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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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29話

一夜をギルド本部で過ごし、昼頃にはなんとか歩けるようになったので宿に戻る。

昨日は無断で外泊してしまったな。心配させてしまっただろうか。

そう思いながら宿の扉を開くと女将とマリー、そして珍しい事にニーニャが3人で話している所だった。


「メリッサさん?お体は大丈夫なんですか?」


「ああ。歩けるくらいには回復した。」


それよりも何故ここに?と問うと


「一応ギルドマスターの暴走みたいなものだったので・・・関係者の方がご心配なさらぬようにと今朝から手漉きの者で各所に周っているんです。」


「成る程、手間をかけさせてしまってすまない。」


いいえ、とんでもない。というニーニャを横へ押しのけて女将が口を挟んだ。


「ああ・・・メリッサちゃん。こんな痛ましい姿になって・・・でも無事でよかった。」


「街の人はメリッサさんの事讃えてますけど、私もお母さんも心配したんですから!」


腰に手を当てて怒ってますアピールするマリーにもすまなかった、とメリッサは頭を下げる。しかし、讃えるとは一体・・・


「大方昨日の野次馬連中が街中に言いふらしたんでしょう。」


「あの後ロビーは凄く盛り上がってて大変だった。」


アンジェとデイジィが言う、ニーニャのほうを向くと目的は果たせましたので私は失礼しますね!と言って去っていった。逃げたな。


「どうせ2週間は療養せねばならんのだ、その頃には下火になってるだろう。」


「そうね・・・メリィの修行もなんとか終わったし、本格的に王都に向かう準備をしましょうか。」


「実はアンジェも私も転職までの魔素貯まってる。」


「そうなのよね、まぁ各自この街でやり残した事上げていきましょう。」


まずは転職、アンジェとデイジィ、メリッサも後一回のダンジョントライで貯まりそうだ。

次に昇級、メリッサはCランクを後1回ソロ踏破すれば晴れて二人と同じBランクになれるのだ。


「後は成人した時に教会に行って信仰したい神様を決めるもんなんだけど、めりーくんは信仰したい神様決めてる?」


「いや、生まれてこの方神に縋った事も祈った事も無い。」


「そういう人向けに神官様が相談に乗ってくださるから、とりあえず怪我治ったら教会にいこ。」


「後は馬車の手配ね・・・一番嵩張るメリィの装備は壊れちゃったけど、他にも荷物は沢山あるし。そういうの相談するのって、あ。」


三人の頭に同じ人物がよぎる。

金髪碧眼、王子様スタイルが似合うあの彼だ。


「丁度いいわ、時間もある事だし文を送っておきましょう。


そうね、大体1ヶ月から2ヶ月くらいのうちには出発したいわね。」


<ベティラード>から王都<ハイペリオン>まではそれなりに長い旅路だ。

途中で<グラディウス>や<オフノック>を経由するから食料等はそこまで深刻にならなくていい。


いよいよもって拠点を移す話が現実的になってくるとマリーが涙目になる。


「うー、ううー!」


「ごめんなさいね、マリー。でもきっと王都で活躍してここまで名が届く様にがんばるわ。って昨日誰かさんが誰かさんと約束してたしね。」


まぁ今日はちょっと疲れてるから寝かせて、といって各自一旦解散する事にした。アンジェとデイジィは看病で疲れているし、メリッサは痛みであまり眠れていないからだ。


真昼間ではあるが、3人は泥のように眠った。



          ~~~



結局メリッサが我慢できたのは最初の一週間だけだった。

体がなまる、と言って薪割りの手伝いから初めて気がつけば走り回っている。

心配になって以前世話になった<ドルイド>の男性に見てもらうと驚かれた。もう既に完治といっていい状態らしい、ギルドマスターはまだ苦しんでいるというのに。これも先祖返りの力だろうか。

完治といわれたメリッサは喜んだ、1週間横になっただけで随分体が衰えた気がしていたからだ、これから出発まで鍛えなおせばすぐ戻るだろう。


何はともあれCランクダンジョンに1回潜らねば。

心配なのでついていくというデイジィを伴って向かう事にした。

バジルの店で久々につける丸盾と皮鎧の調整をして武器はドッズに(シミター)を借りた。


軽装になった事による衰えは見せない、その脚力を以って一瞬で距離を詰め、器用に首元を裂いていく。デイジィが戦利品を広いながら、前もこんな事があったね、という。トロルと戦った時だ、あの時はほぼ我流のお粗末な剣技だったから剣を駄目にした。だが今は違う、十分に習熟した剣はするりするりと障害をくぐって相手に致命傷を与えていく。デイジィにはある種の芸術に見えた。


最下層の7層まで来ると少し休憩する、病み上がりなのだ。万全の状態で挑まねば何が起きるかわからない。

ここのボスは巨大なスライムだ、名前は忘れたが剣で相手すべき敵ではないが、試したい武技があるのでここを選んだ。


休憩が終わるとボスを探して歩く、その巨体はすぐに見つかった。

うぞうぞとこちらにむかって来る。

バックラーを構えて力を貯める、灰色の燐光が大きく広がる。

突撃すると耐久の高い事で知られる巨大スライムはコアを失い溶けていった。

<シールドバッシュ>だ。<ガード>の数少ない攻撃スキルではあるが滅多に使う事は無い、メリッサは武技に頼った戦いを好まない。


己が肉体こそ最も信用すべき物、という持論に基づいて武技の習得は後回しにしてきた、今、<シールドバッシュ>を使ったが疲労感が肩にのしかかる。これなら普通に丸盾で殴った方が早い。支援系の武技を覚えるまでは肉体一つでやっていこうと思うメリッサであった。



「Bランク昇格、おめでとうございます!」


受付のニーニャがはしゃいだ様子で言う、Bランクはこの街で頂点と言っていい。ここまで長かった。


「ドニーはいるか、魔素量を測ってもらいたい。」


すぐ呼びますね、といって裏に引っ込むと耳を掴まれたドニーがすぐ出てきた。


「乱暴しないでくださいよもう・・・魔素ですね、銅貨10枚頂きます、はい。頂きました、では失礼します。」


眼を閉じて手を握るドニー。


「おめでとうございます、10割いっているので転職できますよ。」


ああ、ありがとう。と言って黙って着いて来るデイジィと共にギルドを出た。

明日3人で転職しにいこう。



宿に戻るとアンジェが手紙を読んでいた。

カールからの返信が来たらしい。

相変わらずの長い前書きの後、王都に行く用事があるので一緒に行くなら馬車を出して迎えに行こう、との事だ。


「ありがたいな。」


「間に合わせの馬車だとお尻が痛いしね、カールの所の馬車だとあんまり揺れないから安心だし、ありがたいわ。その上わざわざ迎えに来てくれるだなんて、メリィはいい友達をもったわね。」


「ああ、カールは親友だからな。」


Bランクに昇級できた事、魔素が溜まった事を伝えると明日は教会、神殿ね。


といって各自部屋に戻り風呂に入り寝た、今日はアンジェの日だ。




相変わらず朝に弱いメリッサは起こしてもらって髪を結ってもらう。

まずは教会にいって信仰する神を決める事にした。


神官に尋ねると冒険者の多くは炎と戦いの神を選ぶという。

そもそも何故神を信仰するか、という質問をすると、神官は困ったような顔で話し始めた。

神は積極的にこちらの世界に干渉はしてこないが地上を見守っている。

信仰する事によって僅かでも得られる加護を目的とした人が多いという事。次に真面目に信仰していると時折魔力を与えられたりする可能性があるということ。


選びかねる。というと良いものがありますよ、といって祭壇から拳大の石を持ってきた、魔石を祭壇に供えることによって変化する神石と呼ばれるものだそうだ。これに手を翳す事によって自分と最も相性のいい神様が分かるそうだ。試しにデイジィが手を翳すと真っ黒に染まった。闇と冥府の神だ、死霊を操る彼女にとって相性が良いのは間違いないようだ。次にアンジェが触れると白に変わる。光と純潔の神だ。どこまでいってもこの二人は白黒ハッキリしている。次に自分が手を翳すと灰色に変わった。これは何の神かと問うと鉄と創造の神だそうだ。珍しい結果に眼を丸くする神官、なんでもこの神に関する文献は殆ど失われているそうだ。詳しく知りたいなら<皇国>に行くべき、と言われた。

白と黒に挟まれる自分は髪の毛も灰色だし鉄と創造の神を信仰するとしよう。別に熱心に信仰しなくてもいい。この国の宗教は緩いのだ。



次に向かったのはなつかしの神殿である、<ガード>から派生する職は二つ、

<クレリック>か<センチネル>だ。

ここから先は自分で決める事は出来ないので祭壇に任せることになる。

神殿の扉を開けると、いつもの女性がいつもの格好で座っていた。


「おや、皆さん転職ですか?」


全員で頷くと女性は少し驚いた様子で奥へと促した。

私達はもうなる職決まってるからメリィ最初ね。と言われたので一番最初に横になる。


過去2回と同じように朗々と謳い上げる。前回同様大量の魔素が噴出し、急速に灰色へと変わると体に吸い込まれていく。過去は3分、10分だったから今度はどれくらいで終わるかと考えていると僅か5分で終わってしまった。


「失敗したのか?」


「いいえ、成功です。<クレリック>への転職、おめでとうございます。」


その言葉を聞いてアンジェとデイジィは手を合わせて喜んだ。

<クレリック>系列とは、聖なる騎士で前衛のうち2番目に耐久力があり、支援魔法も使えるそうだ。<ガード>で更に魔力適性が無いとなれないので希少らしい。

メリッサの素の耐久力と合わせれば正に鉄壁となるだろう。支援魔法を使える事によって、自己回復しながらの戦闘が可能になるという。

3人パーティだとこれ以上の布陣は無いとアンジェが断言した。

聖なる、と言われてもさっき適当に神を決めたばかりで信仰もなにもないのだが・・・この国の宗教は本当に緩いのだ。



「職業を選択する時が一番時間かかるんですよ。」と女性は言う。

祭壇が勝手に判断する場合、僅かに謳い上げるだけで済むそうだ。


次は私ね。アンジェが横になる。


分かりました、と言い女性が謳い上げると莫大な量の魔素が噴出したのに驚いた。これが最終職への転職か。驚いていると黒い魔素の色が代わり白と青になりながらアンジェの体に取り込まれていった。


「<フィロソファ>への転職、おめでとうございます。」


<セイジ>系の最終職、<フィロソファ>は極めて広範囲の魔法を網羅する事ができる、<ウィザード>系統に比べると火力自体は落ちるが、敵の弱体化魔法は敵の抗魔力に左右されるものの、その効果は戦闘において極めて多大なアドバンテージを握る事が出来る。



最後は私だね、と言ってデイジィが横になる。


少し疲れの見える女性ではあるが続けて謳い上げた。

今度は黒い魔素が噴きあがり、更に黒くなったり赤くなったりしながらデイジィの体に飲み込まれる。


「<ファントムロード>への転職、おめでとうございます。」


<ナイトウォッチャー>系列の最終職である<ファントムロード>は純粋に<ネクロマンサー>を強化した職だ、<ネクロマンサー>で使用出来ていた魔法に付与効果が付き。死霊を操る許容量は更に増えた、その姿はまるで死神のようだ。と恐れられる職業である。



それぞれ転職を終えて外に出ると大きく伸びをした。


「力が滾るぞお」


「ふと今思ったんだけどさ。」


デイジィがうおーと言ってる横でアンジェがメリッサに話しかける。


「転職してたらギルドマスターの事軽く捻れたんじゃないの?」


「ああ、確かにそれはそうかもしれないが、転職を禁じられていたので結果は変わらない。」


「成る程ね、あの酒飲み爺もちゃんと分かってたってことか。」


ちょっと職業訓練所で試しうちしようよ、デイジィが提案する。

特に異論はないので3人で訓練所へ向かった。


「おお、久しぶりだな。こないだの事聞いたぞ、俺からも礼を言わせてもらう。」


着くなりドッズが声をかけてきたので転職したので試したい旨を話すと快諾してくれた。

丁度今の時間は人がいない、広範囲の魔法を放つのに都合がいい。


デイジィは本を抜き放ち開くと詠唱を開始した。


「<召還> <下級死霊>・・・軍団(レギオン)ッ!」


本を閉じるとデイジィの周りの空間が歪む。

メリッサの右目はおびただしい数の死霊を捉えた、100は居ないが50は優に超えている。それは的の案山子に纏わりつくと案山子の木の部分が一瞬で萎びてしまう。生命力を奪い取る魔法のようだ。


「続いて、<召還> <骨の杭> <三重奏>! 」


以前見た魔法の強化なのだろう、しかし以前とはまったく違う魔法にも見える、白亜の杭は遥かに細く、鋭くなっており三方向から串刺しにされた案山子は哀れにも金属鎧を残して砕け散った。


「いいね、今なら何でも出来る気がするよ。」


魔法を2回放ったデイジィは満足そうな顔でメリッサの横に戻ってきた。


「私は新しい魔法覚えなおさなきゃいけないのよね、純粋強化のデイジィが羨ましい。まぁ既存の組み合わせも強化されてるからいいか・・・」


そう言いつつ杖を抜いて案山子に向き直る


「水よ 地よ <沼となれ>!」


地面がグズり、案山子が沈む、魔力で出来たその沼は底なし沼だ。


「炎よ 水よ <霧となれ>!」


ジュッっと炎が消える音と共に案山子の周りに濃霧が発生する。あれでは前後左右の方向感覚が掴めまい。対象を直接弱体化させる魔法もあるらしいが、案山子相手では意味が無いとの事。


メリッサは投槍を借りた、基礎的な膂力の確認だ。

まっすぐに並べた案山子に向かって3歩の助走をつけ打ち込むと3体を貫通して止まった、老木に打ち込んでいたときは貫通なんてしなかったのに、こちらも大幅に膂力が上がっているようだ。



三人はそれぞれ満足したのでドッズに別れの挨拶をして訓練所を去る。

かえろっか、というアンジェに珍しくメリッサが待ったをかけた。


「大切な用事がある、ギルドまで付き合って欲しい。」





             ~~~



ギルドに着くとニーニャが待っていましたとばかりにメリッサを呼ぶ。


「ご注文頂いてた品、できましたよ!」


ゴトリ、と重厚な箱が受付に置かれるとメリッサはそれを開け、二つの物を手に取ると少し顔を赤くしてそれぞれアンジェとデイジィに言った。


「手を、左手を出してくれ。」


よくわからない二人は言われるがままに手を差し出す。

まずはアンジェの左手を取り、その薬指に持っていた物―指輪―を通した。

呆然としているアンジェと一旦横へ置いておき、次はデイジィの薬指に指輪を通す。




「遅くなってすまない、これを婚約指輪として欲しい。」




最後に自分の左手の薬指に通して言った。


アンジェとデイジィは陸に上がった魚のように口を開け閉めしている。

色々いいたい事が浮かんでくるが何から口にしていいか分からない、そんな顔だ。


「前から注文はしていたのだ、パーティ申請と共に。」


パーティに必要な物としてまず上げられるのが

一つの純度の高い魔石に回収の魔法を込め、それを割った欠片で作られた装飾品等だ。これを装備する事によってパーティでモンスターを倒した時、均等に魔素が配分されるようになる。当然純度の高い魔石はお高い、今回の場合は加工量込みで金貨1枚だ。それを今回メリッサは指輪の形に注文していた。



アンジェとデイジィは呆然と指輪を見つめる、シンプルだが綺麗な指輪だ。

やっと感情が追いついてきたのだろう。



二人は一度メリッサに微笑むとポロポロと涙を流しながら指輪を胸にかき抱いた。






 

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