な扱いを受けた場合は国に直訴できる権利を持ってたりするし、買った時の値段を主人に返すことによって首輪を外す事も出来るから、一応健全なシステムにはなってるよ。」


「成る程、少し不健全なイメージを持っていたがそういうものでもないんだな」


そゆこと、質問ないならやすも、アンジェ運んであげて。とデイジィは言って部屋へと戻った。

喋らないと思ったらアンジェは机に突っ伏して寝ていた、そういえば昨日遅くまで本を読んでたな。そう思ってメリッサはアンジェを横抱きにして部屋へと戻っていった。


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