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鈍色のパラディン  作者: チノフ
序章
4/67

4話

今回は長めの設定が入ります。

「冒険者の手解きをしてあげるわ、感謝なさい」


シャントットがメリッサを連れて<神殿>に向かおうとするとアンジェリカが遮った。

ふむ、とシャントットは考える、彼女は気まぐれだし偉そうではあるが不誠実ではないしギルドランクも高い、任せてもいいだろう。


「良し分かった、支度金を渡すからこれで宿と防具も見繕ってやってくれ」


アンジェリカは鷹揚に頷いた。


「さ、まずは転職ね。ついてらっしゃい。」


自分の事などおかまいなしにギルドを出る彼女を慌てて追いかけてメリッサも外へ出た。

少女の小さい姿は人ごみに紛れ少し遠くに行っていたがスラムで鍛えられた足なら安易に追いつけるだろう。


「貴方、年齢はお幾つ?」


やっと追いついた所でアンジェリカが尋ねてきた。


「15・・・前後、最初の記憶はスラムだったからくわしくは分からない」


メリッサが掠れた声で答えると少女を少し驚いた風に目を丸くしている。


「あら、ちゃんと喋れたのね、黙って頷いてばかりだから喋れないかと思ったわ」


ケラケラと笑う、確かにスラムにいた時から喋る相手も殆ど居なかったし出てきてからも事務的な会話しかしていない。


「アンジェリカ・・・さん、なんで僕みたいな初対面の世話を引き受けたんだ、あんたに利益は無いだろう」


ケラケラ笑いが止まる、こちらの瞳を愉快そうにじっと見るアンジェリカ。


「アンジェでいいわ。ただの気まぐれ・・・もあるけれど、初心者に恩を売っておくのは冒険者の常識よ。」


スラムにおいて対価無くして取引は成立しない。唯一の話し相手だった元冒険者に話を聞いた時でさえ対価に銅貨を差し出したのだ。

彼は恩という言葉は知っていても受けた事も売った事も無い。表の世界は初めての経験ばかりで覚える事はたくさんある。

どこか不安になりつつも彼女の後を追った。


                  ~~~


教会をそのまま大きくしたような白亜の建物、これが<神殿>である。

中に入ると女性が一人、座っている。アンジェがギルドで受け取った冊子とカードをひったくって渡し、

字が読めないから説明をお願い。と言うと大銅貨を一枚テーブルに載せ、終わった頃に迎えに来ると言い残しさっさと出て行ってしまった。

女性は苦笑しながらメリッサを椅子へ促してから。


「それでは、この施設と職業や冒険者の基本的な知識についての説明させて頂きます」


と前置きして朗々と語り始めた。


<神殿>とはモンスターから得られる魔素を体に一定以上溜め込んだ後、自身の生き物としての位階を上げる為の施設である。

位階が上がる事を冒険者は転職と呼び、転職すると基本的な身体能力が増し、習得出来るスキルが増えるという事。

スキルとは武技、魔法と呼ばれ、自身の魔力や気力を消費し、身体能力の一時的な向上や強力な攻撃が放てるようになる。

例外的に修練したり人から習う、魔道書を読む等してスキルを習得する方法もあるが殆どは実践の中で習得し、反復する事によって熟練させる。

それぞれ最初の初心者<ノービス>から自分に合った一次職へ、更にそこから枝分れしながら、二次職、三次職、最終職まで転職が可能。

一度位階を上げると職業の選びなおしは出来ない。

位階が上がる毎に必要な魔素の量は大きく増える。

現在肉体に累積されている魔素と転職に必要な魔素の量はギルドか神殿にて測ってもらえる、ただし有料(銅貨10枚)。


ダンジョンと呼ばれる古代遺跡の他にも森や海でなんらかの魔力に当てられた突然変異のモンスターが出現する。これらには高額の賞金首がかけられる。

冒険者ランクはギルドや国に対する貢献や踏破した古代遺跡のランクによって昇級出来る。

冒険者ランクはFから始まりE・D・C・B・Aと続きAA・AAA・Sランクと続くらしいが現役の最高ランクはAAである。

昇級することによって使用できる施設やサービス等に影響する。

モンスターを討伐する事によって得られる物は魔素の他に形ある物として魔石、素材、一部のモンスターからは武具が得られる場合ある。

魔石や素材はギルドや関連施設で換金する事が出来る。

魔石とは無色の魔力を秘めた原石であり、これに魔法を込める事によって極めて利便性の高い道具になる。

モンスターが弱い程魔石の純度は鈍く、形も小さくなり、強くなるほど純度が高く、大きい魔石が手に入る、当然後者の方が価値は高い。

素材はそのモンスターの象徴的な物が多く、武具の材料になったり生活用品の材料になったりと用途は広い。例えばウルフを討伐すると牙が主に手に入る。

ダンジョン内で討伐したモンスターは素材や魔石等を残して消滅するがダンジョン外のモンスターは討伐後、処理しないと新たなモンスターの発生に繋がる。


基本的に獲物を横取りするような行為は禁止されているが、助けを求められた場合や壊滅の危機がある場合はその限りではない。

ダンジョン内での揉め事に関してはギルドは責任を負わないが、求められた場合中立の立場として仲裁役を引き受けてもらう事が可能。(ただし有料)

一部の施設内を除き町中で武器を抜く事は硬く禁じられている、ただし暴漢に襲われた際の自衛等についてのみ許される。

犯罪等、国の法を破った場合、国からの処罰に加えて冒険者ギルドからも処罰を受ける。内容次第ではギルド追放もある。




メリッサは分からない単語や理解出来ない事柄が出る度に質問したが女性は根気良く分かるまで説明してくれた。

彼は無知ではあるが頭が悪い訳ではない。物覚えも悪くない、聞く体勢も真面目だし好感が持てる、浮浪者のような臭いと格好は頂けないが・・・


話が終わり、転職の儀に移りましょう、と言った所で丁度アンジェが帰ってきた。本屋で勉強用の絵本を買ってきてくれたらしい。

絵本と言えど安くは無いと聞いたが元スラム住人の自分とBランク冒険者の彼女の経済感覚は違うのだろう。


アンジェに礼を言いながら先導する女性について行くと大きな祭壇が見えてきた。

この祭壇は体に累積された魔素を活性化し上位の職へと体を作り変えるものだそうだ。


祭壇の上に上ると横になるように言われた、肉体が昇華した際に感覚が一時的に狂うので横転を防ぐ為らしい。


「それでは準備は宜しいですか?」


少し硬い声で問われるが、大丈夫だと答えると女性は静かに、歌うように詠唱を紡ぎ始めた。

はるか昔、神々がまだ地上にいた頃の言語である。ウルフから得た魔素が体から漏れ出し、色を変えて再び体へと吸収されて行く。

幻想的な光景はしかし、3分も経たずに終わりを迎える。


メリッサは目を瞑りながら、確かに体の内側が変わっていくのを感じた。

浮いたアバラも窪んだ目元もそのままであるが、強いて言うなら筋肉の質が上がるという感覚だろうか。

五感が研ぎ澄まされ、鋭敏になったのを確かに感じた所で詠唱が終わりを迎えた。


「お疲れ様です、これにて転職の儀を終わりました。」


気をつけて立って下さい、女性がそう言ったので恐る恐る立ち上がろうとすると少し平衡感覚に違和感を感じたが無事に立って祭壇を降りた。


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