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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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24話

「断らせてもらう。」


メリッサはバッサリと断った。

バイスは少し目を丸くして理由を聞かせてもらえますか、と問う。


「バイス殿、僕は常々自分が未熟だと思っている。

一人では起きれないし、師匠にはまだ遊ばれている。

取り柄といえば筋力と体力くらいだし、教育は受けてる物のいまだ無知だ。

確かに巨人族の先祖返りなのかもしれないが自覚する事は少ない。

そんな人間は崇められる資格も無いし、そもそも他人に崇められるなんてガラじゃない。

そして一番の理由はその話、受けてしまったらこの二人・・・アンジェとデイジィと結ばれる事は叶わなくなってしまうのだろう?」


「そうですな、現人神とは理想の偶像であるべきものですから。」


「その一点だけで断るには十分だ。・・・試すのはやめてもらおう。」


バイスは初めてニヤリと笑った、悪戯がばれた小僧のような笑みだ。こちらが彼の素なのだろう。

顔を赤くしたアンジェとデイジィは話についていけなくて呆然としている。


「バレましたか。無知だなんてとんでもない、その歳で腹芸もこなせるとはますます将来が楽しみですな。」


「極端に言ってしまえば力が強いだけの人間をドワーフ達が自分達の信仰対象として認めるわけが無いだろう。」


「然り、然り。ですが、他の神で言う所の神官、くらいの扱いをされる事は覚悟しておいた方が宜しいかと思います。巨人の血とはやはり我らドワーフにとって魅力的なものなので。」


「黙っていれば広まらない・・・」


「おや、知りませんで?こちらのギルドマスター殿が出した手紙で王都の鍛冶に関わるドワーフは粗方メリッサ殿の事をご存知ですよ。」


あの酒飲み親父ろくな事しねえ、アンジェとデイジィは思わず頭を抱えた。


「・・・過ぎた事を言っても仕方ない。バイス殿、王都のドワーフ達に大した事無かったと伝えておいて欲しい。」


「ええ、ええ。将来有望な若者だったと伝えておきますよ。王都にいらっしゃるのを楽しみにしております。」


有無を言わさず部屋から出て行くバイスと弟子に今度はメリッサも頭を抱えた。ドワーフ、なんて話の通じない種族なんだ。





武器訓練所のドワーフがくしゃみをした。




            ~~~




「まぁ有名なバイス工房で作ってもらえるなんてよかったじゃない。」


会議室に残された微妙な空気を振り払拭するようにアンジェが言葉を発した。

曰く、王都でも有名な工房で主人が製作する武具は気に入られた冒険者しか手に入れる事ができないそうだ。


「気のよさそうな商人って感じだったけど、鍛冶屋とは縁の無い私達でも知ってるんだから相当なやり手なんだと思う。」


とはデイジィ。


結果的に見れば金貨82枚は大金であるがそれで信頼出来る前衛の装備が出来るなら安いもの。最後の問答については忘れる事にしよう、という結論に至ってメリッサはいつもの訓練へ、アンジェとデイジィは宿へと戻った。




             ~~~



師匠が遊びにいってしまった為、街の周りを走りながらメリッサは考える、

師匠はこれから遠距離武器を仕込む、といっていた。投槍はなんとなくわかる、普段長柄の武器を使っているからだ。だが弓は触った事すらない、確かに中距離、あるいは遠距離で使える武器があれば戦闘の幅が広がるだろう、と思ったことはある。だが現実に注文してしまうと上手く使えるか不安になってきてしまう。というか、そもそも師匠は弓を使えるのか?色々考えるが体を動かす方が楽だ、頭脳担当のアンジェかデイジィに相談しよう、メリッサはそう考えてスパートをかけた。




日が暮れるまで走って宿に戻るとマリーが表を掃除している所だった。


「あ、メリッサさん。おかえりなさい。」


彼女もこの数ヶ月で随分と大人びてきたように感じる。街の男が放っておかないだろう。


「ああ、ただいま。アンジェとデイジィはどうしてる?」


「アンジェリカさんは食堂で手紙書いてましたよ。デイジィさんは部屋に戻ってから出てきて無いので多分寝てるんじゃないでしょうか?」


分かった、ありがとう。と礼を言って一旦水を浴びに井戸へ向かう。ずっと走っていたので汗が凄い量だ。

汗を流して食堂に向かうと、マリーが言っていた通りアンジェが手紙とにらめっこしていた。此方に気づくと手招きしている。


「どうした。」


「カールから手紙がきたんだけどどう返事すればいいか分からなくって。」


読んでみて、と渡された手紙には貴族らしい長々とした前置きと、婚約者と喧嘩してしまって、いい仲直り方法はないか、という旨が書いてあった。

アンジェの怒りっぽさは半年前の告白以来なりを収めてるし、デイジィは元々怒る、という感情とは無縁の為、喧嘩した事の無い3人だから良いアドバイスが浮かばない。


「女将に聞いてみたらどうだ。」


「そうね、一番人生経験が豊富だし、ありがと。」


そんな事を話してるうちに夕食ができたらしい。

女将がお盆に載せて運んできた。


「今日はキノコたっぷりクリームパスタと茹で野菜だよ。おかわりもしっかり用意してあるからね。」


メリッサちゃん、デイジィちゃん起こしてきてくんな。と言われたので急いで起こしに向かう、せっかくの旨い料理が冷めては勿体無い。


デイジィの部屋をノックすると、意外にも返事があった。

大きな買い物をするので内訳書の計算と整理をしていたそうだ。


「冷めちゃうからはやくいこ。」


手を引かれて食堂に戻り、がっつり食べた後。今日はアンジェの部屋の番なのでそちらへ向かった。




          

             ~~~




風呂上りで真っ直ぐに下ろされたアンジェの眩いばかりの銀髪を丁寧に拭いているとアンジェが口を開いた。


「半年後が楽しみね。」


「ああ・・・なあ、アンジェ。」


「なあに?」


「今日ギルドマスターがこれから遠距離攻撃の手段を教えると言っていた、僕に使いこなせるだろうか。」


「投槍と弓って言ってたわね。大丈夫じゃない?メリィってば不器用そうに見えるけど結構器用よ。」


「そうだろうか。アンジェがそういってくれるなら大丈夫な気がしてきた。」


「金貨82枚分の働きはしてもらわないといけないからね。」


髪の毛はもう良いわ、寝ましょ。アンジェが言う。

二人でベッドに潜り込むとアンジェはエルフ特有の尖った耳をメリッサの胸に当てて目を瞑る。アンジェと眠る時はいつもこうだ。腕の中の女性を裏切らないように、明日からも修行を励もうと思い、メリッサも目を瞑った。



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