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鈍色のパラディン  作者: チノフ
序章
3/67

3話

試験を終えてギルドロビーにあがるとニーニャが小走りで寄ってきて垢塗れの手を取ってぶんぶんと振り回した。


「試験合格おめでとう!これから頑張ってね!」


そして1枚のカードを手渡して<ノービス>に転職してくる様に伝えた。

他人に祝福された事も初めてだ。

近くで小奇麗な異性を見たのも初めてであるし、異性との接触自体が始めてあった。

少年の今までの生活はスラムという悪環境で完結し、他人は信用できない、そんな物だったのだ。

そんな少年が出来る事は呆然と握られた手を見ながら困惑する事だけだった。


「それでは最終の手続きに移らせていただきます。」


その声にはっと我に帰った少年は一度周りを見回した。

ニーニャがいつのまにか席に座り、その後ろに遅れて上がってきたシャントットが腕組みしながら男臭い笑みを浮かべている。

慌てて席に座る少年の姿にニーニャは初めて年相応の姿を見た。


「転職についてですが、モンスターを倒すと魔素と呼ばれる物が体に溜め込まれます。

 一定以上の魔素を体に宿した状態で<神殿>で手続きを行い祝福を受ける事によって肉体を昇華させる事を転職と呼びます。

 同時に先程渡したギルドカードに名前・拠点・クラス・ランクが書き込まれこれが貴方の身分証明になります。」


ニーニャが質問はありますか?と問うと少年は名前がないと告げた。

名前を捨てて冒険者になろうとするヒトは珍しくない、そういった場合自分で付けるのが一般ではあるのだが。

少年には教養というものが抜け落ちている。自分では付けれないと判断したニーニャはギルドロビーでエールを煽っている友人を呼んだ。



              ~~~



アンジェリカ・リーフテイルはBランク冒険者にして補助系魔道師の3次職<ワイズマン>である。

全身銀と白でコーディネートされた彼女はまるで雪妖精、とは彼女にあこがれる冒険者の言だ。


そんな彼女がギルドロビーでぬるいエールを煽っていると自分の担当であるニーニャに呼ばれた。

何事かと思えばニーニャの対面に座っている小汚い冒険者見習いに名前を付けて欲しいとの事だ。

ニーニャとはそれなりに親しい仲であるし深くは聞かずエール5杯で手を打つというと渋い顔をされたが了承を得た。


名前だけの自己紹介をして対面に座ると少年は神妙な顔をして頷いた、

簡易な詠唱の後<運命>の魔法が起動される。

カード1枚1枚に様々な草花が描かれている占いに使われるお遊びのような魔法だ。

7×7、計49枚の魔力で構成されたカードがふわりと浮き上がる。

その初めて見る幻想的な光景は少年の胸を強く撃った。



「――さあ、選びなさい。」



鈴を転がしたような少女の声に自分を取り戻した少年はおそるおそる中央よりのカード1枚触れた。



「貴方が引いたカードは<メリッサ>、花言葉は同情、ある意味貴方にお似合いの名前かもしれないわね」



ケタケタと嘲笑う彼女だが不思議と怒る気にはならなかった。

アンジェリカは笑っているが嫌な笑い方ではない、スラムで獲物を見つけた時の大人の笑みの方がよっぽど醜かったからだ。


アンジェリカを窘めながらニーニャが言う。


「メリッサってちょっと女っぽいけど・・・君はそれでいい?」


少年は頷く、メリッサなら自分も知っている、飢えを凌ぐのに何度もお世話になったのだ、嫌いな訳が無い。自分はこれから名無しの浮浪者ではなくメリッサという人間として生きていくのだと考えると心躍るくらいである。

嬉しそうな顔で握り締めた右手を見つめているメリッサの顔を見てアンジェリカは笑みを一層強くした。


「ニーニャ、これから彼の予定は?」


登録用の最後の空欄にメリッサ、と書き込みながらニーニャは答える


「えっと、後は<神殿>で転職して終わりかな、禁止事項とかはこの冊子に書いてあるから後で目を通しておいて。」



字が読めない事も忘れてメリッサはギルドカードと冊子を受け取ると大きく頷いた。

これからは残飯を漁る鼠ではなく人間として生きていけるのだ。大きな喜びと共にまだ何も書かれていないギルドカードを首から提げた。


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