14話
「そういえばずっと着けてるその装飾品はなんだい?」
大衆浴場からの帰り道、ずっと気になっていた事をカールは聞いた。
頭に巻いてあるベルトを外して渡すと余りの重さにカールは思わず地に落とした。
「修行用の<おもし>でな、師匠との約束で基本的に寝る時以外は外してはならんのだ。」
落ちたベルトを拾い、頭にしっかり巻きなおしながらメリッサは言った。
「凄いな、そんな物をたくさんつけて生活しているのか・・・」
「僕には少し人と違う所があってな、慣れればどうということは無い。」
宿に帰ってくると3人の女性の姦しい声が聞こえてきた。
「帰ってきているようだ、紹介したい。中に入ろう。」
ガチャリ、と扉を開けて中に入ると声が一旦止んだ。
「あらメリィ、今日は遅かったのね。」
「めりーくん、おかえりなさい。」
「メリッサさん、お疲れ様でした!」
3人の女性・・・少女達がメリッサの帰還を歓迎すると、
カールは肘で突付いて、意外とモテるんだな。というとそんなんじゃない。と顔を赤くした。
「カール、紹介しよう。彼女がマリー、この宿の娘さんだ。」
「ふわー、王子様みたい。マリーっていいます、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく頼むよレディ。」
次にアンジェの方を向き、
「こちらがアンジェリカ、先輩の冒険者で、魔法使いだ。面倒見てもらっている。」
「よろしくね。」
「よろしく・・・何処かで会った事がないかな?」
「ふふ、口説かれてるのかしら。」
最後にデイジィの方を向いて。
「こちらがデイジィ、同じく先輩の冒険者で、魔法使い。彼女にも世話してもらっていて、一応アンジェとデイジィと僕の3人で仮パーティを組んでいる。」
「デイジィです、よろしく。」
「こちらこそ、よろしく。」
最後にカールの肩に手を乗せ、
「彼はカール、馬車が横転して困っていたからな。馬車をひっくり返して、そのまま街を案内してきた。」
「カール・グラディウスだ、今日は視察の為に来たんだが馬車が横転して馬が駄目になってしまってね、メリッサが助けてくれたんだ。」
グラディウス、と聞いて三者三様の反応を見せた。
マリーは慌てて失礼しました!と立ち上がり頭を下げ。
アンジェは僅かに目を見開き。
デイジィはなんのリアクションも見せない。
「クレメンテ老は元気かしら。」
次に口を開いたのはアンジェだった。
「父をご存知で?」
「何度か世話になった事があるわ。もう10年以上も前の事だけれど。もしかしたらその時に会ってたのかもしれない、親が没落貴族でね、アンジェリカ・リーフテイルよ 。改めてよろしく。」
この世界において家名は貴族や元貴族、街の有力者が持つ。金銭で買う事も出来るので一部の商人が箔付けに持つ事も多い。
「デイジィ・ブラッドニールです、当時はアンジェの侍女をしていたのでもしかしたら私とも会っていたかも。」
「ああ、リーフテイルとブラッドニールの・・・これは失礼しました。」
「敬語はよして頂戴、もう家は没落して今は唯の冒険者よ。」
「分かったよ。気分を害したなら謝罪しよう。」
そんな怒りっぽくないわよ。というアンジェにデイジィとメリッサは十分怒りっぽいと言いたかったが言うと荒れるので言葉を飲み込んだ。
そうしているうちに、マリー!配膳手伝いなさい!、と厨房から女将が威勢良く言ったのでマリーは慌てて厨房に引っ込んで代わりに女将が出てきた。
「本来貴族様にお出しするようなもんじゃあないんですけどね、メリッサちゃんが良く食べるので量だけは作ってありますのでしっかり食べていってください。」
「謙遜する事はないわよ、ここの食事はすっごくおいしいんだから」
とはアンジェ。
大きなお盆を抱えたマリーはまず普通の大きさのお皿をアンジェとデイジィ、カールの前に置いて一度厨房に戻った後、メリッサ用の倍以上大きいお皿をメリッサの前に置いた。
「今日の夕食は具沢山馬肉のシチューと取れたて野菜のサラダ、パンになります。おかわりはたくさんあるので言ってくださいね。」
ジャガイモやニンジンがごろごろ入った赤茶色のシチューはふんわり湯気を立てている、サラダは瑞々しく。パンも焼きたてなのか、少し熱い。
各人己が信仰する神に糧が与えられる事を感謝し、食事に手をつけた。
メリッサだけは信仰する神を持たないので、女将に感謝した。
「旨い!実家でもこんな旨い料理は中々食べたことが無いよ!」
「言ったろう、風呂に入った後は飯が旨くなると。それにここの食事は旨い事で評判なんだ、合わされば旨くない訳が無い。」
「うーむ、これだけ旨い食事が食べれるなら実家に大衆式の風呂を設置してもらおうか・・・」
真剣に悩むカールに思わず3人は笑う。
ああ、そうだ。とメリッサが話を変えた。
「明日、カールと御者を彼らの街に送るから数日空ける事になる。」
「修行はいいの?」
「師匠から許可はもらっている、問題ない。」
ふーん、とアンジェは隣のデイジィとアイコンタクトを取る。
デイジィが口を開いた。
「めりーくん、それ私達もついていっていい?」
「それはカール次第だが・・・カール、聞いてるのか。」
「え、ああ。このシチューが旨すぎてまったく話を聞いて無かったよ。なんだい?」
「二人が明日ついてきたいというのだが大丈夫だろうか?」
「馬車には空きがあるからね、重量分メリッサの負担が増える事になるが君が問題なければ構わないよ。」
「失礼ね、そんなに重く無いわよ。」
「帰りもめりーくんに運んでもらうね。」
ああ、カール。それは藪蛇だ。




