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鈍色のパラディン  作者: チノフ
序章
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5話

平衡感覚に慣れて外に出た途端に全身に違和感を感じた。力が滾る、今なら素手でもウルフを打倒出来そうだ。

アンジェに尋ねるとこれが転職すると言う事らしい。

<ノービス>にはモンスター1匹分の魔素でなれるけどそれから先が長いとも念を押された。


「それより貴方、身嗜みをなんとかしましょう」


神殿を出た所でアンジェが大げさに鼻を摘みながらそう提案した。

確かに彼女の隣を歩くにはみすぼらしい格好だ、同業者とはとても思えない。


「私の使ってる宿で井戸を借りましょう」


そんな汚れてる状態で大衆浴場にはいかせられないわ。

そういうとアンジェはまたさっさと歩き出してしまった。


アンジェに道すがら<神殿>で教えてもらわなかった一般教養を叩き込まれつつ宿屋についたのは夕方に近づいた頃だった。

宿屋に着くと宿屋の娘とアンジェが2、3言葉を交わした後井戸まで案内された。

渡された石鹸はとてもいい香りがしたからかじってみると不味かった。

アンジェに頭をぽかりとやられた後服を脱ぐように言われたので上着を脱ぐとアンジェはほう、と感嘆の息をもらした。

圧倒的に肉が足りていないしアバラも浮いているが重要な箇所には鋼を捻ったような筋肉が見え隠れする。

たっぷり食わして鍛えればいい前衛になるだろう。本格的に青田買いしておく事をアンジェは決めた。


「その石鹸を泡立ててしっかり全身を洗うのよ。」


貴方の服を見繕ってくるわ、そう言い残してアンジェはさっさと宿の中へと入っていった。


井戸から水を汲み石鹸を泡立てて体を擦る、この石鹸というのは凄いものだ、泥、砂、垢がみるみる落ちていくではないか。

頭も体も隈なく洗い終える頃には頬はこけ、目元の隈は相変わらずだが精悍な美丈夫が出来上がっていた。

様子を見に来た宿屋の娘が頬を染めながらも布を手渡してくれた。ありがとうと言うとさっと宿の中に戻ってしまった。

入れ替わり宿屋の女将がうちの旦那のお古だけど、と平服を一式寄越してくれた、お金を渡そうとするともう嬢ちゃんからもらってるよ。

と言われたのでそっと麻袋にしまった。また恩が増えた。


渡された平服を着込むと丁度アンジェがやってきた。


「あら、思ってたよりいい男じゃないの」


見違えたわ、と邪気の無い笑顔で微笑むものだから自分の顔をぺたりぺたり触ってみるが実感が無い。


「まずはたっぷり食べてしっかり寝なさい、腹に入るだけにしっかり食べるのよ、奢ってあげるから。


 明日からダンジョンに潜る準備をするわ、私が徹底的に扱いてやるから覚悟なさい」












柔らかなベッド埋もれて目を閉じて今日出会った人達の事を考える。


ニーニャ・・・事務的な会話が殆どだったがおめでとう、がんばっての言葉には励まされた。

シャントット・・・彼とも事務的な会話が殆どだったがそれでもこちらを心配してくれているのを感じた。

宿屋の娘と女将・・・生まれて初めて食べるような旨い物を食べさせてくれた、冒険者試験に合格した旨を話すと三日無料で泊めてくれるらしい。

神殿の女性・・・沢山の知識を授けてくれた、しつこく質問する自分に付き合ってくれた。スラムでは3度同じ事を聞こう物なら暴力を振るわれても可笑しくない。

そしてアンジェリカ・・・何かと世話を焼いてくれる、初めての経験だ。明日も色々な場所に連れて行ってくれるらしい。

ここは恩を仇で返すのが当たり前のスラムではない、恩が出来たならば返さねばなるまい、何を以って返せばいいのかは分からないが。


自分に対して敵対・警戒心を持たなかった相手がほとんどだった。彼らが純粋にイイヒトなのか、表の人間は皆そうなのか・・・。

メリッサは思う、スラムと表はこんなにも違う物なのか、冒険者と浮浪者ではこんなにも違う物なのか。

スラムを出たばかりの自分はまだ赤ん坊のように無知である、もっと旨い物を食いたい、もっと世界を知りたい。もっともっと・・・




鞘に入った剣を抱きながら少年は初めて深い深い眠りに落ちていった。


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