23話
翌朝、いつものように起こしてもらって朝食を頬張り、昼食を持ってギルドへ向かうとアンジェとデイジィも話があるから一緒会議室へ来るように受け付けで伝えられた。
今までこんな事はなかったのに、と怪訝に思いながらも会議室に入るとギルドマスターと老ドワーフが一人、人間が二人いた。
「よう、朝から呼び出してすまんな。」
まったく謝ってない様子のギルドマスターにアンジェとデイジィは一応おはよう、不良中年。とかましておいた。
「おはようございます、師匠。僕はともかくアンジェとデイジィまで呼ばれた理由はそこのお三方が関わってるのでしょうか?」
「おお、そうとも。紹介しよう、ドッズの兄弟子で王都に工房を構えてるバイスとその弟子だ。」
老ドワーフが前に出て頭を下げる、アンジェとデイジィは驚いた。バイス、魔法使いでも聞いた事がある、王都でも最高クラスの職人だ。
「バイスと申します、巨人の申し子よ。」
「この通り巨人信仰の信者でな、本当は偏屈な職人気質で頼まれても相手が気に入らなきゃ滅多に依頼を受けない偏屈爺なんだがメリッサの血の事聞いたら一発でOKしやがった。」
「確かにワシは巨人を信仰しとりますがね、それだけじゃあ認めませんよ、王都くんだりから来たのはまず一目見る為、気に入らなければそのまま帰るつもりでしたが・・・」
失礼、といって服の上、足元からいつぞやにドッズがしたように体を触っていく。上半身は背が届かないので椅子に乗って確かめた。
「素晴らしい体をお持ちですな、まるで機能美を突き詰めた芸術品のような肉体だ。」
「ありがとうございます。ですがこれは師匠に修行をつけてもらっているおかげなのであまり自分だけが褒められる訳にはいけません。」
「ふむ、荒くれが多い冒険者の中でこれだけ礼節がキチっとしてるのも珍しい。それに巨人の血を差し引いても・・・分かりました。創りましょう。」
アンジェとデイジィは察しているがメリッサ本人はまだ何のことか分かってないのでマスターに尋ねる。
「師匠、いまいち話が飲み込めないのですが・・・」
「装備だよ、装備。確かにこの街にもそれなりの職人はいるが、これから高ランクダンジョンを目指すなら一級品の武具が無けりゃいかんからな。巨人の先祖返りってのを餌にして王都から来てもらったわけだ。」
昨日ベッドの上でデイジィと話した事を思い出す、確かにそろそろお金も貯まってきて装備を買おうという話をしていた。
「それは・・・バイス殿、お手数をおかけします。」
「構いませんとも、工房は弟子に任せても周っておりますので、自分は半隠居みたいなものなのですよ。
して、予算はどれくらいでしょうか。」
今までの好々爺とした態度を崩して職人としての顔を覗かせるバイスが問うとギルドマスターが横から口を出した。
「メリッサ、アンジェリカ、デイジィ。お前らの貯蓄全部吐き出すつもりで言え、バイスがやる気になってるんだ。こんな機会そうそうない。」
メリッサとアンジェは振り向いてデイジィを見た。金勘定は彼女の仕事だからだ。
「えーと、アンジェが金貨22枚、私が25枚、めりーくんが20枚、仮パーティとしてのプール金が15枚、会わせて金貨82枚・・・です。」
「ほう、そのランクでよくぞそこまで貯めましたな。分かりました、それだけあれば装備一式揃えれます、最高の物をお創りしましょう。期間はそうですな・・・半年弱の納品を予定で。」
ちなみに武器は何を?と問うバイスにギルドマスターがまた口を挟んだ。
「大振りのハルバード、それにタワーシールド、サブウェポンに片手剣が習熟済みでこれから弓と投槍を叩き込む予定だ。こいつは本当にバカ力だから頑丈に作ってやってくれ。」
「まるで動く要塞ですな、武器に魔法を込めなければ予算内で全て作れるでしょう。」
では細かい所を詰めていきましょうか、とバイスが言うと俺はもう必要ねえな。と言ってギルドマスターは退出していった、また娼館に遊びに行くのだろう。
「それではまずは全身を測らせてもらいます。おい、仕事だ。」
ずっと黙って立っていた弟子二人にバイスが声をかけると手早く全身のサイズを測り始めた。バイスは老眼なのでね、と言い眼鏡をかけて紙束とインク壷、羽ペンを取り出した。
「幾つか聞きたい事がります、そのままで結構ですので答えてください。」
「分かりました。」
「防具に関して希望のデザイン、象徴として使用して欲しい生き物なんかはありますかな?無ければこちらで勝手に決めますが。」
「特に無いのでお任せします。」
「了解です、次にハルバード、タワーシールド、片手剣の形状について希望があれば。」
「ハルバードは両刃で槍部分を頑丈に
タワーシールドは地面に刺すスパイクがあれば
片手剣はシミターで
細かいデザインはお任せします。」
さらさらと紙に書いていく。
「ふむ、では弓と投槍についてですが・・・まだ訓練なされてないとの事ですので一応こちらで決めさせていただきます、弓は他の装備の邪魔にならないように小型の合成弓、投槍は頑丈さを重視したシンプルなもので問題ないでしょうか?」
「構いません、お願いします。」
かしこまりました、装備についての質問は以上です。と眼鏡を外して言うと
体を向き直してその小さな瞳でメリッサの黄金色の瞳を真っ直ぐ見つめて問うた。
「これは装備とは関係ありません、拒否されても承諾されても装備は最高の物を仕上げましょう。
ですがこれは一人のドワーフとしてお尋ねしたい。
ご存知でしょうが我らドワーフは巨人を信仰しております。
その御身に流れる巨人族の血、我らの現人神として崇めさせて頂いてもよろしいか。」




