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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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16話

「<おもし>は外して行け、なるべく早く行って早く帰って来い、まだまだ修行の続きはあるんだからな。」


直して貰った馬車を引き取り、御者と合流していざ出発。という時になって見送りに来たマスターがそう言った。

一旦外して馬車の一角に置かして貰って気を取り直して出発した、体が軽い。


馬車を引きながら綽々と街道を駆けるカールと御者は驚いた、馬の代わりなんてとんでもない。馬より遥かに速いではないか。小窓の外の風景が矢のように過ぎ去っていく。


「本当に彼は人間なのかい?」


カールがアンジェとデイジィに聞くと微妙な顔をして黙り込んだ、深くは聞いてはいけない所だったらしい。

晴天の中、御者に道を指示されながら颯爽と駆けて行く人力馬車が時折行商人を抜き去って行く様は確かに非現実的であった。




             ~~~



順調に馬車を引きながら走るメリッサは、時折御者に道が合ってるか聞きながら進んでいく。

このペースなら1日もかかりませんね。と御者がカールに伝えた。

出発から4時間、既に全体の半分近くは来ている。このまま山道を抜けてしまえばもう<グラディウス>が見えてくるだろう。

高級馬車故に揺れが少ない為デイジィは横になって寝ている。元々彼女は夜行性だから昼間する事が無ければ寝ているのが常だ。

メリッサ様々だな、とカールも目を瞑ってゆったり座っていると山道の半ばで急に馬車が減速、停止した。

何事かとカールが御者台に身を乗り出して尋ねた。


「何があっ…た?」


御者台に身を乗り出した所で見上げるほどの大きな岩が山道を閉鎖しているのが見えた。

周りには行商人だろうか、幌馬車がいくつか留まっている。困り顔で話をしている人達が見えた。

思わずカールは馬車から身を降ろして商人達に問うた。


「これはなんだ、岩なのは分かるがなんでこんな所に・・・」


たまたまカールの事を知っている商人が代表して応えた。


「これはこれはカール様・・・おそらく落石でしょうなぁ、この山道が使えないとなると森を迂回しなければなりません、二日近く余分にかかってしまうのでなんとか向こう側にいけないものか、他の商人たちと話しておった所なのです。」


「そうか、ありがとう。こちらに魔法使いが二人いるからなんとかならないか聞いてみよう。」


「おお、ありがとうございます。」


馬車にひらりと戻ったカールがアンジェに尋ねた。


「君も見ただろうが大岩が道を塞いでしまっている、魔法の力でなんとかならないだろうか?」


「端から少しずつ削っていけば何とかなるけれど・・・私もデイジィも直接的な破壊魔法を行使するタイプじゃないからメリィに任せた方が早いわよ。」


ほら、とアンジェが言うと丁度メリッサが大岩に近づいていく所だった。


「そんな馬鹿な、あれを力でどうにかできるならそれこそ人間じゃない。」


「人間だけれどただの人間じゃない、って所かしら、ほら。デイジィ、起きなさい。ちょっと話があるわ。」


「うーん…なぁに。眠いんだけど…。」


「カールにメリッサの事話していいと思う?」


「いいんじゃないかな、カールはもうめりーくんの友達なんでしょ?」


「そのつもりだ、もし彼に秘密があったとしても公言しない事を約束するよ。」


秘密にしてる訳じゃないんだけどね、と前置きしてアンジェは言った。


「巨人族って知ってる?そう、神話に出てくるその巨人族。メリィはその先祖帰りらしいわ。だから力が凄く強い、その上に更にみっちり鍛えてるから純粋な膂力だけで言えば勝てる人いないんじゃないかしら。」


力強いのは知っていたがそこまでとは思わなかったカールは驚いた。

歴史の勉強をしているカールは勿論巨人族の事も知っている、彼らが数千年前に滅びた事も。

そんな話をしていると丁度岩を叩いたりして確認していたメリッサが馬車まで戻ってきた。


「カール、この岩は横に退けても構わんか?」


「あ、ああ。迂回すると時間がかかるし、何よりこの山道は馬車が通れる唯一の道なんだ、このままだと物流に支障が出る。」


「分かった、何が起こるか分からんから他の人達に下がるように言ってくれるか、裏側にも人がいるみたいなんでな、僕はそっちに言ってくる。」


言うや否や馬車から飛び降り、岩の横を登って向こう側へと消えるメリッサ。カールも馬車を降り周りの商人達に話しかけた。


「連れがなんとか出来るらしい、危険があるかもしれないので皆一旦下がってくれ。」


「おお、おお。助かります。聞いたか皆!カール様がなんとかしてくださるそうだ!馬車や荷物を一旦退かせろ!」


なんとかするのは僕じゃないんだが・・・と思っていると向こう側の人に説明を終えたのかメリッサが戻ってきた。


「説明してくれたか、感謝する。…服を汚したくないからな、ちょっと持っていて欲しい。」


言うやいなやベルトを外し、ローブを脱ぐとカールに渡して下がるように言った。


上半身裸の男が岩に近づいていくのを見て商人達は驚いた、てっきり魔法の力でなんとかするのだと思っていたからだ。


肩をぐるりと回すとメリッサは岩の右側に屈んで岩の端に手を引っ掛けた。

そしてスゥと軽く息を吸い込み全身に力を込める。ミシリ、筋肉が膨張する音がする。




「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」




大絶叫だ、空気はビリビリと震え、周りにいた人達は思わず耳を塞いだ。

大岩が浮き上がったと思うと、岩の左端を基点にしてくるりと山道の横へ消えていった。




足止めを食らっていた商人達は思わず歓声を上げた。


            



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