100000PV記念~少年と老人~
齢僅か10歳の少年が生きていくにはこのスラムはあまりにつらい環境だ。
懸命に雑事をし、銅貨数枚をもらうがそれも食費でほとんど消えてなくなる。
夢も希望も無い、ねぐらは本当に雨が凌げるだけの場所。それでも日々生きていくしかないのだ。
そんな日々を過ごしていた少年にある日変化が訪れる。
ねぐらの近くで老人が倒れていたのだ、まだ息がある。死体であれば身包みを剥がす事に躊躇はない、だが生きているなら救ってやりたいと思う、見殺し、あるいは直接手を下すのは少年が嫌う裏ギルドの連中と何ら変わりが無いからだ。そして老人は知識を持っている事が多いから役に立つ事が聞けるかもしれない。そんな少年の打算と少しの良心はしかし、老人を救った。
老人が喋れるようになるまで二日かかった。
少年は甲斐甲斐しく世話を焼いた。食事を半分にし、老人を分け与えたし、井戸に並んで普段の倍の水を取ってくる必要があったが力だけはある少年は苦に思わなかった。
そんな少年の看病の甲斐があって老人はやっと喋れるようになる。
「ああ、小さな少年よ。助けてくれた事、心から感謝する。」
喋れるようになった老人に少年はたくさんの事を聞いた。その殆どは外に関する事で、老人は少年が外を知らない事を悟った。
そして老人は外の価値観を教えた、何時か少年が大人になって、外に出た時に犯罪を起こさぬ為だ。話を聞く度少年は銅貨を1枚渡した、老人が飢えぬ為だが、話の対価でもあった。
老人の教育の甲斐あって、少年はスラムの価値観と同時に外の価値観を知る事になる。
少年が最も気に入ったのは冒険者についての話だった。老人は昔冒険者をしていた時期があり、この左目もその時失ったのだ、と眼帯を外して義眼を見せた。冒険とは危険と栄光に満ちており、冒険者として駆け出しでも市民権を得られる事を話すと少年は冒険者になりたい、そう言った。
それからしばらくの歳月が過ぎ、少年は大きくなり、老人もスラムでの生活に馴染んだ頃、老人のねぐらにローブで全身を覆った騎士がやってきた。少年はその時雑事の仕事をしていたので事の顛末は知る事は無い。
「――様、宮殿の掃除が完了しました。すぐに此処から出ましょう。」
「世話になった少年がいる、せめて彼に挨拶したいのだ。」
「なりません、馬車を待たせています。お急ぎください。」
ああ、すまない少年よ。礼を失する私を許して欲しい。
冒険者となり、外に出れば再会する機会はあるかもしれない。その時は命の恩、返させてもらおう。




