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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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25話

翌日からの訓練は今までと一変した。

場所はギルド裏のグランドではなく近くの森へ。

理由はいくつかある。

足場の悪い場所での戦闘を想定した伐採跡での模擬戦の為。

投槍の訓練の為、広い場所と的が必要だった事

ギルドマスターは弓が扱えないので、ドルイド族の友人に教えを請う為だ。


朝起こしてもらい、朝食を食べて冒険者ギルドへ向かう。

訓練に必要な道具等を荷車に乗せて森まで走る。

伐採跡に着いたらマスターの友人と模擬戦。

昼はドルイド族の集落で交流しながら昼食を取る。

昼食が終わればそのままドルイド族に弓を教えてもらう。

持ち込んだ矢を打ち切ったら投槍の訓練に移る。

簡素な投槍を枯れた大木に打ち込む、5本打ち込んだら抜いて、また投げるの繰り返し。

日が暮れはじめたら荷物を持って帰る。



帰ったらアンジェとデイジィに身も心も癒しながらの毎日だ。



            ~~~



20人程のレフナークというドルイド氏族を纏める初老の男性サヴァン・レフナークは唐突な旧友の訪問に参っていた。行き成り押しかけてきたこの旧友は弟子に弓と戦いを教えろと言うのだ。それも三ヶ月で使い物になるようにしろと。


「もちろん対価は払う、言ってくれればお前さんらが不足してるものを調達してこよう。運ぶのはこいつにやらせる。メリッサ、お前からも頼め。」


「はい、<ベティラード>で冒険者をしております、メリッサといいます、どうか、ご指導を承りたく存じます。」


片膝をついて頭を下げる偉丈夫が敬語が使っているのも違和感があるし、そもそもこの男が器用に弓を使ってる姿が想像できない。あまりのむず痒さにサヴァンは口を開いた。


「よしてくれ、頭を下げるのも、敬語もだ。私は畏まったのが苦手なんだ。そうだな・・・金属製の鏃、短剣・・・後必要になったら言う。もしそれを用意出来るなら教えよう。」


「おお、感謝するぞ、友よ。鏃は必要になると思ってな、持ってきてある、ついでといっちゃなんだがこいつは精霊を見る事も出来るぞ、俺らにとっては意味は薄いがお前さんらにとってはでかいだろう」


精霊が見える、の一言に一族全員がざわめいた。精霊を信仰する彼らにとって、精霊と交感出来る人は神官と同義である。


「自分に出来るのはあくまで見る事だけだ。交感する事は出来ない」


「いや、それでも稀有な才能だ。分かった、レフナーク族は君を歓迎しよう。3ヶ月間あれば的にあてれるくらいにはなるだろう。」


「感謝する、サヴァン殿。」


「殿は・・・まぁいい、よろしく頼む。メリッサ君」




             ~~~



んじゃ後は任せた、と無責任な言葉と共に放り出された(年齢を聞いて驚いた)15の少年はしかし、口数は多くないが社交的で、すぐに女子供と仲良くなり、力を見せ付ける事で男衆とも友誼を結んだ。

現役時代から比べて衰えたとはいえ伐採跡での戦闘も<シャドウアロウ>――アーチャー系の最終職で短剣と短弓を駆使する――として活躍した自分の攻撃を上手くいなしている。最初こそ切り株に足をとられることもあったが、すぐに適応し、反撃までするようになった。

弓の方も見た目に反して飲み込みは早い。力がありすぎるのか、頑強に作ってある合成弓(コンポジットボウ)を軋ませながら放つ矢は、獲物を貫通する事さえあった。

小さい集落故、精霊を見る才能を持つ者が居ないので彼の存在はそちら方面でも助かった。木を切る際に精霊が宿って無いか確認してもらうだけでも随分と生活が楽になるのだ。

そして弓の修練が終わると、枯れた大木に投槍を打ち込んでいく。その勢いは凄まじい。娯楽の少ない森での生活だ、子供達はそんな彼の後を付いて回ったが、彼は決して子供達を危険に晒すような事はしなかった。

彼が帰った後、訓練に使った矢の回収は子供達の仕事で、彼は一度使った矢は使えるようならこちらで再利用していい、というのでありがたく回収した。金属でできた鏃の部分は矢が壊れていても再利用できるからだ。

週1日を除き、毎日鏃や生活必需品等と共にやってくる彼の存在は二ヶ月が経つ頃にはもはやレフナークの一員と呼んでも違和感が無いほど馴染んでいた。



             ~~~




「よう、サヴァン。」


メリッサが引く荷車に乗りながらギルドマスターは久しぶりにやってきた。


「おはよう、メリッサ君、後ろに積んであるのは新しい的かね?出来れば私に先に打たせて欲しいのだが。」


「おい、おい。それはねえだろ友よ。まぁいい、ちと話がある。」


「ああ。メリッサ君、男衆が呼んでいたから行ってやってくれ、君じゃないと持ち上げれない巨木があるんだ。」


「分かりました。」


空気を察して言葉少なに去るメリッサの背中を少しの間見つめた後、サヴァンはギルドマスターに向き直った。


「中々どうして馴染んでるみたいじゃねえか」


「メリッサ君はいい子だ、口数は少ないが教養深く、弓の覚えもいい、力も強いし、子供や女衆も懐いている。」


「ベタ褒めじゃねえか、そんな気に入ったか。」


「ああ、出来ればうちの氏族に加わって欲しいくらいだ。」


「まぁ、やらんけどな。それより修行の方はどうだ。」


「お前を褒めるのは癪だが、基礎の部分がしっかりしてるおかげで足場の悪い戦闘にも適応している。弓もこのまま森の民として生活できるレベルだ、ただ力が強すぎるな、弓がもたない。投槍の方は専門外なんでわからんが彼が使ってる的を見ればお前なら分かるだろう。」


「根っこの部分は俺が鍛えたわけじゃねえんだが・・・そこは別にいい。修行は順調に進んでるって事で問題ないな?」


「ああ、今戻しても問題無いくらいだ。」



「そりゃよかった、んじゃ後1ヶ月頼むわ。」






「後1ヶ月か・・・時が過ぎるのは早いな。」



  



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