幕間~メリッサの荒稼ぎ~
「AaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaLaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!」
メリッサは気力を乗せて<咆哮>する。言葉自体に意味はない、ただこの層全てに届けばいい。モンスターよ、僕はここにいるぞ。
ここはDランクダンジョンの3層、遮蔽物が少なく不意を突かれる事が少ないのでメリッサはここを好んで狩り場にしている。
早速突進してきたブラウンボアと呼ばれるレッサーボアの上位種を大盾で受け止める、衝撃を地面に逃がすように。完全に威力を殺しきったら次は盾で殴り、怯ませた所を斧槍の刃の部分で首を切りつけ、絶命させる。後は雪崩の様に押し寄せてくるモンスター達の処理だ。
甲虫型のモンスターは斧槍で叩きつければバラバラになって絶命するから楽だ。
人型のモンスターは機動力を奪って骨を避けて首元を切りつければいい。
四速歩行型のモンスターは頭が一番手前に来る為盾で殴りつけると気絶、あるいは怯みやすい。
そしてDランクダンジョンで初めて出てきた死霊―以前デイジィが召還したものに酷似している―は右目に宿るサイクロプスの瞳に捕捉され、槍で突かれて消滅する。霊、と聞くと物理攻撃は聞かないように思えるが、姿が見えないだけで若干の気力を纏わせた物理攻撃で倒せるのだ。また、一定時間霊を捕捉できるようになる薬の類も存在する。
後は流れ作業に近い、命のやり取りをしている緊張感を忘れないように処理していく、こういう時モンスターの死骸が残らないのはありがたい、もし死骸が残っていたら武器を振るうスペースがなくなってしまうからだ。
寄って来る数が少なくなってきたら再度<咆哮>する、まだまだ時間はある。
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都合8度の<咆哮>の後、懐からギルドマスターに借りている懐中時計を開くと午後3時を指していた、これから最下層のボスを倒して戻ればいいだろう。メリッサはそう判断すると山のように積もっている魔石と素材を大きい麻袋二つに詰め込んで下層へと降りていった。
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夕暮れ時、青年は有頂天だった。
農家の三男坊の彼は田舎の生活を嫌い、実家からくすねた銀貨を片手に冒険者を夢見て<ベティラード>へとやってきた。
そこで出会った駆け出し冒険者達とパーティを組み5回目のトライでFランクダンジョンを踏破したのが今日だ。
ギルドの安いエールを煽りながら周りに自慢する、無論周りは先輩冒険者ばかりなのだがアルコールに毒された脳はそんな事を判断する余裕も無い。先輩も始めて踏破した時は似たような物だったので暖かく見守ってくれている。<ベティラード>は田舎故に荒くれが集まる冒険者でも比較的穏和な人が多い。何度目になるだろうか、自らの武勇伝を語っているとギルドの扉が開いてとんでもなく美しい少女二人が入ってきた。
慌てて隣にいた年かさの冒険者に聞く、あれは誰だ。ああ、アンジェリカ様とデイジィ様だよ、二人とも高ランクで滅法強い、俺としてはもうちょい肉付きがいいほうが好みなんだが。
後半はどうでもいい、聞いていない。アルコールに侵食されてる脳でお近づきになれる方法を考える。二人は受付で2,3言葉を交わすと此方へ歩いてくるとエールを片手にずっと空いていたテーブルに座った。
あそこは彼女達の指定席みたいなもんなんだ、年かさの冒険者はおせっかいにも教えてくれる。どうにかして知己を結びたい。悩んでいるとギルドの扉が開いて新たに人が入ってきた。そんな事に気づく事もない青年は少女達を見つめた、すると花の開く様な笑顔でこっちに手を振っているではないか。
脈ありか!思わず席を立つ、向こうも席を立ったこれは違いない!気に入られた!。だが現実は無常、青年の横をアンジェとデイジィは通り過ぎていき、さっきギルドに入ってきた大男の首に抱きついた。なんだよあのでかぶつは。と愚痴りながらエールを煽ってると先ほどの年かさの冒険者が教えてくれた。
あれはメリッサっていってな。アンジェリカ様とデイジィ様の寵愛を受けてる駆け出し・・・だった筈だったんだが、化けモンみたいにつええ、前もお前さんみたいにあの二人にちょっかいかけようとした奴がいたんだが軽くボディに拳を入れられただけで吐瀉物撒き散らして悶絶してたよ。それに見てみろ、あの袋。あの麻袋二つとも全部魔石と素材で埋まってるんだ。悪いが坊主、身の丈にあった冒険をする事をおすすめするぜ。
そういって年かさの冒険者は宿に帰っていった。
しかしダンジョンを踏破して気の大きくなっている青年はメリッサにつっかかっていく。
「やい、でかぶつ、そう、おめえだよ。何美少女侍らして調子のってんだ。Fランク迷宮を踏破したんだぞ。俺だってお前みたいにちやほやされる権利はあるはずだ!」
後ろでは美少女ですって、照れちゃうわね。年齢考えましょう、アンジェ。なんてやり取りを二人がしてるが聞こえていない。
脳みそアルコール漬けの彼は支離滅裂ながらメリッサに思いつく限りの言葉をぶつけた、メリッサはふむ、と頷き。
「つまり今僕は喧嘩を売られてるという事で間違いないのか」
「おうとも!未来の大英雄様がお前みたいなでくの坊一撃で伸してやる!」
いくぞ!と殴りかかった青年はしかし、手加減された一撃で伸されたのは言うまでも無い。
ニーニャに今日の収穫品を渡して口座に入れておくよう頼むとアンジェとデイジィを伴ってさっさ出て行った。
3人の距離が最初より縮まってるな。なんてニーニャは思うけれど、現実逃避してもしょうがない、伸された青年を放置して魔石と素材の分別に入った。
これもまたギルドの日常である。




