31話
今回はちょっと雑になりました、すいません。
これにて一章が終わりになります。
それから3人はしばらく王都に向けての準備に奔走する事になる。
メリッサは武具が無いのでリハビリがてら街の雑事を受けるように。
アンジェは転職して増えた習得可能な魔法を身に付ける為に。
デイジィは旅の準備を纏めて請け負った。
それぞれ宿に戻ったら以前勉強に費やしていた時間をダンジョンにおける戦術を練る時間に変えて3人で頭を寄せる事になる。
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時は過ぎ、出発の日が来た。
「待たせてしまったかな?」
きっかり約束していた時間通りにカールはやってきた。
軽く挨拶を交わしてから出来る限り減らした荷物を馬車へ詰め込んでいく。
出発の日取りは親しい人にしか知らせていなかったが、実質1年半活動した街である、人はそれなりに集まった。
ギルド代表としてニーニャとギルドマスターが。
「王都での活躍を祈ってるから!道中気をつけてね?」
「メリッサ、約束を違えるんじゃねえぞ。嬢ちゃんらはしっかり守ってもらえ。」
職人代表としてドッズが。
「こないだ使ってた剣だ、道中得物も無しじゃ格好つかないだろう。」
宿屋の女将とマリーが。
「簡単な弁当だけど、道中食べてくんな。またこの街にきたらうちにくるんだよ!」
「アンジェさん、デイジィさん。沢山のお洋服とかありがとうございます!メリッサさん、王都でも無理をなさらずがんばってください!」
サヴァンを始めとするレフナークは一族総出で。
「大した物ではないが男衆からは弓と矢、女衆からは干し肉、子供からは・・・自分達で渡しなさい。」
「めり!ぼくらでくびかざり作った!ぼくらも大きくなったらぼうけんしゃなるからな!」
「「「「なるからな!」」」」
それぞれから順に挨拶や贈り物を受け取っていく。
「皆、見送り感謝する。この街に届くくらいの名声を王都で得てみせよう。」
「1年半だけど居心地のいい街だったわ、ありがとう。」
「皆の気持ち、受け取ったよ。ありがとう。」
それぞれ感謝の気持ちを口にし、馬車へと乗り込んでいく。
全員乗り込んだのを確認して御者が扉を閉める。
中で待っていたカールがいいかい?と確認すると三人はしっかりと頷いた。
御者に伝えると馬車はゆっくり歩き出す。
見送る人達は馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
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出発してからしばらくは感傷に浸っていたが、
半時間程経った所でカールが地図を取り出して口を開いた。
「一応道中の確認だけしておこう。おおよそではあるがここから<グラディウス>まで二日、<オフノック>までが五日、<ハイペリオン>までが四日程度の予定だ。無論、途中で休憩は挟む。急ぐ旅でもないから夜が近かったらそれぞれの街で一泊する、野営する場合でも御者は二人いるから不寝番の心配はしなくていい。」
地図に指を走らせながら言う。
「一応保存食は持ってきたけど補給はどうする予定かしら?」
「減ってきたら各街で補充する事にしよう、一応<グラディウス>でしっかり準備はしてあるけどね。」
「ああ。荷物が少ないと思ったら置いて来たんだ。」
「君達の荷物がどの程度になるか分からなかったからね、出来るだけスペースを開けておいたんだ、必要なかったようだけどね。」
今回使っているのは2頭立ての馬車で8人は乗れる。荷物を詰め込んでも十分スペースはあった。
「ところでカール、以前婚約者と喧嘩した。と手紙を寄越していたのはどうなった。」
「あー・・・残念ながら婚約は破棄されてしまったよ。彼女は生粋の都会のお嬢様でね、田舎領主には興味無かったそうだよ。」
王都で新しい出会いを探すとするさ。と言うカールは少し気落ちしているように見えた。話を変える為にアンジェが口を開く。
「手紙には書いてなかったけど、カールは何故王都に?」
「ああ、父上の友人が王都にいてね、仕事を勉強させてもらう為さ。」
「今更だが馬車の件、感謝する。」
「一人で旅するのも味気ないからね、丁度よかったよ。」
一通りの談笑が終わる頃には日が暮れていた。
野営をしてからは極めて静かな道中になった。
メリッサとデイジィは起こさない限り起きないだろう。
カールは外を眺め、アンジェは魔道書を捲るだけだ。
<グラディウス>の到着すると各自別れて、アンジェとメリッサは魔道書を買いに、カールは荷物の積み込み、デイジィは次の街まで長いので水代わりのワインを買いに向かった。
各自の用事が終わると一旦<グラディウス>の城に戻り、クレメンテに挨拶をし次の朝一で出発した。
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「・・・水はもう無いのか?」
出発から三日目、喉が渇いたというメリッサにデイジィは傷みかけた水の代わりにワインを手渡した。
「痛み始めてるから駄目、一旦お湯にすればまだ大丈夫だけど、馬車から降りるのは時間の無駄、薄いから大丈夫だよ。」
唸り声を上げながら不満げに一口、二口と飲むが案の定すぐに酔って動かなくなったのは言うまでも無い。
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「着いたよ、ここが<オフノック>だ。」
「旅というのは体が鈍るな。」
「だからって馬車と並んで走ったりしちゃ駄目よ。」
「服を洗う機会は貴重なんだから汗はなるべくかかないようにね。」
メリッサにとって初めて来る<オフノック>の街は栄えているな。という感想しか抱かせなかった。
事前知識で特徴はないと言われていたが確かに目立つ部分がない、強いて言うなら旅の商人らしき人々が多いというくらいだろうか。
まだ昼間になったばかりなので各自一旦休憩した後、王都<ハイペリオン>へと出発した。
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更に馬車に揺られる事五日強、メリッサがやっと初級回復魔法の魔道書を読み終えた頃、やっと<ハイペリオン>を覆う壁が見えてきた。
「大きいな。」
「王都だからね、迷子にならないように注意して頂戴。」
「2年振りくらいかな?<ベティラード>はいい街だったけど、やっぱりこっちに来ると帰ってきたって感じがする。」
「そうか、二人は元々王都で活動していたんだったね。」
「色々あって<ベティラード>に流れたんだけどね。メリィ、ギルドカードを出しておいてちょうだい。」
無言で胸元からギルドカードを引っ張り出すと、レフナークの子供達にもらった首飾りが少し揺れた。
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「身分証明書の提示をお願いします!」
門を守っている歳若い門番に三人はギルドカードを、カールは家紋を見せて門を潜ると、そこはまるで別世界だった。
まず活気が凄い、<グラディウス>も<オフノック>も栄えていたがここまでではなかった。道の脇には露店が並び、商人達が呼び込みをかけていて、大道芸人らしき人の姿まで見える。
次にとにかく人が多い、大通りのはずなのに随分狭く感じる。楽しげに隣の人と話してる主婦や昼なのに酔っているのか千鳥足の中年、冒険に向かうのだろう、鎧を着込んだ冒険者のグループもいた。
そして同じ都市の中なのに随分遠くに見える美しい白亜の宮殿である。王族はあそこに住まわれているのだろう。
これからこの王都を拠点に活動していくのだ。
興奮して無意識に胸元で拳を作っている、珍しく歳相応の姿を見せるメリッサを見たアンジェとデイジィは微笑んだ。




