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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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19話

入浴を終え、用意された服を着ていると侍女が食事が出来た旨を報告し、食堂へと案内された。

急いで作られた為か豪勢ではなかったものの、十分に美味しかった、コックの腕が良いのだろう。カールは自室で食べたらしい、逃げたな。


食事を終え、来客用の一室に案内されると大きなベッドが一つしかなかったので3人は並んで横になった。クレメンテの好意にメリッサはもう諦めの境地である。



メリッサは目を瞑って今日の事を振り返る。<グラディウス>につくまでの事はいい、修行の延長のようなものだ。主に思い返すのは風呂場での出来事、二人の想い、自分の想い。時折師匠が教えてくれた男女の仲についてを思い出す、聞いた時は意味が分からなかったが、今なら少し分かる気がする。生き物とは本能的に異性を求めるものなのだろう。今はまだ両隣で寝息を立てる二人に守られている立場だが、早く強くなって守れるようになりたいと想う。早く帰って修行を再開せねば。そう思いながら眠りの闇へと落ちていった。




              ~~~



「起きなさい、メリィ。」


相変わらず一人で起きれないメリッサはアンジェの声で目を覚ました。


「ああ・・・おはよう、いつもすまない。」


「はいはい、おはよう。私とデイジィはこれから買い物に行くから別行動、メリィはカールが街を案内してくれるそうよ。」


言うなりアンジェはさっさと部屋を出て行ってしまった。のそりのそりとベッドから降り、枕元に置いてある服に着替えながら窓から城門の方を見るとアンジェとデイジィが外に歩いていくのが見えた。

ドアを叩く音がすると返事をする前に若干ハイテンションのカールが入ってきた。


「おはよう、メリッサ。いい朝だね。アンジェとデイジィは案内不要というのでね、よかったら一緒に街を散策しないか?」


「ああ、よろしく頼む。何分初めての都会だからな、色々見て周りたい。」


「任せてくれたまえ、生まれも育ちも<グラディウス>、子供の頃には何度も城を抜け出して街を練り歩いた僕に案内できない場所は無いさ、父には怒られてばかりだったがね。」


「それは頼もしい、ところでカール、僕達は友人だな?」


「なんだい突然、勿論だとも。」


「僕にとって初めて出来た友人だ、大事にしたいと思う。」


「要領を得ないね、一体何が言いたいんだい?」


「だがもしカールが異性関係で揉めたとして、僕は絶対に助けないぞ。昨日逃げたのを忘れないからな。」


「あー・・・ほら、そこは馬に蹴られたくなかったんでね・・・だめかな?」


「駄目だ、・・・此方の準備は出来た。行こう。」


むっすりとしたメリッサはカールを伴って部屋を出る、ポーズだけだったらしく城門を出る頃には機嫌は戻っていた。



         

            ~~~



「何か見たい所はあるかい?」


「そうだな、冒険者ギルドを見ておきたい。」


「分かった、中には入った事無いが場所は分かるからいこう。」


道中屋台で串焼き2本買い、歩きながらカールは口を開く。


「あの後・・・僕が逃げた後だが、何か進展はあったかい?」


「よくもおめおめと・・・まぁいい、一応将来婚姻を結ぶ約束をした。」


「へえ!それはめでたい!式には私も呼んでくれよ?私も婚約者がいるのでね。参考までにどんなプロポーズをしたか教えてくれないか!」


意気揚々と昨日の顛末を聞いてくるカールを無視して進んでいると一際大きい建物が姿を現した。人だかりが出来ている。


「あれがこの街の冒険者ギルドさ、所属している冒険者は300人程。」


「あの人だかりはなんだ?」


分からない、近づいてみよう。というカールと共に人だかりを掻き分けて進むと中心には丸太をそのまま縦にしたようなテーブル、何かを喋ってる小男と得意顔で木箱に座ってる2mを超える大男。最前列まで行くと小男が喋ってる内容がはっきり聞こえてきた。


「さあさあ次の挑戦者はありませんか!ルールは簡単、挑戦料銀貨2枚!こちらに居る<グラディウス>が誇る力持ち、冒険者ガデルをアームレスリングで倒せばこれまでの挑戦者が置いていった銀貨が丸まる手に入ります。今日は挑戦者が多かったので既に銀貨は100枚を越えております!腕力に自信のある方、一勝負どうでしょう!?」


成る程。と変装用の帽子を深く被りながらカールが頷いた。


「つまり賭け腕相撲という事だな。大方何も知らない旅人から巻き上げているんだろう。ガデルという男、聞いた事がある。この街でもトップクラスの冒険者だった筈だ。」


「そうか、実は僕の財布は小遣い制でな。街を巡るには丁度金が足りんと思っていたのだ。行って来る。」


財布から銀貨2枚を取り出すと軽くなった財布をカールに預けて前へ出た。


「おおっと!お兄さん挑戦ですか?」


「ああ。銀貨2枚でいいんだな?」


「はい、はい。確かに頂きました。

皆さん!新たなチャレンジャーの登場です!拍手を!」


ガデルに比べると劣るものの、力強そうな若者が挑戦するのを見て周囲は沸き立つ。

メリッサの首にかかるギルドカードを目ざとく見つけたのだろう、ギシリと音を立て木箱からガデルが立ち上がり胸倉を掴むようにメリッサのギルドカードを引っ張り出して見つめた後興味を失ったのか、手を離した。


「んだよ、<ベティラード>のEランク。正真正銘のペーペーじゃねえか。」


ま、銀貨2枚落としてくれるんだから客だな。と言いながらガデルは丸太テーブルの向こう側に立った。


「挑戦者は<ベティラード>からやってきた冒険者!ランクはEとの事ですがこの体つきを見るに勝負は分からない!両者準備を!」


勝負は分からない!とはいうもののガデルがBランク冒険者なのは周知の事実だ、ああ。かわいそうに、おのぼりさんがむしられちゃうんだわ。そんな空気が流れ始める。



そんな空気は気にせず言われるがままに台に肘を乗せがっぷりと両者の手を握り締めるとガデルが笑いながら言った。


「ハンデだ。5秒間は好きなようにやらせてやろう。」


獲物を見つけた笑いだ、スラムの大人を思い出す。あの頃とは違う事を自分に正銘する為にあえて言う。


「ならこちらもハンデを出そう。10秒好きにするといい、なんなら両手でかかってきて構わない。」


ガデルから見て狩られる側の獲物が放った言葉にガデルの青筋が立つ。


「言うじゃねえか、ならこっちのハンデは無しだ。1秒でその腕へし折ってやる!」


このままだと殴り合いになりそうなので小男が慌てて始める。


「そ、それでは試合を開始します!両者OK?3 2 1 Fight!」


瞬間、ガデルの筋肉が膨張した。生意気なルーキーの腕をへし折る為だ。


だが動かない、おかしい。全力を込めている筈なのに。


「そろそろ10秒経つぞ。覚悟はいいか」


淡々というメリッサにさすがにガデルも危機感を感じた。慌てて両手で押し込もうとする、しかし無常にもメリッサの腕はピクリとも動かない。既に顔は真っ赤である。


時間切れだ、とメリッサが言った途端、ガデルの腕は傾いていく、ゆっくりと。しかし確実に。

パタリ、と静かな音を聞いた人だかりは爆発したように盛り上がった、過去負けた事の無いガデルが敗北したのだ。今まで負けた力自慢の冒険者達も鬱憤を晴らすように拍手した。


一方のガデルと小男は放心状態である、上には上がいるこの稼業ではあるがまさかEランクのルーキーに負けるとは思わなかった。




放心状態の小男から銀貨の入った袋を受け取るとメリッサとカールは喝采する群集を押しのけて去っていった。









余談ではあるがガデルはこの屈辱をバネに冒険者として更に上を目指していくことになる。

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